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今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第10回《前編》写真家 岩崎量示さん

旅に終止符、定住を決めた北の地で、朽ちゆく鉄道橋を被写体に

後編はこちら

プロフィール
いわさき・りょうじ/埼玉県出身。写真家として、北海道遺産「タウシュベツ川橋梁」(北海道河東郡上士幌町のタウシュベツ川に架かるコンクリート製のめがね橋で、旧国鉄の鉄道橋)を約10年にわたり撮り続ける。学生時代に旅にめざめ、郵便局の仕分け、皿洗いやライターの仕事などをしながら北海道や沖縄、四国など国内各地を巡る。2005年に上士幌町糠平(ぬかびら)に移住。もともと写真家志望ではなかったが、北海道に暮らし続けるために生業にしようと写真を学ぶ。撮りためたタウシュベツ川橋梁の写真が注目され、都心で個展も開催。公式サイト http://r-y-z.jimdo.com
岩崎量示さんのじぶん年表

星野道夫はアラスカだった。北海道なら自分でも…!

― 岩崎さんが写真家を志したのは、20代の後半になってからなのですね。

岩崎さん :実は今まで、自ら「写真家」と名乗ったことがないんですよ。本格的にカメラをやるようになったきっかけは、北海道に移住して、この地で暮らし続けるための手段を考えた末のことでした。野性動物などの写真で知られる星野道夫が僕のロールモデル。冒険家でもあった星野氏は、アラスカの原野で生活しました。いい写真を撮れれば彼のようにできる、北海道ならばアラスカよりハードルが低いのだから、自分にもできるんじゃないかと考えたのです。

原付で全国を旅していた頃。写真は西表島で。

― 確かに、アラスカの原野よりは…。では、住む場所とか、生活スタイルありきだったんですね。

岩崎さん :そうですね。前段に、学生時代から夢中になった旅がありました。僕の場合は国内ですけれど、原付や自転車でどこでも行きました。特に通ったのが北海道と沖縄。沖縄では石垣島でテント生活をしながら三線教室に通ったりしましたね。最低限のお金しかかからない旅ですが、それでもいくらか必要なので、旅に出ていないときは、バイトばっかりしてました。郵便局の仕分けに、皿洗いに、宿泊施設の住み込み、ライターもしましたね。大学を出ても就職が決まらなかったので、そんな日々を続けていました。

石垣島の八重山古典民謡教室で使った、三線の楽譜、工工四(くんくんしー)と三線。

― 立教の経済学部卒ですよね。

岩崎さん :はい。東京でふつうに会社に就職したら、そこそこ働き者のサラリーマンとしてやっていったと思うのですけど。…いや、どうですかね(笑)。

ビギナーズラックでパチンコ大勝ち!カメラ道具を揃える

これがパチンコの戦利品。ストロボのほうは今も活躍中。

― 旅をやめて定住されたのと、ときをほぼ同じくして、写真を生業にしてみようと思われた。

岩崎さん :そうです。定住しようと決めたからには、仕事がなくてはならない。僕は、自然と一体にとか、自然とともに生きるというのはよくわからないタイプなので、自給自足とかは頭になく、ふつうに、「仕事が必要だ」と思って。でも、住みたい場所はすごく田舎ですし、サラリーマンに転身するほうが無理があるように思えました。星野道夫のエッセイ「長い旅の途上」を読み返したりして、写真を仕事にしてみようと、心を固めてゆきました。ちょうど人生最初のパチンコで20万円も勝って、レンズやストロボを揃えることができました。

― あはは!パチンコでですか。

岩崎さん :ええ、パチンコで。でも、あれが最初で最後。以来一度もやってないんですよ。

― 要所要所で慎重というか、賢明なんですね(笑)。でも、定住する場所を見つけるのより旅をやめることを先に決めていますね。なぜやめることにしたのですか。

お遍路で、「旅する先に悟りはない」と思わされ、旅人卒業

岩崎さん :四国八十八カ所のお遍路を原付でまわっていたとき、僕と同じようにテント生活をしながら、折り畳み自転車で巡っている人と出会いました。僕より十歳くらいは年上でしょうか、白装束の男性でした。聞けばお遍路はもう13回目だと言います。徒歩、自転車、バイク、車といろんな手段を経験していて、八十八番から逆にまわったこともあるそう。そんなにしているのだからと思って尋ねたんです。「なにか、見えてきましたか?」って。旅というのは、小さな悟りのようなものの連続だと思うのですが、彼のような人には、もっと大きな悟りがあるんじゃないかと期待したんです。そしたら、「見えないね」のように即答されて…(笑)。それなら、僕がこの先旅を続けたとしても、きっと悟れないなと思ったわけです。

― それまでは大きな悟りを求めて旅をしていたのですか。

岩崎さん :そうですね。悟りというか、元来、謎解きみたいなことが好きなんです。仮説を検証してゆくような作業が。

― はぁ、そうなんですね…。

岩崎さん :それに、そのベテランお遍路さんは不思議な方だったんですよ。夜までふたりで話して、それぞれのテントで眠ったのですが、早朝、姿を消していました。なにも言わず、気配も感じさせずに。その場所にはふたりきりでしたし、あとから、本当に会ったのかもわからなくなるような、奇妙な体験でした。だから余計に、なにかに導かれたような感じで。

※掲載写真はすべて、岩崎さんご本人により撮影されたものです。