今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第5回《後編》農園・レストラン経営 松木一浩さん

三ツ星レストランでサービスを極めるも キャリアを捨てて飛び込んだ、有機農業の道

後編はこちら

プロフィール
まつき・かずひろ/長崎県出身。 株式会社ビオファームまつき 代表取締役。ホテル学校卒業後、レストランサービスの道に進む。渡仏してパリのニッコー・ド・パリに勤務した後、東京で銀座のフランス料理支配人を経て、恵比寿の「タイユヴァン・ロブション」の第一給仕長に。その道を極めるも有機農業の道に進むことを決意するに至り、農業研修後、静岡県芝川町(現富士宮市)に移住。現在は4ヘクタールの畑で野菜作りを行っている。こだわりの農作物の価値を高めるべく、野菜セットの宅配からオリジナルの加工品の販売までを手がけ、さらには、野菜惣菜店、レストランもオープンさせる。

生産と消費の現場を持つことの、面白さに目覚める

力強い味と評判の、ビオファームまつきの野菜。

― 松木さんのところの野菜は、都心の自然食屋さんでも扱われていますね。こうして立派なレストランも経営されています。農業をビジネスにしようと、いつしか考えるようになられた。

松木さん :そうなんです。田舎で暮らしたいというイメージしかなかったような人間ですから、最初は、暮らしていけさえすればいいと思っていました。作った野菜も、自分たちで食べるほかは、縁のある人に分ける程度で。それが次第に面白くなってきたんですよ。

― どんなところに面白さを感じたのでしょう。

「冬野菜のエチュベ」野菜の美味しさが際立つシンプルな調理法で、バターの香りを添えた一皿。

松木さん :もともと食への関心は人一倍ありますから、農作物としての美味しさを追求するのも、できたものをどう調理するか考えるのも、楽しかったんです。自分の畑で作った野菜を使って、まずは総菜屋を始めたのですが、農協に売ったら50円の野菜が、1,000円になったりするんですよ。しかも「美味しいね」って喜んでもらえるなら、そりゃあ嬉しいじゃないですか。

― それは嬉しい、と思います。

松木さん :それに、直接お客さんと接していると、この総菜が人気だから、次はこの野菜をもっとたくさん作ろう!と、マーケティングも一緒にできちゃう。生産と消費の現場を両方持つって、面白いぞと思いました。相互にフィードバックできますからね。

ビジネスモデルとして成り立たせ、農業に夢を

― 松木さんのキャリアが、ここで生きてくるんですね。

松木さん :なんとなくそういう流れに(笑)。ずっと農家をやっている、私の親世代の人たちにはよく、「農業なんて儲からないこと、わざわざ都会から来てよくやるね」って言われたんです。彼らの子どもたちは、自分の家の田んぼの大きさも知らないぐらい農業と離れている。農業には未来がないというのが定説のようになっていて、継ぐ人は減る一方。私は外からきた人間で、都会で食に携わっていたからこそ、別の見方ができたんです。

― 違うぞ、農業には未来があるぞと。

松木さん :暗い話ばかりなのは、農業が悪いからではなく、やり方が悪いんだと思いました。これはまさに自分のキャリアがそう言わせるのだと思うのですが、見方を変えれば、農業もサービス業。農家自身が、マーケットをちゃんと見て、付加価値つけて、いわゆる六次産業化 していくことができれば、これは十分に可能性のある分野だろうと。

「レストラン ビオス」のフロアに立つ松木さんは、さすがの身のこなし。

― 田舎でスローライフのつもりだったのが、燃えてきたんですね。

松木さん :不思議なものですね。ビジネスモデルができないと、日本で誰も農業をやらなくなってしまう、自分たちがビジネスモデルをつくらないといけない。そんな使命感も生まれました。会社としてきちんと成り立たせて、若い人たちが、生業(なりわい)としての農業に、夢を持てるようにしたい。今は本気でそう思っています。

※第一次産業である農水産業が、食品の加工や販売、関連するサービスなど、資源を活かして経営の多角化をはかること。

松木一浩さんの生きるヒント『今を真剣に』「人間万事塞翁が馬」という言葉がありますね。どんな不幸が幸福に転じるかわからない、その逆もしかりなので、人生は予測ができない。だからあまり一喜一憂しすぎずに、大局的な見方をしよう、という教訓です。人生は本当にどうなるかわからないです。私の場合も、今のようになるとは、これっぽっちも思っていませんでした。ただ私は、そのとき目の前にあることに対しては、全力で臨んできたつもりです。イチローや本田のように、明確な目標に向かって、まっすぐに努力ができる人はごくわずか。始めから目標がなくても、今目の前にあることに真剣に取り組む。これを積み重ねてゆけば、見えてくるものが必ずあると思います。


この記事のご感想をお聴かせください。

年齢
性別
今後「あんしんのタネ」でどんな記事を読みたいですか?興味のある分野があればお選びください(複数回答可)。
こくみん共済 coop の共済を利用していますか?
この記事は参考になりましたか?
上記で記載いただいたご感想をサイト上で公開してもよろしいですか?
今後皆さまの感想を寄せたページを作成予定です
 

本アンケートに関するご返答は致しかねますのであらかじめご了承ください。
こくみん共済 coop に関するお問い合わせはこちら

お問い合わせ[お客様サービスセンター]

0120-00-6031

平日・土曜 9:00 ~18:00 日曜・祝日・年末年始はお休み

  • 電話番号のお掛け間違いにご注意ください。
  • 自動音声でご案内後、担当者におつなぎします。
  • 休み明けは電話が混み合うことがございます。ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。