わたしのふるさと What is FURUSATO for you? わたしのふるさと What is FURUSATO for you?

誰しも生まれた地、育った地があります。ずっとその地で過ごす人、進学や就職を機に離れる人、転々とする人。
縁ある土地とのつき合い方は人それぞれです。「第二のふるさと」「心のふるさと」という言葉があるように、「ふるさと」は、生まれ育った地とも限らず、もしかすると、物理的な土地とすら結びつかない、その人にとって大切ななにかがある場所とも定義できるかもしれません。
あなたにとって「ふるさと」は、どんなものでしょう。

16前山真吾さん

鹿児島県奄美市生まれ、奄美市育ち、奄美市在住

前山真吾(まえやま・しんご)

シマ唄シンガー兼ケアマネージャー

1983年鹿児島県奄美市生まれ。奄美大島に生まれ育つ。中学、高校生時代にロックやブラックミュージックなどに興味を持ち、独学でギターを弾き始める。同時に友人たちとバンドを組んでいた。偶然に接したシマ唄に衝撃を受け、19歳から伝統音楽の世界へ。古くからの曲目が数多く伝わる地域の唄者・石原久子氏に師事。奄美民謡大賞にて、2005年に新人賞、2008年に最優秀賞、2011年には男性としては10年ぶりの大賞を受賞。国内外で多くのステージを経験する。2018年には大河ドラマ『西郷どん〜島編〜」で劇中歌を担当。地元の施設で高齢者福祉の仕事に従事する傍ら、精力的に音楽活動をおこなっている。

都会に憧れ、シマ唄をバカにしていた

中学、高校と音楽に夢中で、東京に出てプロのミュージシャンになることを夢見てました。いまのように奄美を好きだと思うこともなくて、都会にある、別の刺激がほしかったんですね。広い世界でビッグになることに憧れて、高校を卒業したらすぐに東京に行きたいと思ってました。母子家庭だったこともあって、高卒での上京はあきらめたのですけど、島内の専門学校に進学してからも、その思いは持ち続けてました。人と接するのが好きだから向いてるかなと、看護や福祉を学ぶ学校に通ったのが、いまのケアマネージャーの仕事につながっています。

専門学校在学中、隣の加計呂麻島で、施設の夏祭りのお手伝いにボランティアとして参加したとき、シマ唄と運命的な出会いをしました。それまでの僕はシマ唄なんて大嫌いで、「あんな民謡は年寄りの音楽だ」と、バカにすらにしてたんです。でも、そのとき年配の男性が唄うのを聴いて、ショックを受けたんですね。一発で人生を変えるくらいの衝撃がありました。感動したと同時に、これまでこんなすごいものをバカにしてたのかと、急に自分が恥ずかしくなりました。自分も歌には自信があったのに、「ぜんぜんかなわない」と。イメージだけで毛嫌いして、本物のシマ唄を聴いたことがなかったんですよね。

※奄美の各集落に伝わる唄。“シマ”は集落のことを指し、“島”とは通常区別される。

島にいながら島の唄を守ると決めて

この日着ていらしたシャツには、奄美伝統の大島紬があしらわれていた。

加計呂麻島から奄美大島に戻ってすぐ、「俺、シマ唄やる!」と宣言しました。僕は主にギターやドラムでしたけど、バンドで、洋楽のコピーや、けっこう激しいタイプのロックをやってたので(笑)、周囲も驚いてました。シマ唄をやる同世代は身近にいなかったし、「伝えないと!」という使命感も一気にわいたんですね。師匠となるベテランの唄者のところに飛び込んで、教わり始めます。ギターも歌も得意だったから、そこそこやれると思ってたんです。それでナメてかかっていたら、とんでもない。もう、むずかしくて、それからヒマさえあれば4時間でも5時間でも三味線の練習をして、すっかりのめり込んでいきました。亥年の、猪突猛進型です(笑)。

シマ唄を通して島愛にも目覚めました。シマ唄の深い世界を、終わりなく学べるフィールド、それが島です。誇りに思います。奄美のシマ唄というのは、生活の中で生まれていて、生活の中で唄われていくものなんです。だから昔から、仕事としての音楽とは別のところで育まれてきました。音楽で上を目指した頂点にプロがいる、というものではないんです。もちろん、元ちとせさんとか中孝介さんとか、島出身の、プロで活躍する素晴らしい人たちもいますけど、そうでなくてもすごい人がたくさんいます。それを理解するようになってからは、プロのミュージシャンになりたいとこだわることがなくなりました。

専門学校卒業後に、ずっと行きたかった都会でプロを目指すか、島に残って就職するか、悩みに悩んだ末に、島に残ることを選びました。島のことが、唄を通してわかるようになってきたので、離れるのがもったいないという気持ちと、都会でも音楽はできるんじゃないかという気持ちの狭間でさんざん迷って出した答えでした。就職活動の時期、上京して池袋で三味線持って唄ったら、30人くらいの人が集まって、投げ銭してくれました。まだまだ下手くそだったんですけどね、「感動した」と言ってくれて。あのころちょうど、奄美民謡大賞出身の元ちとせさんが注目されていたからかもしれません。プロにならないかって話をもらったこともあったんですけど、最終的には、島にいながら島の唄を守る人もいないとダメな気持ちが勝りました。いまも後悔はありません。

※奄美のシマ唄の歌い手で、「うたしゃ」と読む。

お年寄りの話が、すごくためになる

2011年の奄美祭り「シマあすびの夕べ」で唄う前山さん。

島には大学もないし、仕事も限られているので、ほとんどの人がいったんは島を出て行きます。「外に出てみて島の良さがわかった」と、みんな言います。僕は、あのとき加計呂麻でシマ唄に出会ったおかげで、島にいながら島の良さに気づくことができました。「若い人がこんなに熱心だ」と、シマ唄の先輩たちに喜ばれて、幸せだと思います。

唄をやっていく上で、お年寄りが聞かせてくれる話がものすごくためになります。島の生活や文化、風習、風俗。どんなことも自分には勉強になります。集落ごとに守られてきた唄が消えつつあるので、集落をまわってのヒアリングをおこなってきました。それとは別に、介護の仕事をしている中でも、お年寄りからときどき、埋もれている貴重な唄が出てくるときがあるんですよ。認知症の方の場合は、「もう一回唄って」とお願いしても通用しないから、一期一会だったりして。それにしても音楽の力はすごいです。こちらが唄うと、認知症の方が急に元気に話し始めることも、身体が不自由な方が立ち上がって踊ろうとすることもあるくらいです。ほんと、びっくりしますし、音楽への愛情と尊敬が深まります。だからいまの僕にとっては、音楽と、大変ではあるけどケアマネージャーの仕事も、相互に良い影響を与えてるんです。

ふるさとの光景が浮かんでくる唄を

「高倉」と呼ばれる、奄美の伝統建築をかたどった公共のお休み処でのインタビュー。11月だったが、南の島らしい緑の濃さで、まだセミも鳴いていた。

島の人と人とのつながりは、これでもかっていうくらい強いです。絆が深い。人がこうだから、音楽もこうなった。つまりは全部人なんですよね。東京にも、海外にも唄いに行くことがあるけど、離れるほどに帰って来るとほっとします。ちょっと留守にするだけでそうなのですから、大阪とか東京に出ている人たちの、島を思う気持ちとか、なにかあるとすぐに集まる横の結びつきはすごいですよ。奄美の虐げられた歴史も影響してると思うんです。そんな歴史の中で、シマッチュ(島の人間)と共にあったのがシマ唄だったんです。シマ唄でなぐさめ合い、団結力を強くしました。これだけ自分を感動させた音楽ですから、ずっと続いてほしいし、そのためにも、若い層を中心に聴く人がもっともっと増えてほしいです。音楽に限らずほかの地域活動でもいい、島の風習や伝統に触れて理解する若い人が絶えずいてくれたら。行事の準備とか、面倒も多いけど、いろんな人と一緒にやり通す喜びは大きいです。自分のふるさとを、大事に、良くしようとして、悪いことってないですもんね。

僕も、ただ上手なシマ唄ではなく、聴く人の心に、この、ふるさとの光景が浮かんでくるような唄を唄っていきたいです。迎えてくれる人がいる島、心がやすらぎ、自分が自分でいられる、戻る場所。それを唄を通して伝えたい。お年寄りに、「あんたの唄、なちかしゃや」って言われることがあります。「なちかしゃ」という言葉は、内地の「なつかしい」と似てるけど、もっとこう、心の琴線に触れるニュアンスを含んでいます。まだまだ、一生勉強し続けながらですけど、そんな唄い手でありたいです。

ふるさとのお気に入り

奄美

by前山真吾さん

  • 大島紬

    世界三大織物※1のひとつですから、宝ですよ。こんなに大変な仕事を継承してきた人たちを、心から尊敬しています。

  • 島料理

    島の家庭の味は格別です。鶏飯(けいはん)、油ぞうめん…。母親やばあちゃん、身内のつくってくれるのが、不思議と一番おいしいんですよね。

  • 島口(しまぐち)※2

    これでしか表現できない感覚があるんです。あと10年、20年もすればなくなってしまうといわれることもあって、不安だし、さみしい気持ちになります。残したいです。

※1 フランスのゴブラン織り、ペルシャ絨毯、そして奄美の大島紬と言われる。

※2 島の方言。奄美では、島によってはもちろん、集落によっても異なる。

編集後記

とにかく文化が色濃くて、外から訪れる者には、驚きと感動に満ちた奄美。仕事を通して多くの方と接してきましたが、島愛がすごいです。ことあるごとに集い、「いつか島に帰りたい」と口にする都会在住の出身者、島では、たまらずUターンした若者に、ずいぶんお会いしています。明るく飾らずあたたかい人たち。よく飲み(笑)、そしてよく唄い踊る人たち。歌の達者な人の多さにも驚かされますが、その、わからない島口の唄に、共になぐさめ合った島の歴史と心が込められていると思うと、感じ入らずにいられません。前山さんのような方が思いを継いでくれて、先人たちもきっと喜んでいますね。

(取材・文:小林奈穂子)


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