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今月の「生きるヒント」
一生のうち、住まう家は限られています。長く過ごすところだから、できるだけ居心地よく、自分らしく保ちたい。常に最高のモノに囲まれて生活したり、時間をかけてお手入れしたりは無理でも、それぞれのペースで、日々の豊かさを感じられる暮らしがしたい。こころも充実、エコで豊かな「生きるヒント」をお届けします。
タイルと聞くと、どんなものを想像しますか。おばあちゃんのおうちのお風呂場や洗面所、町の銭湯を、なつかしく思い出す人は少なくないように思います。南欧を旅行したときに見た建物の外壁が印象に残っている人も?今では、家を建てるとき、リフォームするとき、真っ先にタイルを思い浮かべる人は多くないかもしれません。でもその実力を知れば…。機能性にすぐれ、実用を兼ねたアートともいえる、タイルの魅力をご紹介します。
白石普タイルワークス
白石普さん
東京都出身。建築と陶芸の心得もあるタイル職人。20代半ばのときにモザイクタイルの本場モロッコに渡り2年間修行。モスク建設などに携わった経験も。2003年に白石普タイルワークスを立ち上げてからは、オリジナルタイルのデザインから制作、施工までを一貫して手がける気鋭の職人として注目される。
白石普タイルワークス公式サイトタイルの語源は、「覆う」の意味を持つラテン語だそうです。「建物を覆って、守るもの、保護するものがタイルです。それだけに丈夫。千年だってもつ素材ですからね」と白石さん。聞き慣れませんが、物質の硬さ(傷つきにくさ)を示す「モース硬度」に当てはめれば、タイルは鉄よりもうんと硬く、人間の歯と概ね同等なのだそうです。白石さんによると、「だから、切断するなら鉄のほうがずっと楽」なのだとか。意外です!そして、この、人間の歯と同じ硬度という点もまた味噌と白石さん説。高温で焼き締めてつくるタイルは食器に多用される焼き物の仲間であり、敏感な口元に持っていって違和感がないくらい、人が触れてしっくりくる素材であるのだと。もちろん、じゃんじゃん水洗いできます。
写真:白石普タイルワークスの外観。もちろんタイル張りです。
丈夫でいて肌なじみが良く、遠慮なく水で洗える素材であれば当然、水まわり、特に浴槽にタイルというのは、とても理にかなっていますね。白石さんのご自宅は、当然ながら「タイルだらけ」とのことですが、「やっぱり、特にお風呂はよくわかりますよ。肌ざわりがなんとも言えず落ち着くんです」そう言われてタイル張りのお風呂に浸かった記憶をたどると、確かにそんな気がしてきます。現在のようにたくさんの種類の建材がない時代だったとはいえ、昔の人が同じ感覚でタイルを選んでいたのだとするとすごいですね。
写真:フルオーダーにより白石さんが屋外に施工した、圧巻の全面タイル張り。すごいです。
そんなタイルの歴史は驚くほど古く、エジプトのピラミッドの内部にも使われているというからロマンがあります。白石さんが修行したモロッコでは、今も子どもの時分から床にきれいなタイルを貼ることに憧れるのだそうで、貧富にかかわらず、どの家にもタイルを敷く文化が残っているとのこと。モザイクのパターンには、セオリーこそはあるものの、その組み合わせは無限。白石さん曰く、そこがタイルの最大の魅力です。白石さんは、お客さんごとに求めるイメージを聞いて、オーダーの場合、まずはデザイン画に落としてゆくところから始めるそうですよ。なんて贅沢!
「タイルの施工って、どこに頼めばいいの?」と思う方もいらっしゃると思います。白石さんによると、手がける業者さんは少なくなってはいるものの、まだまだあるので、ぜひ職人さんを抱えるところを見つけて、直接当たってほしいとのこと。せっかくなので、地域で探せるといいですね。
白石さんはオリジナルのタイルの制作から施工までを手がけ、つくるものはときとして芸術作品。ため息が出るほど素晴らしいそれらは、さすがにすべてオーダーとなると、多くの人にとってお財布が追いつきません…。そう伝えると「いえいえ、フルオーダーはむしろ特別なケースです。うちも既製品を扱いますし、平米当たりの費用はそのときどきでゼロがふたつ違うくらい」なのだそうです。「高嶺の花だからとあきらめないでほしいです。何気ないタイルの中に、お気に入りをポイント使いする施工のしかたでも個性は出せます」
写真:一般に市販されているタイルに、絵つけのタイル、モザイクのオリジナルタイルを組み合わせた例。
そして白石さんはこう続けるのでした。「お金をかけさえすれば趣味の良いものができるというのは違うと思うのです。僕は、それほどお金をかけずに趣味の良いものを取り入れることができるのが、タイルの良さだと考えています。キッチンだけ、玄関の床だけ、トイレの手洗いシンクだけだっていい。気に入ったタイルを使えば、何十年と、いつまでもお気に入りの場所にできるのではないでしょうか」と。毎日目にするたび、使うたびにうれしくなるようなお気に入りが家の中に組み込まれるなんて、想像するだけでワクワクしますね。住まいに対する満足度が上がると、おうちを大事にしたくなりますしね。
写真:繊細な絵付けもできるのも、焼き物であるタイルの特徴のひとつ。
さて、焼き物の盛んな日本には、岐阜県多治見市などで、工業製品のタイルもたくさん生産されています。大量に輸出していた時代もありました。近年、タイルへの印刷の技術が飛躍的に高まって、大判の、木目や大理石模様など、一見してタイルとわからないものもできるようになりました。劣化の少ない特長を活かし、ほかの素材を代用する目的で使われ、ビルの外壁やフロアなど、さまざまなところに見ることができます。一方、一般家庭に普及しだした昭和の時代の、レトロを感じるタイルにも、ひそかなファンが多いようです。フリーマーケットなどでは一枚数百円で購入できます。「タイル」と総称されるものの懐は深く、いろいろです。
写真:「タイルは貼ってこそ生きる」とおっしゃる白石さんにとっては邪道を承知で、昭和の時代のタイルの、貼らない日常使い。鍋敷きやコースター、箸置きに。焼き物だけあってキッチンのものと相性が良いです。
このシリーズの第2回でお邪魔した生花店を営むご家族の、そのご家族が「家まるごとアンティーク」と笑うお住まいの、タイル張りの洗面所が印象に残っています。「ここいいですね!」と言いましたら、「今、こんなのないですよね」と。数十年経っても清潔感を失わない白のタイル。そこでお花を活けてもらい、おさめた写真は、後日家主さんのお気に入りになったようです。古いものがなんでもいいわけではありませんが、いいものは、ずっといいですね。
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現代の日本には、欧州ほどのオーダーの文化がありません。服や靴、家具などもですが、家を建てたりリフォームするときにも、資材まで細かく好みを反映させないのは、あちらの人には不思議に映るようです。日本では「オーダーなんて贅沢でもったいない」、欧州では「人生最大の買い物を妥協するのはもったいない」の発想。同じ予算でも工夫次第なんですけどね。機能性に自分らしい装飾性をプラスすることで、生活が豊かになると僕は思います。