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今月の「生きるヒント」
一生のうち、住まう家は限られています。長く過ごすところだから、できるだけ居心地よく、自分らしく保ちたい。常に最高のモノに囲まれて生活したり、時間をかけてお手入れしたりは無理でも、それぞれのペースで、日々の豊かさを感じられる暮らしがしたい。こころも充実、エコで豊かな「生きるヒント」をお届けします。
花や緑のある生活はすてきですが、「お金も手間もかかって…」と、憧れどまりになっていませんか。確かに、豪華なアレンジメントを絶えず飾ることのできるご家庭は多くありません。今回は、ほんの一輪でも、葉っぱや枝だけでも、もちろん、生け花のおぼえがなくても、十分に楽しむことができると教えてくれる生花店を訪ねました。身近に親しむようになれば、日本人に宿るという、植物への独特の美意識が刺激されるかもしれません。
季の木
細田さんファミリー
埼玉県ふじみ野市で生花店を営む細田哲・君予夫妻と、娘の大久保すずかさん。細田夫妻はいわゆる脱サラ組で、20代後半でこの仕事を始める前は、おふたりとも大手町で働いていたそう。花を仕入れて販売するだけでなく、山に入り花材を集めてきたり、自ら栽培したりして出荷もする。一方、すずかさんは、生花店に立つかたわら、フラワーデザイナーとして教室を開くなどして、植物の魅力を伝えている。
花が嫌いだという人は、そうはいないと思います。今も贈物の定番。都会には高級なブランド生花店もあり、特に女性の間でたいへんな人気です。特別な日の花束は、気持ちを華やかにしてくれますが、この道約40年、まさに「植物一家」の細田さんは、花や緑とのつき合い方を、「それだけではもったいない」と言います。哲さんからは、「小学生が猫じゃらし(エノコログサ)で遊ぶように、道端の雑草、葉っぱにだって親しんでほしい。花屋が言うのもなんだけど、花がなくたって、枝でも葉っぱだけでもいいんです。枯れ枝一本生ける華道家だっていますよ」という言葉も。枯れ枝は上級編に違いありませんが、確かに、今回すずかさんに生けてもらった、椿のつやつやの葉っぱなどは、眺めるほどに美しく、「葉っぱだけでも」に、すんなりうなずくことができます。
そのすずかさん、「父は昔からよく、山から雑木の枝を持ち帰って来ました」と。冬の間は「ただの茶色い小枝」のようでも、生けておくうち、若い芽が顔を出します。それが楽しみなのだと、君予さんとすずかさんはうれしそうに話します。「日々変わる、つくりものにはない機微がいい。出てきたばかりの芽はかわいらしいでしょ。それに、種類によって色も質感も違います。ときどきすごくおもしろい形に芽吹くのもあるんですよ」。なるほど、そう言われて店内を見回すと、それらしき枝がそこかしこに。改めて目を向けると、それぞれに表情豊かです。
結婚後、ご主人のお仕事の都合で3年ほどイギリスに暮らしたすずかさん。「あちらには、お隣のお庭から枝がはみ出てきても、落ち葉が降ってきても、とがめるどころか一緒に楽しむおおらかさがあります。だからでしょうか、人と植物の距離も近いと感じました。日本でも、構えずもっと気軽に親しんでほしいです」。「構えずに」といえば、お花屋さんとの関係もそうかもしれません。一年に何度かの記念日に、奮発して花束を買うのはもちろんすてきですが、毎週通って、一本ずつでも花を選んで求めるとしたら、それには別の喜びがありそうです。「一本だけ」は、ついはばかられる気がしてしまわなくもないですね。けれど考えてみると、そんなお客さんを疎ましいと感じるお花屋さんはあるのでしょうか。「絶対にないと思いますよ!」と、すずかさんが太鼓判。君予さんも、「むしろ好かれますよ」と。であれば、そうした常連さんになるのもいいですね。
日本人はつぼみに近い状態の花を好む傾向があるようです。パッと開き切った花が美しいとされる欧米と対照的で、チューリップなどはその典型だそう。せっかくなので、その表情の変化を楽しみ、どちらの魅力も味わいましょう。
さて、女性のおふたりが、「お父さんは凝り性でもう…」と口をそろえる哲さんは、一時、市販品では飽き足らず、大小さまざまな植木鉢や花瓶を、陶器で手づくりすることに凝ったそうです。曰く「植物に合わせる器はたくさんあったほうがいい」。とはいえ、しまうのに困るような、大きなものである必要はなく、「まずは手近なもので構わないから、コップでもどんぶりでも、空き瓶だっていいから」と。そして、「小さな植物を三種、生けてみてください」とアドバイスしてくれました。実は、初心者には、一、二種類より三種類が様になりやすいそうです。空き地で目についた植物を混ぜてもいいそうですよ。
写真:左は、片手に乗るほどの器に活けられた、菜の花、桃、ユーカリの三種。
哲さんが教えてくれるに、「日本人は間(ま)を見るんですね。葉と葉、葉と枝の間、これを美しいと感じる。だから、西洋のように、隙間なくたくさん、華やかに生けなくていいんです」。華道の花を思い出すと確かに…。いや、でも、そんなふうに美しく生けるには、多少なりとも心得が…。するとすかさず哲さんが、「むずかしく考える必要はありません。田舎のおばあちゃんが、庭からとって何気に花瓶に挿した花の、その味わい深さに感動させられることだってあります」と。わかってきました。もしかすると、飾られている花の美しさ半分、それを美しいと感じることのできる人の心半分、なのかもしれません。だからこそ、花や緑のある暮らしには、住まう人の豊かさが感じられるのではないでしょうか。
小ぶりの剣山は、あると便利なアイテムです。キッチンから拝借した小鉢の中にひとつ置いて、三種の小さな植物を生けてみましょう。日本の生け花独特の、口の広い器に水面が覗く佇まいが楽しめます。剣山は数百円から買えます。
かつて日本の家にはどこも必ず床の間があって、そこに季節の植物を飾りました。今は少なくなりましたよね。生きた植物の姿の、日々の変化を眺めて楽しみ、枯れかけているそれの中にも美しさを見い出して感動する。そんな感性を持って暮らせるのは、幸せなことだと思います。ささやかなようですが、こうした感性は、お金を出しても学ぶことができないのですから。
言ってみれば花は、人の生活になくてもいいもの。役に立つものではありません。だけど人は花を飾ります。すてきなことですね。休日に、一輪でも花を買って帰れば、飾るためにお部屋をお掃除したくなったり、眺めながらお茶したり、「つぼみが開いたね」なんて家族で会話する、そんな時間が生まれるかもしれません。花は平和の象徴と聞いたことがありますが、本当ですね。
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ときどき、「どんな観葉植物も必ず枯らしてしまう」という人がいますよね。「“育て方”を読んで、週に一度、決まった量のお水をあげていたのに…」と。確かに相性もあると思いますが、生き物なので、マニュアル通りの育て方が必ずうまくゆくとは限りません。人と自然との距離が離れている時代なので、むずかしいと感じる人もいるかもしれませんが、これも慣れです。慣れるときっと、様子を見て植物の状態がわかるようになりますよ。