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今月の「生きるヒント」
その人の価値観をはかるモノサシにされることも多い“お金”。人生に、深くかかわりがある割に、真正面から語られることが少ないのも“お金”です。
誰かのお金観の背景にある経験やエピソードは、いつか自分のそれと重なるかもしれないし、現在の向き合い方を考え直すきっかけになるかもしれません。専門家による経済の話でなく、人それぞれの、お金にまつわるストーリーをお届けします。
第
15
回
困窮し、路上生活も経験。つながりに支えられて 困窮し、
路上生活も経験。
つながりに支えられて
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佐々木 善勝さん
ささき・よしかつ
堀江車輌電装株式会社 清掃作業員
1973年山形県生まれ。高校卒業後、自衛隊に入隊して4年間在籍。その後地元の建設会社に就職するも不況のあおりで失業し、31歳のときに上京する。建設現場をわたり歩くうちにいきづまり、ホームレス状態に。イギリス発祥の、ホームレスの人が販売し約半額(現在は350円の売価のうち180円)が販売者の収入になる雑誌「ビッグイシュー」に出会い、販売を始める。関連NPOであるビッグイシュー基金のサポートを受け自立への道を探る過程で、知的障がいがあることが判明。現在の職場、堀江車輌電装の障がい者就労にて清掃作業員の仕事を得る。趣味は映画とサッカー。
上京後、過酷な職場に耐え切れず、路上に
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子どものころからダンプの運転手になるのが夢でした。菅原文太の大ファンで、『トラック野郎』(1970年代に大ヒットした、東映の制作・配給による映画)に憧れてたんです。爆走シーンやケンカのシーンがかっこよくてね、いまもよく観ますよ。いまはサッカーもできるくらいですが、子どものころは心臓が丈夫でなかったので、中学までは体育もずっと見学でした。ダンプの運転手にはなれなかったけど、一目惚れして最後はフラれるところが主人公と僕との共通点かな(笑)。映画は、昔のゴジラシリーズも好きです。暴れるシーンが好き。ビールを飲みながら観ると最高です。
生まれ育った山形で、自衛官をしていたころも、建設会社で働いていたころも、給与のほとんどは実家の家計に充てていたのであまり貯金はできませんでした。上京後はもっとギリギリ。飯場(はんば)※1では半月働いても5万円くらいしかもらえませんでした。すごくキツいし扱いがひどくて耐えられず、ほかに仕事も見つからないから、路上生活を始めるようになりました。あのころは着るものにも食べるものにもいつも困っていて、なにもかもがとてもつらくて大変でした。一年くらいそんなふうだったかなぁ。ホームレス仲間がビッグイシュー※2を教えてくれて販売者になって、やっとネットカフェで寝起きできるようになりました。
※1 古くは鉱山や、土木工事などの現場に設けた給食付きで寄宿させるスタイルの簡易施設。手配師と呼ばれる仲介者が日給の半額以上を取り分にするなど、しばしば支配された状態で劣悪な労働環境に置かれ問題になった。
※2 イギリス発祥の、ホームレスの人が販売し約半額(現在は350円の売価のうち180円)が販売者の収入になる雑誌。(有)ビッグイシュー日本が「ホームレスの人の仕事をつくり自立を支援する」をテーマに運営しており、関連のNPOも設立され、活動している。詳しくはこちら
「ビッグイシュー」との出会い。知的障がいの診断
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何年か、都内のいくつかの場所でビッグイシューを売りました。朝から晩まで人通りの多いところに立って、一番多いときは1日で49冊売ったこともあります。いつも買ってくれる人は女性が多かったですね。声をかけてもらえるとうれしくて、だんだん安心して人と接することができるようになりました。飯場の手配師には悪い人が多かったし、それまで人で結構つらい思いをしてきたから、あったかい言葉に励まされました。
ビッグイシューの販売と並行して挑戦した就職活動も、やっと決まった仕事も、どちらもむずかしくて自信がなくなりました…。ビッグイシュー基金のスタッフの助けもあって、病院で検査を受けたら知的障がいと言われて、愛の手帳(知的障がい者を対象に東京都が交付する手帳)をもらうことになりました。等級は4度(日常会話はできるが込み入った話が理解できないなど軽度の知的障がい)です。知的障がいの存在についても知らなかったのでびっくりしてショックでした。でも、障がい者枠で働けるようになって、いまの会社の人はやさしくしてくれますし、生活保護を受けながら、アパートで暮らすこともできるようになって良かったです。
精一杯仕事して、土曜日は手料理を楽しむ
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2016年の秋から、現在の、清掃員の仕事に就いていて、マンションやアパートの掃除をしています。任される現場が少しずつ増えてきて、いまは12ヶ所です。水曜以外ほぼ毎日ですが、昼過ぎで終わる日もあります。遅刻は絶対にしません。早め早めに家を出て、始発に乗って出勤したり、休みの日も気になって見に行ったり、責任感は強いほうだと思います。階段の掃除もあるので、ケガにも気をつけています。会社に迷惑をかけるといけないから。へこたれないところが僕の長所だと思います。
欲しいものもしたいこともあんまりありません。なにか買っても部屋が小さくて置く場所もないですからね。いや、本当言うとテレビが一番欲しいんですよ。でも高くて買えません。家にいると安心なので、家にいるのが好きですね。一週間ガマンして、解禁日と決めている土曜日に、ごちそうをいっぱいつくって食べるんです。肉は肉の、魚は魚の脂、野菜は水分で調理できるから油はあまり使わなくていいって、お世話になっている人から教わって、実践しています。大好きなビールは、次の日に仕事とか、予定が入っているときは飲みません。
家族とは疎遠だけど、東京であたらしいつながりができた
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買ったものをノートにつけて節約を心がけているのですが、なかなかお金は貯まりませんね。ずっと貯金がしたいと思い続けているのですけど…。飯場のときも、路上生活だったときも、山形に帰ることは考えませんでした。母親は小学校4年生のときに亡くなって、父親とはあまり話もしなかったし、ずっと縁が切れた状態です。兄と妹や、小さいときから可愛がってくれた叔母もいるんだけど、やっぱり、頼ろうと思ったことはありません。相談するのも悪いと思って、ずっと連絡を取っていません。
家族とはそんな感じですが、東京で、ビッグイシューや、堀江車輌電装、それに路上生活者を支援する団体のスタッフとか、信頼できる人たちと出会うことができて、たくさんつながりができました。なにかあったら相談に乗ってもらいます。野武士ジャパン※3にも参加していて、そっちでも仲間ができました。サッカーは、やっぱりゴールを決めたときが最高ですね。ホームレスW杯でミラノにも行ったんですよ。外国チームはひとまわりデカいし若かったので、試合は厳しかったですね。ミラノの街はあまりきれいじゃなかったです。日本のほうがいいと思いました。でも、一生に一度だけの思い出です。
※3 ホームレス状態の人々がサッカーを通して、自立への心の準備や人間関係をつくる場となることを目指すもの。2004年にビッグイシュー基金が活動の一環で始めた。2003年より毎年開催されている、ホームレス状態の人が一生に一度だけ選手として参加できるストリートサッカーの世界大会「ホームレス・ワールドカップ」にも、何度か選手を派遣している。詳しくはこちら
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- Q1.
- お金のことには詳しいほうだ。
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- Q2.
- 「趣味は貯金」に共感する。
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- Q3.
- 「趣味は投資」に共感する。
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- Q4.
- 先のことはわからないからこそ「使う」。
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- Q5.
- どんぶり勘定の人よりお金に細かい人のほうが信用できる。
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- Q6.
- 100万円と10億円、もらえるなら10億円。
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- Q7.
- お金の稼ぎ方と使い方、こだわるなら稼ぎ方。
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- Q8.
- 「金は天下の回りもの」に賛同する。
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- Q9.
- アリとキリギリスならアリタイプ。
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- Q10.
- お金にまつわる経験から得た教訓や信条をお聞かせください。
路上生活者の中には、親に扶養照会がいくのが嫌なばっかりに生活保護の申請をしない人がけっこういます。僕もそうでした。親に知られたくないとか、心配かけたくないとか…。でも、ずっと路上にい続けて(住所がない、身なりが整わないなどの理由で)安定した仕事に就けないより、思い切っていったん受給したほうがいいと思います。健康じゃない人も多いんです。
昔、少しだけお金に余裕があったころ、月イチくらいで女性のいるお店に通ってしまったことがあり後悔しています。あのお金を貯めておいたほうが先のために良かった。いまはお金の管理を気をつけています。
編集後記
路上生活を送る人の約3割に、知的障がいが疑われるとの調査結果があります。精神疾患はそれ以上。経済大国にあって、悲しい。人懐こいというのでしょうか、茶目っ気あるお人柄であちこちに居場所をつくっていった佐々木さん。ビッグイシューのスタッフの皆さんも「見習わなくては」と話しているそうです。土曜日の“解禁日”の手料理の写真を見せてもらうと、本当においしそうでした。そしてその背景に写っている佐々木さんのお部屋の整然としていること!几帳面さも見習わねば…。真面目で、本業の清掃はもちろん、頼まれた仕事はどれもひときわ丁寧だと評判でした。佐々木さんのような方がつらい世の中はつらいです。
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