今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第9回《前編》農園スタッフ兼ギャラリー主宰 桑原玲子さん

うつわをめぐる冒険!自分のこころに素直に従い、進む道

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プロフィール
くわばら・れいこ/新潟県出身。農園スタッフ兼ギャラリー主宰。地元でOLをしていたとき訪れた陶器の産地、栃木県の益子町でうつわにめざめ、同町に移り住む。3年後の2010年に新潟にUターンし、うつわを取り扱う店「桑原商店」をオープンする。ほどなくして起きた東日本大震災が、人生を見つめ直すきっかけになる。思うところあって店を閉じ、長野県佐久市(旧望月町)へ再移住。 有機農家のゆい自然農園 で働くかたわら、うつわの展覧会「旅するギャラリー」を各地で開催する二足のわらじ。
桑原玲子さんのじぶん年表

ふつうのOL生活を一変させた、うつわとの出会い

― うつわに魅了されて栃木県益子に、そして現在の長野県佐久と、2度目の移住ですね。

桑原さん :そうですね。益子との出会いは運命的というか、あの地での3年間は、今もなぜ離れたのかわからないと思うほど充実していました。巡り巡って現在は望月 にいますが、今は今でとても満足しています。

― 望月にたどり着くまでの経緯を教えてください。

桑原さん :はい、では益子から(笑)。益子を訪れるまでは、うつわに興味を持ったこともない、生まれ育った新潟で働くふつうのOLでした。

その頃はお芝居にハマっていて、たまたま観たい公演があった宇都宮に出かけた際、ちょっと寄るような気持ちで益子に足をのばしたんです。実家の母が益子焼のうつわを2、3持っていたのを記憶していたので、母へのお土産を買いに行こうと思いました。母のそのうつわが好きだったわけでもなく、本当になんとなくです。

現場ならではの素焼きのうつわの姿に「いとおしさを感じる」と桑原さん。陶芸家の工房にて。

― なんとなく行った先で、運命を感じてしまった。

桑原さん :不思議なものですね。さして興味のなかった“うつわ”というものに、人生で最も夢中になりました。益子を訪れたとき、雰囲気のあるお店があって、そこで目にしたうつわを「うわぁ、いいなぁ。好きだなぁ」と思いました。持ち帰って使ってみると、量産品とは明らかに違う光を放っている。手仕事の力なんですね。恥ずかしながらそれまでの私のイメージでは、いいうつわ(陶器)=芸術作品のような高級品で、魯山人とか…。自分の生活とは縁のないものだと思っていたのですが、日常使いができて生活を豊かにしてくれる、現代作家の素晴らしいうつわがたくさんあることを知るようになりました。

※長野県旧望月町。現在は佐久市。

どうやら「夢中になる」タイプ…?

― もともとうつわが好きで、益子に興味を持ったわけではなかったのですね。

桑原さん :はい、全然(笑)。

― その前にハマっていたのはお芝居ですものね。

桑原さん :そうです。もっとさかのぼると、ディズニーランド。うつわとはまったくつながりません(笑)。鉱山列車型のジェットコースターが廃坑を駆け抜けるビッグサンダーマウンテン、あれが好きで好きで。高校生まで、あそこで働きたくてたまらなかった。

― その頃とはずいぶん変わられたようですが、いわゆる好きになると夢中になるタイプですかね(笑)。

桑原さん :言われてみるとそうですね。益子という土地に対しても同じでした。いろんな現代作家の作品を追うようになり、うつわと、その周辺のことすべてに対して関心が高まって。窯(よう)業文化とか、手仕事の現場としての産地にどんどん惹かれて、通った末に移り住みました。

なにを盛りつけるか、想像が膨らむ。

― 惚れ込んで移住を決めた益子ですが、Uターンする形で新潟に戻り、ご自分のお店を開かれる。

桑原さん :益子では、カフェギャラリーで働きながら生活していました。経験は今も財産になっています。多くを学んだし、本当に素晴らしい日々でした。一方で自分の店を持つ夢がふくらみ、それならば、すでにお店が充実している益子でではないなと、新潟に戻ることにしたのです。三条市に、うつわの店を開いて、お客さんも来てくれて、念願叶ったはずだったのですけれど…。

店を閉める、苦渋の決断と引き換えに選びとった道

― やってみたら、なにかが違った?

桑原さん :仕事としては良かったのですが、暮らしという意味では、私の描いていたものと違うかもしれないと感じ始めていた頃、東日本大震災が起きました。店を始めて、わずか3ヶ月後のことでした。震災をきっかけに、なんとなく感じていた違和感が、徐々に抜き差しならないほどになってしまいました。結局、あのとき多くの人が考えたように、「いつなにが起こるかわからないのだから、後悔なく自分のやりたいことをしなくては」という思いが勝って、1年半ほどで店を閉める決断をしました。

― それはまた非常に大きな決断ですね。

桑原さん :実はまだ話すのもつらいのですが、ものすごいわがままですよね。開店の際に物心両面で応援してくれた両親には、申し開きのしようもありません。今でも本当に申し訳ないと思っています。私の決断に、父はしばらく口もきいてくれませんでした。開店前、一緒に壁を塗ってくれたり、棚をつくってくれたり…私が地元に店を開くのが嬉しかったんだと思うんです。両親だけでなく、お客様に対しても、地域に対しても、無責任なことをしてしまったという負い目はありますね。

― そうまでして新しい道を選んだ理由はなんだったのでしょう。

桑原さん :益子から離れてみて、改めて気づいたのですが、私は、益子の、地元に手仕事の現場があるところに幸せを感じていたんですね。三条市も金属加工が有名なものづくりの町ですけれど、工業寄りで、私が求めているそれとは違っていました。食べ物をつくり出す現場としての、畑との距離も遠く感じました。これは良し悪しの話ではなく、単に私にとってという意味ですが、合わなかったのでしょうね。それと、原発事故で物質重視の世の中への疑問が強くなったことに始まって、それまでものを売る側、提案する側にいた自分を、ものを生み出す側に置いてみたくなったことも理由のひとつです。

ゆい農園の一角に、専用のスペースを貸してもらった桑原さん。「雑草だらけ~」という畑には、カブが元気に育っていた。

― なるほど、ものを生み出す側に。それで今は農園で、野菜づくりもしているんですね。

桑原さん :そうなんです。うつわという、食べ物とは切っても切れないものを扱ってきたわけですが、放射能の問題で、食への思いがさらに強くなりました。これからもうつわと向き合ってゆくなら、食についてもきちんと知らないとウソだと思ったんです。望月に来て、有機農法でおいしい野菜づくりをしている、ゆい農園との縁に恵まれて、畑で働くのもとても楽しいです。


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