今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第1回《後編》家具職人 大島正幸さん

山あいの村に、会社と家庭を築いた家具職人。移住時の所持金30万円。あったのは、腕、夢、そして情熱。

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プロフィール
おおしま・まさゆき/栃木県出身。 木工房ようび 代表兼職人。建築学部を卒業するも、平面図から立体空間が感じられないことに問題意識をおぼえ、木工を学ぶ塾に入塾。2年の無給修業時代を経て、飛騨高山の家具メーカーに就職し、家具の製作・設計など幅広く携わる。ひょんなことから出向いた、岡山県にある人口1600人の山あいの村、西粟倉との運命の出会いによって同地に移住。地元の木材を使ったオーダーメイドの家具づくりに心血を注いでいる。福武文化奨励賞など受賞歴多数。

崖っぷちを乗り越えて、充実の日々

2013年に第一子が誕生。奈緒子夫人は公私ともに良きパートナー

― しばらく遠距離恋愛だった彼女、今の奥様はどのタイミングで西粟倉にいらしたのですか。

大島さん :最初に移ってくるときに、一緒に来てほしくて結婚を申し込んだんですよ。でも、彼女は彼女でやりたいことがあったんですよね。ちょっと待ってくれと言われました。だから僕は、いろんな意味で崖っぷちだったんです(笑)。幸い2年後に来てくれて、どれだけ救われたかわかりません!

― そこまで思い入れて移り住んだ西粟倉村はいかがですか。

大島さん :会社に所属して家具をつくっていた頃の3倍大変ですが、4倍笑っています。自分も社員も本当によく働いて、そして、よく食べています!この村は95%が森林。だからなんといっても水がおいしい。水がおいしいと、おいしいお米が育つでしょ。うちの会社にとって食事はものすごく重要なんです。毎日朝晩、持ち回りでつくってみんなで食べるのですが、お米は年間で400kg消費しています!

― そうですか!皆さんで召し上がるごはん、よほどおいしいのでしょうね。

大島さん :はい。「ようびめし」って言ってるんです。旨くて有名なんですよ。持ち回りでつくるから、料理が上手になります。最年少の社員は、最近まで女子高生だったのですが、「料理が上手くなると家具づくりも上手くなる」と教えています(笑)。全国から集まってきているので、社員がひとり増えるごとに、出てくる郷土料理が増えていく楽しみもあります。人と食べるのって、こんなに楽しいんだと知ったのも、ここに来てからですね。

― うんとご苦労されたけれど、ここでお子さんが生まれて、いい仲間もできて、今は充実しているのですね。

大島さん :充実してますよ。お陰さまで、僕らの家具を買ってくれるお客さまも、注目される機会も増えました。だけど満足しているわけではありません。まだまだやりたいことがいっぱいあります。第一僕は、スローライフを楽しむために田舎に来たのではありません。ここで挑戦するために来たんですもん。

人口1600人の村から、世界に打って出る!

岡山県美作市にある温泉旅館「季譜の里」のロビーには、大島さんが手がけた家具が並ぶ

― 大島さんの、次なる挑戦はなんでしょう。

大島さん :どうやったら、世界に挑戦できるか考えてます。ひのきは日本らしい素材だから、これで打って出たいんです。面白いじゃないですか、この、ど田舎から世界の最先端のものづくりを発信できたら。田舎=資源のおひざ元にいるわけなので、有利なんじゃないかと思うわけです。

― 確かにそうですね。

大島さん :社員みんなで、家具の本場デンマークに、研修旅行にも行ったんですよ。テキスタイルの視察でフィンランドにも寄りました。その経験をもとに、オリジナルのテキスタイルの開発にも挑戦しています。

完璧を追求し、丁寧に感触を確かめながら仕上げていく

― それは夢が広がりますね。

大島さん :でも、足元でやらなくてはいけないこともたくさんある。だからすごく忙しい。「明るい引きこもり」で、始終工房にいます。うちの家具はすべてオーダーメイド。一人ひとりの一生ものをつくるため、絶対に妥協はしません。社員には、僕らは家具をつくる仕事をしているのではなく、対価をもらう仕事をしているんだと言っています。総合的にです。だから、ホスピタリティのある技術者にならなくてはいけない。この両方が揃うって、実はあんまりないんです。

いい家具をつくり、いい森をつくりたい

― そこまでできる熱意の原動力はなんなのでしょう。

大島さん :ここに来てやっていることの原点はやはり、あのおじいちゃんの植えたひのきの森ですね。それを大切に受け継いできた人に会って感動した。「この人を笑顔にしたい、家具を手にしたお客さんも笑顔にしたい」その一念です。

― 林業が衰退し、かつて植林された木の利用がなくなったことで、荒廃した人工林が日本中にありますよね。里山が失われ、人と森との距離も遠くなりました。

大島さん :この辺の、すこやかな森では、ヒメボタルを見ることができます。初夏に舞うのですが、すごく幻想的な風景です。僕らがここの木を使ったことで、そんな森が増えていったら嬉しいです。それから、うちの家具を注文くださる人たちの多くが、都会から工房に足を運んでくれるので、「家具を買ったら田舎がついてきた」なんて言って、この山あいの村に愛着を持ってくれたら最高ですね。

大島正幸さんの生きるヒント『「情熱は足りているか」自分に問う。』チャレンジしたい夢があって、その夢が、自分と周りの人を、少しでも幸せにできるような夢なら、これ以上に嬉しいことはないでしょう。だけど、チャレンジするには情熱がなくてはいけないですよね。毎日、朝起きたときと寝る前に、「情熱は足りているか」問いかけることを習慣にしています。…って、うちの社員はいつもこんなこと言われてたまんないと思います(笑)。厳しくもやさしく、粘り強く僕につき合ってくれる妻も、立派だと思います!


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