今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第15回《後編》料理研究家 中島デコさん

そのときできることをしていたら、扉が次々開かれた。食を通して、調和のとれた暮らしを伝えたい

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プロフィール
なかじま・でこ/東京都出身。高校時代にマクロビオティックに出会う。最初は疑心暗鬼だったものの、元気な子どもをたくさん産みたくて、身体を整えようと、20代半ばから実践。結果、2度の結婚で5人の子どもを出産し、丈夫に育てることができた。内輪で開催していたマクロビオティックの料理教室が人気を博してゆき、この世界で知られるように。99年に夫でありフォトジャーナリストのエバレット・ブラウン氏と千葉県いすみ市に移住。カフェや宿泊施設、田んぼと菜園を備えた田舎体験の場、「ブラウンズフィールド」を運営する。「中島デコのマクロビオティック ライステラスカフェ」(PARCO出版)ほか著書多数。 ブラウンズフィールド公式サイト

家族でない人のいる生活は、メリットが多い

 

運営する宿泊施設「慈慈の家(じじのいえ)」での料理教室。自然素材を多用した、使い勝手の良い自慢のキッチンなのだそう。

― ブラウンズフィールドは、中島さんと夫のエバレット・ブラウンさんの暮らしの場でありながら、ゲストを受け入れて、スタッフ同様に農園で働いたり、伝統食を手づくりしたりする場としても開放していらっしゃるのですものね。

中島さん :ゲストといってもお客さまという意味ではなくて、寝る場所とマクロビごはん付き、菜園付きの古民家暮らし…要は私たちと同じような暮らしを、ちょっと長めに体験してもらってるの。そもそもここではスタッフも生活してるから、だいたいいつも10人くらいかな、入れ替わり立ち替わり、大家族みたいなものです。

― ご家族以外の人たちといつも一緒だと、気が休まらないということはないですか。

中島さん :たいへんなこともなくはないですよ。でも、たくさんで生活すると、頭数がいる分、事件が多いでしょ。ネタが尽きなくて楽しいし、分かち合えるのっていいですよね。それから、楽なことも多いですよ。

― 楽なこと、ですか。

中島さん :無駄が少なくて効率がいいの。シェアし合って、譲り合って。やってみてわかったのだけど、一昔前の日本の大家族って、すごく機能的で合理的だったんだなぁって思う。おばあちゃんにも、若い人にも、それぞれに適した役割分担が自然にあって。

― なるほど。

中島さん :でね、血のつながりだけでなくたっていいと思うんですよ。ちょっと心を開けばいいだけ。それに、家族だけだと甘えがあるから、つい相手に対して辛辣になっちゃうことってあるでしょ。家族ではない人がいると、クッションになってうまくいく。私も今はね、夫のことを「いてくれさえすればいい」と思えるんですよ。ほかの人の存在がなかったら腹が立っちゃうような場面もね、やわらぐの。

真の健康は、人を笑顔に、世界を平和にする

― 家族だけより煮詰まりづらいのは、わかる気がします。

中島さん :そうそう、煮詰まりづらいから、寛容でいられる。マクロビもそうなんですよ。精神と内蔵は直結しているという考え方で、健康でバランスが良くなるのは身体だけじゃないの。よく言われるんですよ、「キーキーしなくなる」って。私もそうでした。

― 中島さんの現在の印象からは、「キーキーする」ということ自体、想像がつきません…。

中島さん :昔はしてたのよ~(笑)。真に健康になると、落ち着いていられるの。楽になりますよ。自分自身のことから、政治、環境の問題にいたるまで、視界がクリアになってよく見えてくる。だから不安にならないし、ブレずにいられます。それって楽ですよね。そして、ストレスがなくて楽だから、人にやさしく、笑顔でいられるんです。

― ストレスがなくて楽だから…。それは本当にそうだと思います。

中島さん :マクロビというと、なんだかストイックで制約が多いと思っている人がいるかもしれませんけど、私も、外でその場に置かれたらパーティー料理も食べるし、お肉も口にしますよ。あれもダメ、これもダメとムキになったりすることはありません。ただふだん家ではそういう食事をしないだけ。特に現代においては、お肉を生産しようと思うと野菜と比較にならないほどの資源を必要とするでしょ。家畜が消費した大量の飼料、飼料となった作物を栽培するのに使った大量の水、それらすべてを、私たちが間接的に消費することになるのですから。お肉に限らず、ほとんどの人の食卓は、日々、世界中のあちこちから運んできた食べ物で成り立っているのだもの。農産物のつくり方もしかりで、食料問題は環境問題でもありますよね。

「ライステラスカフェ」の週替わりランチプレート。玄米ごはんと、旬のいろんな野菜のお惣菜。

あまりに絵になるおふたり…。パートナーのエバレット・ブラウン氏と。

― 特に自給率が低い日本は、まさに問題の当事者…。

中島さん :構造として、すごくバランスが悪いですよね。玄米菜食を自給自足で実践するって、大きくいうと世界中を飢えさせないことでもあると思うの。自分や家族が健康になって、世界の平和にもつながるのは、このうえない良循環。

― おっしゃっている「健康」の意味が、わかってきました。

中島さん :そう。真の健康は、表面的なことではなく、内側のことです。今の自分の役割は、循環型の調和のとれた暮らしを、食を中心とした自然との関わりを通して伝えてゆくことなのかなぁと思っています。決して難しいことじゃないの。義務感なんかなくても、実践してみれば、自分の身体で実感することができる。シンプルな暮らしをして、はつらつとしてご機嫌な人が増えれば、みんなハッピーでしょ。

中島デコさんの生きるヒント『食を変えよう』食を変えることで世の中は変わります。私はマクロビの信者ですが(笑)、みんながいきなり玄米菜食にしなくたっていい。食べ物ではないモノ…添加物や農薬を口にするのはやめること、誰が、どこで、どういう思いでつくったものかを知って消費すること、このふたつを意識するだけで、ずいぶん変わるはずです。自分を健康にするためには、運動をするとか、瞑想するとかいろいろあるし、それだっていい。でも食は、実践するのが簡単なばかりでなく、社会のいろんなことと一番つながっているでしょ。環境や平和というと、ひとり一人ができることがいかにもないように見えてしまうけれど、食を変えることで可能性が見えてくるんじゃないかしら。自分だけが幸せだったらいいだなんて、そんなことはありえないもの。

※マクロビオティックとは、日本人により提唱された、自然との調和を大切にした食事法。土地と季節に則した玄米菜食を基本とし、通常、動物性のものは控えられる。食材や調理法に陰と陽のバランスの視点を取り入れるなど東洋的な理論を持つが、生活習慣病の問題などを背景に欧米で先に広まった。


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