今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第15回《前編》料理研究家 中島デコさん

そのときできることをしていたら、扉が次々開かれた。食を通して、調和のとれた暮らしを伝えたい

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プロフィール
なかじま・でこ/東京都出身。高校時代にマクロビオティックに出会う。最初は疑心暗鬼だったものの、元気な子どもをたくさん産みたくて、身体を整えようと、20代半ばから実践。結果、2度の結婚で5人の子どもを出産し、丈夫に育てることができた。内輪で開催していたマクロビオティックの料理教室が人気を博してゆき、この世界で知られるように。99年に夫でありフォトジャーナリストのエバレット・ブラウン氏と千葉県いすみ市に移住。カフェや宿泊施設、田んぼと菜園を備えた田舎体験の場、「ブラウンズフィールド」を運営する。「中島デコのマクロビオティック ライステラスカフェ」(PARCO出版)ほか著書多数。 ブラウンズフィールド公式サイト
中島デコさんのじぶん年表

運命を変えた出会いは、ぬいぐるみショーのバイトで

― 中島デコさんといえば、マクロビオティック(以下マクロビ) に興味がある人なら誰もが知っている存在ですが、マクロビ自体、認知されるようになってきたのはここ10年くらいですよね。

中島デコさん :そうですよ。私がマクロビと出会ったのは16歳の頃。ぬいぐるみショーのバイトを通して知り合った方が、熱心に教えてくれました。「玄米食べたら運命変わるよ」と言われ、「なに?宗教…!?」というのが、女子高生だった私の最初の印象です。当時はマクロビのような考え方はまったくの異端でしたから、女子高生ならずとも引くような、そういうものでしたよね。だけど、その方からもらった本も読んでちょっと興味を持ち、母親にお願いしてお弁当に玄米を入れてもらうなどしてみました。なんだかいいものな気はしてましたね。

― ぬいぐるみショーで(笑)。それから、10年近く経って、マクロビを本格的に学び始めるんですよね。

中島デコさん :そう。それまでは、今とはまるで逆の、不健康の見本みたいな食生活だったのよ。ジャンクフード食べて、お酒や煙草をおぼえて。だけど私は子どもが欲しかったんですね。たまたま血液型がRHマイナスで、当時は、子どもを産んではいけないと言われるほどリスクが高いとされていました。諦めるか、産む気ならせめて大学病院ではないとダメだと。ショックでした。そんな大きな病院の先端医療のお世話になるのは気が進まず、なんとかしたかったので、結婚後はいよいよマクロビを実践することにしました。母体を整えようと思ったんですね。

― そしたら変化を実感できた。

中島デコさん :実感できたんですよ。まず、便秘がウソのように改善して、肌もつやつや、身体が軽くなりました。それだけでなく、気分もすっきりして、とにかく心身ともに調子が良くなったの。

― これはいけるぞと。

2010年頃の冬休みのファミリーフォト。子どもたちが成長し、孫が生まれ、「家族はどんどん増殖中」とのこと。笑顔がまぶしい!

中島デコさん :感じましたね。私自身が4人姉妹だった経験から、子どもが多いほうが楽しいと思っていたので、たくさん産みたかった。だから、前夫にプロポーズされたときは、「マクロビの料理しかつくらないけどそれでいい?」と聞いたのよ。最初の子は産院に助産婦さんを呼んでの自然分娩。安産でしたし、丈夫に育ったことで自信がついて、そのあとは産むごとに自信が増しました。出産のしかたもより自然な形にしていって、4人目はバリのバンガローで、5人目は家のお風呂で、ひとりで生んだんですよ。5人全員、マクロビで育てました。みーんな健康。私は子どもに、勉強ができてほしいなどとは考えないほうで、ただ、生命力と生活力に満ちた子どもに育ってほしかった。成功しましたよ。

初めての料理も、出産も子育ても、マクロビで

レシピ本はこのほかに何冊も。一番手前の「小さな子のマクロビオティックおやつ」(PARCO出版)は、長女の子嶺麻(しねま)さんとの共著。

― それですっかり「マクロビの人」に。

中島デコさん :私、すごく面倒くさがり屋なのよ。マクロビが続いたのは、楽だったからですね。基本、玄米食べさせておけばいいんだもの(笑)。結婚するまで料理なんかしたことがなくて、「ごぼうは皮を剥いて酢水にさらす」とかいうイロハを知らなかった。マクロビだと、皮も剥かないでそのまま使うのだけど、要するに最初におぼえたのは料理でなくてマクロビだったから、そっちが当たり前でした。子どもたちは生まれたときから生命力が強くて病気知らず。だから手がかからなかったし、面倒くさくなかった。子どもも自分も元気はつらつなんだもん、マクロビってシンプルで最高じゃないかって。

― なるほど。今では料理本を何冊も出されている料理研究家でいらっしゃるのに、お料理好きでもなかったのですね(笑)。

中島デコさん :全然。こんなことになるなんて、夢にも思ってなかったですよ。もともとエネルギッシュじゃないし、才能もないでしょ。外で働いてもたいして世の中のためにならないんだから、子どもと一緒に家の中でなにかしたいという発想で、その頃までにはきちんと修めていたマクロビで、月に一度のお食事会を始めたんですね。今でいうお家カフェでしょうか。会費はひとり500円。仕事になるだなんてまったく考えてませんでしたよ。だんだん来たい人が増えてきて、お食事会から教室のようになってゆき、頻度やスケールを大きくしていった先に、料理研究家としての道がありました。なにが功を奏するかわかりませんよ。

― その頃は東京ですよね。

中島デコさん :下北沢に住んでました。子育てはぜんぶ代々木公園で、公園の住人じゃないかっていうくらい、入りびたり。当時の代々木公園は今よりもっと自然な感じでね、薮なんかもあったのよ。そこで仲間と、子どもたちを遊び放題にさせるの。今では全国にある森のようちえんのような、自主保育のグループですね。広い公園でのびのびさせて、マクロビのごはんを食べさせて、そのときはそのときで楽しかったですよ。

計画したことがない。必要に迫られたり、直感に従っただけ

ブラウンズフィールドにあるカフェ、「ライステラスカフェ」の入り口。足を踏み入れたとたん、世界観が伝わってくる。

― だけど移住を考えられた。

中島デコさん :ずっと、経済状況がどうであれ、食材はいいものを買っていたんです。でも子ども5人でしょ。都内の自然食屋さんでオーガニックの野菜を買って食べさせていたら、エンゲル係数がどうしようもないくらい上がってしまって。家ももっと広いところに移りたかったし、かといってそのために嫌なことを我慢して働くのかというとそれにも疑問を感じる。とにかく都会の経済社会に飲み込まれることにほとほと嫌気がさして、種を蒔いて出てきたものを食べられるような暮らしがしたいと思ったのね。

― それで現在の千葉県いすみ市に。

中島デコさん :千葉に住むというのも想定外だったんですよ。東京育ちの私にとって、千葉はお隣の県でありながら、持っていたイメージはゴルフ場くらい(笑)。自分には縁のない所だと思ってました。たまたま、夫の外国人ネットワークで、千葉でイギリス人の住んでた古民家が空いたらしいという情報を得て、たいしてその気もないのに出かけてみたら、思いのほか理想に近かったの。で、勢いですよ。迷ってるくらいなら行動だ!って、さっさと引っ越して来ちゃった。

― 今までのお話をお聞きしていると、いずれも計画性はなかったんですね(笑)。

中島デコさん :ないない!どれも必要に迫られたり、直感で判断したり、場当たり的(笑)。今までやってきたことのほとんどがそうですよ。そのときできることをしてきただけ。なにが正解かなんてわからないもの。自分で正解にすればいいと思っているの。

― 今の場所に移っていらしたことも、その後、ご自分の力で正解にしてこられたのだと思いますけれど、いらっしゃる前には、環境が変わることでの不安はありませんでしたか。

中島デコさん :それまでは東京を離れて地方に行く知人に対しても、正直言って都落ちのような感覚を抱いてました。それにやっぱり都会っ子でしたからね、店は早く閉まるし娯楽はないし、いざ移ったら淋しくなるんじゃないかという不安はありましたよ。結局ぜんぶ杞憂に終わりましたけど。

― 淋しくならなかったんですね。

中島デコさん :次から次へと遊びに来てくれる人が絶えなくて、終いにはほら、遠くは海外からやって来る未知の人たちと、一緒に生活するまでになっちゃった。

※マクロビオティックとは、日本人により提唱された、自然との調和を大切にした食事法。土地と季節に則した玄米菜食を基本とし、通常、動物性のものは控えられる。食材や調理法に陰と陽のバランスの視点を取り入れるなど東洋的な理論を持つが、生活習慣病の問題などを背景に欧米で先に広まった。


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