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- おおしま・まさゆき/栃木県出身。 木工房ようび 代表兼職人。建築学部を卒業するも、平面図から立体空間が感じられないことに問題意識をおぼえ、木工を学ぶ塾に入塾。2年の無給修業時代を経て、飛騨高山の家具メーカーに就職し、家具の製作・設計など幅広く携わる。ひょんなことから出向いた、岡山県にある人口1600人の山あいの村、西粟倉との運命の出会いによって同地に移住。地元の木材を使ったオーダーメイドの家具づくりに心血を注いでいる。福武文化奨励賞など受賞歴多数。
― 大島さんは、どんな縁で西粟倉村に移り住むことになったのでしょう。
大島さん :飛騨高山にある会社に所属して家具づくりをしていた当時、つき合っていた建築士の彼女…現在の妻が、あるプロジェクトの見学で西粟倉に行くことになったというので、現地に出向くのに僕が運転手として同行しました。それまではまったく知らない村でした(笑)。
― 運転手で、ですか(笑)。そのときに初めて西粟倉を知ったのですね。
大島さん :はい。彼女と一緒に西粟倉に来たときに、ここで地域活性につながるさまざまなプロジェクトを仕掛けている方とお話しする機会がありました。そのときに、西粟倉の森づくりのビジョン「 百年の森構想 」を知り、感動してしまったんです。加えて、植えられてから90年が経とうとしているひのきの森の、代々大切に手入れされてきた姿を見て、胸を打たれてしまった。それはもう、衝撃だったんです。人の手で植えられた木でつくられた森には、人による管理が必要です。管理にはお金がかかるけれど、お金をかけても今は木が売れない時代。外材のほうがうんと安いからです。まったく採算のとれないことを、「おじいちゃんが植えた木だから」という理由で、心をこめて長年やっている人がいる。その人ももうおじいちゃんの年齢です。その森がまたきれいなことといったら…。もう、泣いちゃいました。
― それで、そのひのきを使った家具をつくる決意を。
大島さん :雷に打たれた感じですよ。それまでの僕は、家具の素材である木のこともよく知らずして、胸を張って仕事をしていた。家具職人として、「何をやっていたんだろう」と思えてなりませんでした。そして、これを言うと笑われるんですけどね、あのきれいな森のひのきで家具をつくりたくて、飛騨高山に戻った翌日に辞表を出しました。
― 翌日に!
大島さん :僕がそういうタイプだと言ってしまえばそれまでなのですが(笑)、もう、理屈じゃないんですよね。夢を見てしまった。やりたいと思ってしまった。情熱もあった。だから仕方がなかったんです。それまでの会社でやらせてもらっていた仕事に、何ら不満があったわけでもなく、むしろやりたいことをやらせてもらっていた。期待もされていました。だけどもう、決めてしまったんです。悩みませんでした。
― すごい。でも実際、ひのきで家具をつくるのは簡単ではないのですよね。
大島さん :家具の材としてひのきを使うのは、この世界ではありえないことなんです。家具職人としての腕にはある程度自信があったので、それでももう少し楽にできると思っていました。ところがこれがまったくうまくいきませんでした。何度も何度も試作をして、どれもダメで、工房から試作品を放り投げたり…地元の人には相当怪しまれていました(笑)。もう、おかしくなりそうなほど向き合って、ひのきを使いこなす技術を編み出しました。西粟倉に来てから1年が経っていました。
― 1年間も…。
大島さん :そうです。苦労したのは家具のつくり方だけじゃないんですよ。それまでは材を自分で調達するとか、ましてや今生えている木をどうこうするだなんて考えたこともなかったのに、西粟倉に来て木をどう調達したら良いか聞くと、「木ならあの山に生えてる」なんて返事が返ってきた。いやこれは参ったぞ、と思いました。
― ずっとおひとりで頑張っていらしたんですよね。
大島さん :たったひとりで、あんなに孤独だったことはありません。工房こそ安く借してもらえましたが、西粟倉に来たときの所持金は30万円です。そのほかの財産は道具箱ふたつ。我ながらすごいというか、ひどいというか(笑)。孤独で不安で眠れなくなって、1週間で9kgも痩せた時期もありました。それだけ苦労して、ひのきで家具をつくれるようになったのに、その技術をあまり驚かれないのでびっくり(笑)。家具職人だからひのきでもつくれると思ったら大間違いで、それは、プロのサッカー選手だから野球もできるでしょ、と言うくらいの話なんだけどなぁ。
― そうなんですか。本当に努力されたんですね。
大島さん :座右の銘が「努力に勝る天才なし」ですから。
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