今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第19回《後編》鈴木 俊太郎さん

暮らしにまつわるなんでもを、マルチにこなす“自立”した人。小学生で描いた理想を実現中

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プロフィール
すずき・しゅんたろう/東京都出身。子どもの頃は虚弱体質だった。1977年公開の米映画「アドベンチャーファミリー」の自給自足生活に感銘を受け、小学生にして生きる方向性を定める。やはり小学校時代にヨガや医学に興味を持ち、同時にものづくりを学び始める。高校からはアウトドアに没頭。プログラマーとして働いた大手光学機器メーカーを26歳で辞めて世界一周の新婚旅行に。その後約10年、障がい者福祉施設で働くも体調を崩したことで整体を学び独立。移住先の旧相模湖町に自宅兼整体院を建ててオフグリッド発電を取り入れる。求めに応じて電気工事、大工仕事、溶接、伐採を手がけ、学童保育の指導員や防災の講師も務めながら自家焙煎のオーガニックコーヒー販売まで行うマルチぶり。漢方整体「森氣庵」公式サイト

自然の中で、理想の暮らしが着々と

 

― それにしてもいいところが見つかりましたね。都会からさほど離れていないのに、自然がいっぱいです。

鈴木さん:土地探しにはおおかた5年を費やしました。新婚旅行から戻って以降、相模原市内に住みながら障がい者福祉施設の職員として働いていて、通勤できる範囲でずっと探していました。伊豆はかなり見ましたし、長野でも探しましたね。

― なかなかお眼鏡にかなうところが見つからなかった。

鈴木さん:僕らは、田舎暮らしがしたかったのではなく、自然の中で暮らしたかったんです。当然、その場所の自然環境が重要になります。「雑木林に囲まれた、沢や川が近くにある100坪以上の土地」で、「できれば井戸水がいい」。そして予算を伝えると、だいたいどこでも、「そんなところはありません」と言われました(笑)。ここは150坪もあるうえ、ほかの条件も満たしていました。ふたりして、一目見て決めましたね。

高い吹き抜けの鈴木家では、なんと自宅内でクライミングができる。これを設置する過程で、溶接技術も身につけた。

― おお。

鈴木さん:とにかく、人工的なもののないまっさらなところを、一から自分の自由にしたい願望が強いので、賃貸は嫌でした。この先お金持ちになれる気はしませんけれど、仮になったら無人島を買いたいくらいです。

― いやぁ、でも、無人島に行くまでもなく、かなり理想的な暮らしなのではないですか。

鈴木さん:理想には、かなり近づきましたね。楽しくやっています。

心身が疲れ果てていた頃もあった

― そんな鈴木さんも、30代で体調を崩して、ご苦労されたのですよね。

鈴木さん:はい。勤めていた福祉施設が忙しくて。24時間対応が必要なポジションになってからは、仕事の電話が鳴る前に、かかってくることを察知してしまうくらい、常時神経過敏に陥ってしまいました。3年くらい、いつも心身が疲れていて、まったく力がわきませんでしたね。いわゆる自律神経失調症です。口にはしなくても、妻も僕がうつ状態だと思っていたようです。

― おつらかったですね…。でもそれがきっかけとなって、整体を学ぶことにしたんですよね。

鈴木さん:自分がそうなったことで、東洋医学に興味を持ちまして。そこから、独立すべく整体の学校に通ったんです。

鈴木さんの施術は心地良く、眠ってしまう人も多いのだとか。妊娠中の方、寝たきりの方も受けられる。

― 整体は、学んでみてすぐにピンときましたか。

鈴木さん:経験のない人には伝わりづらい話かもしれませんが、空手やクライミングなどを通して、筋肉の動かし方や、人の体への力のかけ具合のようなものが、感覚として備わっていたんです。これらは整体にすごく活きました。ですから、最初から入ってゆきやすかったですし、深めてゆきやすくもありました。自らが自律神経失調症を患ったことも、結果として、同じように弱っている人の施術に役立っています。「楽になった」と感謝される、幸せな仕事だと思っています。

問題意識に矛盾しない暮らしを実践し、楽しむ

販売用のコーヒーのためにつくった、電動ドリルの動力でまわるコーヒー焙煎マシン。できばえにはかなり満足しているそう。

― なるほど…。漢方整体師のほか、もうひとつの主たる肩書きである電気工事士のことも少し教えてください。

鈴木さん:第二種電気工事士の資格を取ったのも、成り行きといえば成り行きです。東日本大震災の大規模停電のとき、自作のオフグリッドシステムのおかげで、うちだけ明るかったんですね。震災後は、電力に対する危機感がいろんな意味で高まっていましたから、興味を持つ人がちらほら出てきたんです。藤野電力が立ち上げられ、活動は、メディアにもけっこう取り上げられました。僕は当初、ミニ太陽光発電のワークショップを担当していましたが、オフグリッド施行の需要が出てきたため、資格を取得して、現在は、そっちをメインにおこなっています。

― 需要が増えてきましたか。

鈴木さん:増えてきましたね。僕らの手がけるオフグリッドシステムの特徴は、そのコンパクトさなんです。予算40万円ほどで導入でき、日常的に使用する電力の一部をオフグリッドに切り替えられます。照明など、毎日使用するものが自然の力でまかなわれる生活をしていると、太陽に感謝したり、省エネの暮らしに愛着がわいたりするもので、その変化は外から見ていても楽しいですよ。

― 確かに、電気代が下がることや非常時に安心というのもメリットですが、気持ちの面で、暮らしへの愛着がわくというのは大きいように思います。鈴木さんご自身は、震災の前から発電装置を自作していたんですよね。原発や環境に対する問題意識からですか。それとも持ち前の、なんでも自分でつくり出す精神からですか。

ロフト部分は、古民家から出た廃材を材料にして、お正月休みに自作した。居心地が良く、萌菜ちゃんも気に入っている。

鈴木さん:自分たちの手でつくり出してゆく作業には、その過程で学べることがたくさんあるし、第一楽しいんです。だから後者寄りですかね。僕ら夫婦は、自然の中で暮らしたいと思い続けてきたくらいですから、自然を大事にしたい気持ちは強いです。もちろん、原発にしても、ほかの環境問題にしても、関心がなかったわけではありません。ただ僕は、「問題だ、反対だ」と言うより、反対の暮らしを工夫し、実践することに意味を見いだしています。

― 「楽しい」というのは、すごく伝わってきます。地球環境の状況を考えると、人間は多少なりともガマンをする必要もあると思いますが、鈴木家の暮らしには、ガマンをガマンと思わせないものがあります。ストイックに感じられないし、実際、ガマンしていないですよね?

鈴木さん:ガマンしてませんね。だって理想に向かって進んでいるわけですから。楽しいし、快適ですよ。妻も面白がってますし、小学生の娘も、友だちを家に連れてきたがるんですよ。で、連れてこられた子たちも、ここをすごく気に入って、繰り返し遊びに来てくれます。あとは、住宅ローンを返すことだけですね(笑)。

※オフグリッドは、電力会社の送電網(グリッド)から電力供給を受けず、太陽光などで発電した電気を自ら使う、いわば電力の自給自足のこと。

鈴木俊太郎さんの生きるヒント『やってみよう!』興味を持ったら、まずやってみる。結果を得るにはやってみる以外にないのだから、難しいことを考えるより、実践してみるって大事ですよ。例えば田舎への移住。都会の人は、生活にいろんな理想を描くけど、いざ実践となると手が動かないことが多い。その点、田舎の人は、難しい理屈はなくても、なんでもできます。都会はなんでもお金と引き換えで、お金を抜きに自分から動く習慣がないし、学校や会社でそうなるのでしょうか、できるようになってからやろうとするんですよね。子どもの頃、初めて「百姓」の本来の意味を知ったとき、人としてめざすべきはこれだと思いました。何でもできると言われますが、最初からできたわけもなく、やってみたからできるようになったんです。どんなこともそうですよね。


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