今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第20回《前編》山腰 眞澄さん

勝ち組キャリアを捨てて夢の移住を果たしたのち、一年を待たず逝った夫。絶望を乗り越え、奄美で生きる

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プロフィール
やまこし・ますみ/東京都出身。東京でありながら自然豊かなエリアで育つ。中高一貫の名門女子校に通いつつ、自由な校風の下、ハードロックに目覚めてガールズバンドを結成。短大卒業後にOLを経て外資系の経営コンサルティング会社に就職。バブル絶頂期、ハードな下積みののちにコンサルタントにキャリアアップ。30歳で上司だった男性と結婚。早期退職&田舎に移住をめざし、力を合わせ貯蓄に励む。国内外をまわった末に、奄美大島を移住先に定め、計画通り早期リタイア。移住を果たし、念願の生活をスタートした矢先に最愛の夫を事故で失う。失意のどん底を経験するも、奄美の人と自然に癒され、島で生きると決める。会社を設立して移住支援サイトを立ち上げて、現在も奄美のために活動中。奄美群島移住支援サイト ねりやかなや
山腰眞澄さんのじぶん年表

ロック少女がOLに。「You’re fired!」も経験!

― 山腰さんは、今世間で言うところの「勝ち組」として、経営コンサルタントとしてのキャリアを積んでこられていますよね。女性の多くが“寿退社”する時代にあって、学生時代からキャリア志向が強かったのでしょうか。

山腰さん:いえいえ、若い頃はなんにも考えてませんでした。高校ではガールズバンドでドラムを叩く、ロックな日々!勉強はそこそこできる、ちょっと不良(笑)。短大を出て外資系の製薬会社に入ったのも、単に高いお給料目当てでした。キャリアとか将来とか、真面目に考えたことはなかったですね。

― 就職して仕事をしてゆくうちに、面白くなっていったのでしょうか。

山腰さん:そうですね。入社して営業事務を1年。それなりに楽しんでいたのですが、その後、ひょんなことから配置換えになり、いきなり日本支社におけるナンバー2、外国人の秘書に指名されました。なのに資料をつくるのは遅く、英語力もあやしい。能力は足りないし、秘書課の女の園の住人に睨まれるし、ピンチの連続。1年後にはナンバー2の堪忍袋の緒が切れて、「You’re fired!(君はクビだ!)」って(笑)。ところが秘書をクビになった行きがかりで次に与えられた、市場調査の仕事が面白かったんです。自分が資料化した数字が事業計画の裏づけになることにやりがいを覚えました。

― あはは、ドラマティックですね!それが次のステップへつながってゆく。

山腰さん:市場調査の仕事に面白みを見い出したものの、組織の改編を機に転職しよう決め、やはり外資系の、経営コンサルティング会社の門を叩きます。知人のつてで面接だけはセッティングしてもらったのですけど、なにぶん、コンサルタントはMBA(経営学修士)取得者がぞろぞろという業界。「使ってみて役に立たなかったらクビにしていいですから!」と売り込んで、アシスタントとして入社し、それからは文字通り、寝る間を惜しんで学び、働きました。

― 熱意の原動力はなんだったのでしょう。成功への野心とか、キャリアの確立とか。

山腰さん:単に目の前のことに必死でした(笑)。確かにもともと上昇志向は高いほうだとは思いますけれど、当時はあれこれ考える余裕なく猛進している状態で、とくにかく、「一人前のプロになりたい」、その一念でしたね。

― 仕事そのものは、やってみてどうでしたか。

山腰さん:クライアントが真剣に自分の話を聞いてくれることに対する快感がありました。あと、仕事の性質上、クライアントの評価がすべてなところや、生き残りのための競争が熾烈なところも、性に合っていたようです。

「女性は家庭」の時代、エリートに囲まれながら突き進む

― それが性に合っているというのがすごい…。

山腰さん:ふつうの職場だと、上司との相性で評価が変わったりするじゃないですか。だけどそれがないでしょ。どんな憎たらしい人間でも、クライアントが絶賛すれば、それが評価のすべて。業界では、2年で8割の人間が入れ替わると言われています。そのスリリングさも良かったんですよね。

― 強い…。

山腰さん:なにより、下っ端であればあるほど忙しい世界だったので、駆け出しの私としては、早く“平(ひら)”から抜け出して楽をしたい!と、心底思ってました。馬車馬のように働きながら、週に40冊もの本を読破して、猛烈に頑張りました。私が忙しすぎて彼氏とも長続きしないような生活ですよ。

― その頃の女性としては珍しいですよね。

山腰さん:そうそう。ですから、当時の彼氏には、「なんで君が男の僕より忙しいんだ」と言われました。女性は四年制の大学を出ただけで就職が難しくなったり、社会に出て3年もすれば、「家庭に入らないのか」と言われるような時代です。だけどその頃の私は、彼氏に「家庭に」などと言われても、「プロになるのが先でしょ!」と。一人前になる前に、ここで投げ出してなるものかと思っていました。

― その甲斐あって、一人前になられた。

山腰さん:めでたくアシスタントを卒業して、コンサルタントになり、その後も順調に登ってゆくことができました。学歴等を考えると、異例のケースでしたが、これもやはり、なによりクライアントの評価が勝るということで。

― なるほど。そんな中で、パートナーとなられる男性に出会い、結婚。職場結婚ですよね?

結婚後、ふたりで何度となく訪れたフィリピンのボラカイ島で。ちょっと奄美に似ていたそう。

山腰さん:はい。同じプロジェクトで仕事をした、私よりずっと上の立場の人でした。

― 今度は、「家庭に入らないのか」とは言われなかったのですね(笑)。

山腰さん:それどころか、厚生年金の受給資格がもらえる25年間を過ぎる、つまりは45歳になるまでは働きなさいと言われました!お互い忙しかったので、週末婚のような状態でしたけど、逆に、結婚した女性の役割とされがちな、家事のことなどは一切言わない人でしたね。

手に入れた念願の生活が暗転。最愛の夫を失って…

― 先を行く男性だったのですね。それにしても、厚生年金の…とは、セレブなご職業の方々にして堅実な(笑)。

山腰さん:彼はいつも、「キリギリスにはなりたくない」と言ってました。自分たちは、(高給なので)ちゃんと貯えさえすれば、人より早くリタイアして、田舎で好きな暮らしができるのだからと。

― では、在職中はあまり派手な生活はされなかったのですか。

山腰さん:堅実さもありますが、そもそもふたりとも、セレブ気質じゃなかったんですよ。夫は学生時代、国内で指折りのロッククライマーだったくらいで、アウトドア好きでしたし、私たちには銀座の高級レストランより河原でバーベキューのほうが合ってました。仕事でのお客さんとの会食は、もれなく高級レストランだったので、プライベートでまで行きたいとも思いませんでしたね。バカンスで海外の高級リゾートに滞在しても、そうした場所だとディナータイムにドレスアップするのが億劫で、「やっぱりビーサンと半ズボンで過ごせる所のほうがいいね」と後悔したりして。

― おふたりの、そこの価値観が合致したのは大きいですよね。

山腰さん:そう思います。

― ですが、45歳で、本当にきっちりお辞めになったのがすごいです。おふたりとも、お仕事や収入に未練はなかったのですか。

山腰さん:いやぁもう、満を持してですから、まったくと言っていいほど未練はありませんでした。在職中は、バカンスを兼ねて国内外いろんな場所を見てまわっていましたしね。

― その中で奄美大島に絞っていかれたのですね。

山腰さん:いろんな条件から奄美大島が有力候補になりました。気に入る物件がなかなか見つからなかったのですが、ある日、不動産屋さんからの連絡を受けた夫が単身でここに飛んで、戻って来たと思ったら、「手付け打ってきたから」って言うんです(笑)。確かに、私たちが求めていた、海に面する理想的なロケーション。でも、あとになって、地元の人は決して家を建てない場所だと知りました(笑)。台風のときなんてもう、波がまともに…凄まじいです!ははは!

― 移住あるある…みたいな感じですね(笑)。そういうことを含め、環境も、ライフスタイルも、劇的に変わったのではないですか。

山腰さん:それはもう!人間の暮らしになりました(笑)。

― そんな、念願の暮らしを手に入れて、わずか11ヶ月で…。

ご主人の直人さんが、最後につけていたフィン。処分できずに飾っているのだそう。

山腰さん:夫がシュノーケル中に心不全を起こしたとき、たまたま私は一緒ではなかったんです…。

― 本当に、たいへんな思いをされたと思います…。

山腰さん:知らせを受けてからのことは、鮮明に記憶しているつもりでいて、その記憶が本物なのかもわからないような感じでもあります。頭が真っ白になるというのは、こうゆうことなんだと知りました。一ヶ月くらいは、真っ白なまま。正直、あとを追う余裕もありませんでした。


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