今月の「生きるヒント」

シリーズ 女性の生き方 ターニングポイント~わたしの転機~ vol.6 渡辺真起子さん 演じることと 生きることを見つめて

プロフィール
わたなべ・まきこ/1968年、東京都生まれ。1986年、モデルデビュー。1988年、映画初出演。1989年、ファッション誌『CUTIE』の創刊号の表紙を飾る。モデル業も継続しながら、映画を主軸に、舞台、TVドラマなどに出演する。1999年、諏訪敦彦監督作品『2/DUO』に出演。ロッテルダム映画祭正式参加作品。それをきっかけに、同監督の2作目『M/OTHER』に主演。本作が、カンヌ映画祭国際批評家連盟賞を受賞。2007年、河瀬直美監督作品『殯の森』に出演。同作品は第60回カンヌ国際映画祭にて、審査員特別賞にあたるグランプリを受賞する。同年に小林政広監督作品『愛の予感』に主演。第60回ロカルノ国際映画祭において4つの賞を受賞。2009年、園子温監督『愛のむきだし』に参加。主人公の継母役で好評を得る。他、若手監督の作品にも多数参加。独特の存在感には定評があり、さまざまな監督より参加を望まれる俳優のひとり。

小学4年の演劇クラブで、一生の職業を決めた

蜷川幸雄演出の舞台
「あゝ、荒野」 稽古時
写真提供:Bunkamura
撮影:渡部孝弘

小学4年の時に、私、仕事としてお芝居をするって決めたんです。やりたいんじゃなくて、もう「やる」って決めた。これが一番大きな転機といえば、転機かな。ちょうど思春期の入り口だったんでしょうね、子どもなりにすごくアンニュイな感じの時期でした。クラブ活動を決めなさいって言われて、適当に選んだのが演劇クラブだったんです。一番はやくつぶれそうだったから(笑)。でもやってみると、活動がとにかく楽しかったんです。みんな演劇の素人で、指導書などを読みながら「どうやらリラックスするといい演技ができるらしいよ」と身体をだらーんとしてみたり、「太郎冠者!やはははは」などとわけもわからず狂言の台本を読んでみたりしていました。何も決め事がなく、何かを押し付けられることがなかったので、のびのびと演技ができたんです。あんまり自由でおもしろいので、友だちに声をかけていったらメンバーがどんどん増えて自主上演などするうちに、学校から「集会でこの演目をやってください」と依頼がくるまでになりました。参加する人たちも楽しそうで、すごく達成感がありました。そして、「あ、私、演劇に向いてるわ」と思ったんです。単純でしょう(笑)。

誰かに憧れたわけではなく、いまやっていることが楽しいから、「俳優になる」って決めたのは、すごくいい選択の仕方だったと思います。その頃やっていた芝居が、一番良かったんじゃないかな。こわいものなんか何もなくて、「楽しい!」という気持ちが全面に出ていたでしょうから。いまは、「どう見られるか」という事も気になって、なかなかそうはいかないのだけれど、子どもの時のお芝居にもう一度戻れたらいいなと思うことも多いです。


作品を通して「共有できる」喜びに気づいた映画祭

ロカルノ映画祭のコンペにて
グランプリ(金ヒョウ賞)を
受賞した時の写真。
小林政広監督と。

その後、モデルの仕事を経て、20歳で映画に出る機会に恵まれ、少しずつお芝居を仕事にしていくことになります。でも、最初のうちは、何に向かって芝居をしているのか、映画をつくっているのか、迷いのようなものがあり、立ち止まってもたもたしている部分もありました。そんななか、20代前半でオランダのロッテルダム映画祭と南仏のアヴィニョン演劇祭に行く機会がありました。そこで、演技というものが、日本から遠く離れた土地で、言語の違う人たちにもちゃんと伝わることを実感し、驚きと喜びを感じたんです。色んな人と気持ちを共有することに喜びを感じるんだと自覚しました。発想が変わったというか、視野が広がった経験でしたね。

現地ではいろいろな気づきがありました。たとえ舞台が小さくとも、人の心に残る強い物語を見つける努力をすれば、それを遠くまで運べるということ。伝えたいものを精一杯表現した演技に、人は立ち止まるということ。そんなことから、私は、ささやかなことを大事にしながら、演劇をがんばってもいいんだと、思えるようになったんです。90年代の始めって、「がんばることがかっこ悪い」みたいな風潮があったように思うのです。それが、どうしても自分のなかでうまく消化できませんでした。モデルから俳優にシフトしようとした時には「なんでわざわざ大変な仕事に?」「それで食べていけるの?」とよく言われました。でも、この映画祭、演劇祭の参加をきっかけに、世界中のいろんな場所で、いろいろなサイズの映画・演劇をつくっている人がいるとわかり、勇気をもらいました。今でも、ひたむきに何かを伝えようとする若手の監督などに出会うと、同じように勇気をもらいますね。


マイペースでいる代わりに、不安と孤独も引き受ける

30代までは、自分の生き方がどう仕事に生かされるのか、曖昧にしか分からず苦しかったですね。演技の技術は努力して重ねていくしかないのですが、普通に生活している部分も画(え)に定着させられてしまうような気がして。例えば、朝の連続ドラマを見ていたら、毎日その俳優さんを見ることになりますよね。それだけ見ていると、たとえどんなに隠していても、演じる側の素の自分みたいなものが、見ている人に伝わってしまうと思うんです。では、私はどのように生きていけばいいのだろうか。何を隠せて、何は隠せないんだろう。そもそも隠せるのか。そのあたりがわからなくて、自分に自信がないのも含め、なんだかもぞもぞ葛藤していたのですが、やっぱりその人そのものが見えたように思えた時に、すてきだと思ってしまうし、心をつかまれますね。

自分の生き方は、一言でいうとのろま?(笑)ですかね。なかなか納得しないと動けないゆえのスローペースです。小さい頃から、かけっこで一番先に駆け出しておいて、途中で何かが気になりハッと止まって、気づくとみんなに追いぬかれているタイプ(笑)。なかなか周りに合わせられないんです。考えている時もあるし、自分の心が動くのを待っている時もある。ある意味ぜいたくなのかもしれないけれど、自分のペースで生きることと引き換えにと言っては大げさですが、生じる不安や孤独は引き受けるぞ、と覚悟しています。母には「あんたはほんとにもう」と呆れられていますけれど(笑)。


無力さを感じた父の死、その気持ちを抱えて生きる

最新出演作 映画「Playback」
メイキング写真、
11月10日 渋谷オーディトリウムにて公開
(c)2012「Playback」/ Decade, Pigdom

人生で一番つらかったのは、4年前、父を亡くした時ですね。末期ガンだと宣告されるまではなかなか関係がうまくいっていなかった父と、距離を縮めなければいけなくなり、最後の1年半は本当に大変でした。亡くなった日に、ひとりで部屋に帰った途端、号泣しました。自分の人生もいつか終わるし、自分の愛している人の人生もいつか終わる。人はいつか、みんなとお別れしなければならない運命なんだと実感し、やりきれない思いになりました。やっぱり世界は自分の思った通りにはならないんだって。自分の命でさえ思い通りにならないのに、ましてや人の心や運命に対して、自分は何もできません。死にゆく父の胸の内なんて、本当の意味では誰にもわからないように思いました。死というのは、すごく個人的なことなんだと感じましたね。

でもこの悲しさがトラウマになるかというと、それはまた違う気もします。寂しさや痛みは、時間が経ってもうっすら残りますよ。でも、この寂しさ、悲しさ、孤独の原因を過去の何かに求めたところで、ある日ふと思ったんですよ。きりがないってね。そして、私は、この感情を抱えながら生きていくんだと、腹がくくれるようになります。私は、私以外にはなれないんです。これは、俳優の仕事をしているとむしろ強く感じます。役を演じようとする、その姿を晒せば晒すほど、別の誰かにはなれないことに気づく。だからもう、私というものを受け止め、それをふまえて役と向き合っていこうと思っています。できるだけ生きることに素直でいようと思うのです。

渡辺真起子さんの、生きるヒント

生きることを見つめるのって大事なことだと思います。自分、周りの人々、今世の中で何が起こっているのかということも含めて、見つめることから逃げないのが大切なのかなと。意識しないといろいろなことが、生活のなかで流れていってしまいますからね。でも、意識しすぎると1日が長いんですよ(笑)。こんな風に生きてると、きついことも少なくないけれど、それも悪くないと受け止めています。幸せなことが必要であるように、つらいこともまた必要なんじゃないかな。たとえ満ち足りたと思ってみても、またなにか目標をつくって、がんばろうとする生き物なんだと思います、人間って。

【色紙プレゼント!】応募受付は終了しました。ご応募ありがとうございました。当選者には、2013年2月上旬以降にご連絡いたします。


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