今月の「生きるヒント」

シリーズ 女性の生き方 ターニングポイント~わたしの転機~ vol.5 柿沢安耶さん 食べることは命の根源 それを楽しく伝えたい

プロフィール
かきさわ・あや/1977年、東京都生まれ。幼少期に『どろんこ こぶた』という絵本をきっかけに豚が好きになり、豚が掘り出すことからフランスのトリュフに興味を持つ。トリュフについて調べるうち、フランス料理全般に関心が出てフランスへの短期留学でフランス料理を勉強する。卒業後、パティスリーとレストランで経験を積み「おいしいだけでなく、食べた人が健康になれる料理やスイーツ」を提供する店を志すように。2003年に野菜が主役のレストランを栃木県に開店。デザートメニューとして出していた野菜スイーツが評判になる。2006年、世界初の野菜スイーツ専門店「パティスリー ポタジエ」を東京に開店。また2011年には野菜とお米の可能性を広げるため「野菜寿し ポタジエ」を六本木に開店。食育や農業への関心も高く、農業支援活動やイベント出演、小学校での食育セミナー、生産地での野菜作り体験ツアー、料理教室講師などを実施している。

食べ物で健康になれた経験が、道をひらいてくれた

小さい頃、すごく体が弱かったんです。ぜん息持ちで体育はほとんど見学でしたし、すぐ体調を壊して学校を休むこともしょっちゅう。授業についていくのがやっとで、劣等感がありました。中学に上がった頃からは学校を休むこともなくなり、大学時代の飲食店のアルバイトなどを通して少しずつ体力もついたのですが、体が劇的に変わったのは、マクロビオティックを実践してからです。マクロビオティックは「地元で栽培・収穫された旬のものを食べることが、健康な体をつくる」という考え方をベースとする食事療法です。実践したところ、風邪をひかなくなり、体重が増えました。肉、魚、乳製品、卵はまったく食べなかったのに、ですよ。もともと私は標準よりやせ型だったので太りましたが、太っている人はやせて、体の求める適正体重に近づく食事なんだと思います。この経験から、食べるもので明らかに体が変わる、健康になれると確信し、有機野菜をつかったレストランをオープンしたいと考えました。


初めて訪れた畑は「命が生まれる現場」だった

有機野菜のレストランを栃木で開くことに決め、食材の仕入先を探すなかで、野菜を育てている農家さんを訪問しました。テレビや本で見たことはありましたが、畑に足を踏み入れるのは初めて。実際に土をさわり、いきいきと育つ作物を目の当たりにして、畑や田んぼというのは、野菜という命、そしてそれを食べる私たちの命を育む現場なんだということを強く実感したんです。それまで私は、有機野菜を料理して食べてもらうことで人を元気にしたい、ということしか考えていませんでした。でもそれは、この畑、そして農家さんがいて初めて成り立つことなんですよね。そこから、野菜に対する思い、料理に対する考え方がガラっと変わりました。

もともと私の料理は、それまで学んできたフランス料理やマクロビオティックの考え方を基本にしていました。野菜の使い方でいうと、フレンチでは、きっちり皮をむいて、へたもとり、きれいに面取りするし、マクロビオティックは逆に丸ごと全部使うようにする、それぞれ"型"があります。ところが、畑を知り、野菜に対する思いが変わった私は、そういった調理法にしばられずに「この野菜のいいところを引き出すにはどうすればいいのか」と考えるようになったんです。そこで生まれたアイデアのひとつが、野菜ケーキでした。


ケーキの小さな世界で、野菜の魅力をひき出す

ポタジエには
季節折々の野菜のケーキが
並ぶ

洋菓子店で働いていたときに「ケーキがもっと体に良ければいいのに」と思っていました。ケーキを食べると心は満たされるけれど、脂肪分、糖分が多いから体に悪いのではないかと少し抵抗感があったのです。野菜でケーキをつくれば、ケーキの幸せな感じはそのままに、健康にもいいものがつくれると思いさっそく試作を始めました。しかし、一筋縄ではいきませんでした。さつまいもやかぼちゃなどだけでなく、トマトやゴボウ、小松菜、アスパラなどもケーキにしようとすると、思い通りにならないことがたくさん。切り方一つで、見え方も、味の出方も、食感も変わるのです。大変でしたが、野菜の可能性がどんどん見つかる過程でもありました。全部一緒にミキサーにかけてピューレにして練り込んでしまってはもったいない。ケーキという小さな世界のなかで、一つひとつの野菜をどう魅力的に見せるかを工夫するのが楽しかったですね。

洋菓子の世界は、基本的にヨーロッパ志向です。素材も「ベルギー産最高級チョコレート」などがよくうたい文句になっているように、本場の素材を使うことがよしとされていました。私が野菜ケーキをつくり始めた当時はめったにありませんでしたが、最近は国産の果物の産地が明示されていることもありますよね。食に対する考え方が変わってきたのを感じます。


農家の現状、食の大切さについて発信したい

農家の方々と交流するようになり、いま農家が抱える問題、ひいては日本の食の問題が見えてきました。不思議だと感じたのは、野菜の値付けです。ケーキだったら、素材の原価や人件費などを考えた上で、利益が出るようにこちらが値段を決めることができます。でも、野菜はかかった時間や関わった人数がどうであれ、たくさん出回っていると安くなってしまう。旬の野菜は最高においしくて栄養価も高いけれど、その時期が一番安いんですよね。労力の割に収入が不安定なこともあり、跡継ぎ問題も深刻です。いま、農家の平均年齢は60歳を超えています。あと10年経ったらどうなってしまうのでしょうか。

こうしたことを知っていくうちに、ケーキをつくるだけでなく、農家の現状や食の大切さについて発信していかなければと思うようになりました。とはいえ、こちらが一方的に伝えたいことを発信しても届かないので、表現の仕方はすごく気をつけています。たとえば、ケーキのショーケースに全部生産者の方の写真を貼り付けたら、ケーキ屋さんらしい楽しい雰囲気が薄れてしまうでしょう。押し付けるのではなく、楽しく知ってもらうために、店頭で配るポタジエニュースという新聞をつくるなど、試行錯誤しています。

健康であることは幸せなことです。その健康は食からきていると信じていますから、そんな人間の根幹に関わる仕事に携われていることを、心からうれしく思います。これからも、食にまつわる楽しさや、新しい発見、大切さを、おいしい体験を通して伝えていきたいです。

柿沢安耶さんの、生きるヒント

食べることを楽しむ、ですね。嫌なことがあっても、食事がおいしかったらそれだけで幸せになれるはず。いまの若い人はコンビニで買って、手早く食事をすませてしまうことも多いでしょうけれど、自分で料理をしてみるだけで食べ物に対する考え方は大きく変わると思います。
「食育セミナーに参加しよう」という入り方には、身構えてしまう人もいるかもしれませんが、まずは食べることを楽しい、料理することを楽しい、と思うことから始めてほしい。それが、自分の体に気を遣うことにもつながりますし、農業や自給率の問題へ興味をもつ入り口にもなると思うんです。

【色紙プレゼント!】応募受付は終了しました。ご応募ありがとうございました。当選者には、2013年2月上旬以降にご連絡いたします。


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