今月の「生きるヒント」

住まいに愛情、暮らしに愛情

一生のうち、住まう家は限られています。長く過ごすところだから、できるだけ居心地よく、自分らしく保ちたい。常に最高のモノに囲まれて生活したり、時間をかけてお手入れしたりは無理でも、それぞれのペースで、日々の豊かさを感じられる暮らしがしたい。こころも充実、エコで豊かな「生きるヒント」をお届けします。

第3回 森の国ニッポン。国産材と暮らす。

日本は、国土の約7割が森林という森林大国です。うち約4割がスギやヒノキをはじめとする針葉樹の人工林。木材の需要が急増した時代、日本中で植えられました。この需要はやがて、輸入自由化や、燃料が化石燃料に置き換わったことにより落ち込んで、国内の林業は衰退、利用されなくなった森林の荒廃が進んでしまいました。手ざわり、風合い、香り…素晴らしい素材であり、再生可能な資源である木材。見直されつつある、日本育ちの木のある住まいのご提案です。

自分で貼れる、無垢のフローリング

教えてくれた人

西粟倉・森の学校

坂田憲治さん

「百年の森林構想」を掲げる岡山県の西粟倉村。西粟倉・森の学校は、森林率95%、人口約1,500人の村で、2009年に移住者により設立され、新しいタイプのベンチャー企業として注目されてきました。事業の柱は移住・起業支援、木材の加工と流通。大阪出身の坂田さんも、地域の資源を活かしたものづくりの産業化を目指し、一員になったひとりです。

西粟倉・森の学校公式サイト
賃貸住宅にも、オフィスにも貼れる!

地域の間伐材を使った、この製品が発売されたのは2011年。無垢の木の床というのは、理屈抜きで本当に気持ちのよいものです。「ユカハリ・タイル」は、多くの人に、その素晴らしさを味わってもらいたいとの思いで開発されたそうです。簡単に運べてセルフで貼ることができ、賃貸でも気軽に「木のお部屋」にお化粧直しができることから、都会の賃貸住宅にお住まいのご家庭を中心に売り上げは好調だとか。また、坂田さんを含む西粟倉・森の学校のメンバーが予想していたよりも需要があったのがオフィス。「IT企業などは内勤が多いため、オフィスが快適であることがより重要なんだと思います」と坂田さん。確かに、床が全面木のオフィスなんて、憧れますね。

写真:こうして、敷きつめてゆきます。お値段は、8枚セットが約11,000円から。

元気な森にするために使う。無駄なく使う

人工林を健やかに保つには、手入れ、特に間伐(木を間引くこと)の作業が不可欠です。間伐をしないと、成長するにつれ密集してきて根を張れず、植えた木がたくましく育たないばかりか、日の光が届かないことからほかの植物も育ちにくいため、生物の多様性や、森が生み出す水資源の面からも、また、土砂崩れなどの災害を防ぐ機能の面からも、弱い森になってしまいます。林業が衰退して久しい日本では、手入れされないまま荒廃した森が各地で問題になっています。ユカハリ・タイルの材料はヒノキとスギの間伐材。西粟倉・森の学校では、まずユカハリ・タイルに加工して、その端材は割り箸やクラフト製品に、そこでも使い切れない分は燃料にして使い切ります。使うほどに森が健康になり、無駄もありません。

写真:西粟倉村の、手入れの行き届いた人工林。

「気持ちがいいから」ファンが増加中

こうしたストーリーを持つ製品だからと、購入を決める方が多いのでしょうか。「そうですね。最初は理念に共感して買ってくれる人が多かったですね。だけど今は、モノの魅力だけで買ってくれる人も増えました。裾野が広がったと感じます。お客さんが次のお客さんを紹介してくれるケースも多いです」。であればまさに、理想的なご商売。取り入れたお客さんの感想をうかがってみると、「やはり、気持ちがいいという声が一番多いですね。空気が変わったと言ってくださる方もいます」。空気が…。木材は呼吸をするとよく言われるように、温度や湿度の調節機能もありますし、納得です。合板と違って、反(そ)ったりねじれたり、無垢材は品質管理がむずかしく、坂田さんたちも最初は苦労したそうです。「データをとりながら、乾燥のしかたを研究しました」。アイディアと努力で誕生した間伐材製品です。

写真:製造現場にも、木の香りが漂います。

ひと言アドバイス

触れるとあたたかなスギをリビングに、水に強いヒノキをキッチンにと、部屋によって貼り分けるのもおすすめです。無垢のフローリングには経年変化が生じますが、天然の味わいですので、革製品と同じように、そこも楽しみましょう。

坂田さんより

この仕事に就く前から、出どころを知る材料でつくる、お客さんにきちんと説明ができるものを扱いたいと思っていました。ユカハリ・タイルはいわば半完成品で、そこもひとつの魅力だと考えています。したい暮らしを描いて、それを自らつくってゆくプロセスも価値だと思うからです。一手間かけて、完成させるまでの時間も思い出にしてもらえたらうれしいです。

光もやさしい、杉のブラインド

教えてくれた人

サカモト

坂本晴信さん

鳥取県智頭町は、江戸時代から知られた「杉の町」。高品質の智頭杉は高値で取引きされ、町を潤しました。1957年に坂本材木店として創業されたサカモトも、創業当時は角材が「飛ぶように売れた」そうです。坂本さんは現在の社長の息子さん。子ども時代は「ダサい」とも感じた木を、今は愛しているそうです。

サカモト公式サイト
先人の工夫が、ブランド杉を生んだ町で

智頭町では、先人たちが価値の高い材にするべく、古くからスギの管理を徹底していたそうです。植えて20年目くらいになると枝打ち(節ができるのを防ぐため、枝を切り落とす作業)をし、適性に間伐を行いながら、年輪の間隔がつまった、真っ直ぐな木目の柾目(まさめ)になるよう育てていたのだとか。その甲斐あって智頭杉は、ブランドとして知られるようになってゆきます。木材が飛ぶように売れていた頃に話がおよぶと坂本さんが、「智頭町には、製材所が今の3倍ありました。映画館は3つ、駅前にはキャバレーまであったんですよ」と。今ののどかな風景からは想像もできません。日本の住宅に和室が減り、柱や床の間に用いる上等な建材の需要も減少。同時に、均質で安価な合成素材を利用して建てる住宅が増えたこと、外国産材が押し寄せたことなどが重なって、そんな時代も終焉を迎えました。

質の高い材を、高い技術で

平成の初め頃まで、建物の構造材を扱う会社だったというサカモトは、坂本さんのお父さんがドイツで目にした、木の建物が並ぶ街並みに感銘を受けたことをきっかけに、内装を手がけることにしたそうです。住む人に、より直接的に木の良さを伝えられるからです。しかし競争の多い世界です。付加価値の高い製品を模索した中でたどり着いたのが、智頭杉でつくるブラインド。語源が「真っ直ぐ」の「直ぐ」との説もあるほど真っ直ぐで軽いスギは、ブラインドに加工するのに適した材であったそう。「それでも、薄くするほど反りやすくなるため、木材の段階で個別に性質を見極めて、選りすぐったものだけで製造しています」。世界にもこれだけの長さの製品はないと、坂本さんが胸を張る最長4m。一枚板ですからすごいです。

写真:ブラインドは縦型と横型とあり、サイズにより50,000円台から。

杉は日本固有の、素晴らしい特徴を持つ木

サカモトのブラインドに使われるのは、樹齢80年を経た智頭杉。近くで見ても木目が細かく真っ直ぐで美しい。環境の観点から国産間伐材の利用が促進されてきたことから、「これからはいい主伐材が出てきますよ」と、うれしそうに話す坂本さん。「今の時代、3mほどの間伐材の細い丸太が市場で300円。柱材でも多くは2,000~3,000円程度です。これでは山の手入れはできないし、山主さんも売りたくないですよね。私たちのブラインドは量産ができるものではありませんが、地域に利益が落ちる値段で売ることができます。買ってくれたお客さまにも、お部屋に入る光がやわらかくなったなどと喜んでいただいています。昨今は嫌われ者にされがちなスギですが、日本固有の素晴らしい材であることも知ってほしいです」と、言葉に力を込めました。そう、花粉症で悪いイメージがついたスギではありますが、特に成長期はCO2を非常に多く吸収するそうで、さまざまに貢献してくれている木でもあるのですね。

ひと言アドバイス

木のブラインドは、静電気によるホコリの吸着が起こりづらく汚れにくいため、長く美しさが保たれます。日頃のお手入れはほとんど必要ありません。

坂本さんより

子どものときに覚えた木の香り、ぬくもりは、どこかに残るものだと思います。ほんの小さなものでも構わないので、小さい頃から「一家に一木(もく)」ある暮らしをしてもらいたいと思います。そしてできれば、私たち人間も、森とのつながりの中で生きていることを、家庭で話してほしいと思います。

編集後記

木がもたらす、心身への働きが注目されていて、ストレス軽減など癒しの効果のほか、教室にふんだんに木を使ったら学級閉鎖が激減したというエピソードまで聞きます。木は、計画的に伐採、植林を繰り返せば持続可能な資源。森林大国の日本は、その意味では本来資源大国のはずです。木の香る家もオフィスも、今の時代だからこそ、もっと当たり前になるとうれしいですね。国産材を取り入れることが、健やかな森づくりに役立って、おいしい水や空気につながってゆく。先人が、次の世代のために植えた木々、大事にしたいです。


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