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今月の「生きるヒント」
その人の価値観をはかるモノサシにされることも多い“お金”。人生に、深くかかわりがある割に、真正面から語られることが少ないのも“お金”です。
誰かのお金観の背景にある経験やエピソードは、いつか自分のそれと重なるかもしれないし、現在の向き合い方を考え直すきっかけになるかもしれません。専門家による経済の話でなく、人それぞれの、お金にまつわるストーリーをお届けします。
第
17
回
大金を手にしてもマイペース。やりたいことに投じるのみ 大金を手にしても
マイペース。
やりたいことに
投じるのみ
千田 弘和さん
ちだ・ひろかず
株式会社natowa/株式会社canonica 代表取締役
1977年青森県生まれ。同郷の文豪・太宰治は祖父の幼馴染だった。大卒で入社したシステムインテグレーターで大規模業務システムの開発に従事するかたわら、Webサービスの企画、制作、運営に携わる。2013年に立ち上げた、Webマガジンを運営する(株)WILBYの全株式を、2017年、家電量販店大手の(株)ビックカメラに売却。同年、(株)canonica、(株)natowaを相次いで設立。
自身のITスキルを生業の軸にしながら、八百屋を経営したり、フィリピン・カンボジアの孤児院支援に取り組むなど、関心のあることには分野を問わず関わりを持ってきた。趣味は仕事とキャンプ。都内に妻と子どもと3人暮らし。
勉強ができる問題児がモーレツ社員に。メンタルの不調も経験
青森で生まれ育って、大学進学で仙台に。好きになった仙台でそのまま就職するつもりが、入社した企業で東京に配属されて上京し、結局根を下ろしてしまいました。青森時代は、中高と、ちょっとした問題児で、休みがちだし、昼から登校するわ、登校しても寝てるわ、そんな生徒だったんですね。寺子屋のようなスタイルの塾で尊敬できる指導者に出会い、そっちで勉強してたこともあって、それでいて勉強はできました。テスト勉強はせずに受験勉強してました。学校の先生に嫌われる要素がきれいに揃ってますよね。当初、京大を志望していたのですが、つき合っていた彼女に「あんまり遠くに行かないで」と言われたりして(笑)、東北大にしました。
大学卒業後は飲食業界に進みたいと考えていたところ、業界の先輩に、一度は一般の会社勤めを経験したほうがいいとアドバイスされて気持ちを変えました。就職して2〜3年で起業しようと決めていたものの、入社後、エンジニアという仕事もやってみたらやり甲斐があって、結局はサラリーマン生活を10年続けました。終電逃して乗るタクシーの車中でも仕事するくらい忙しかったです。食事も立ち食いそばをかき込む日々で、昨今の社会通念に照らすと完全にアウトな働き方してました。でも、大きな仕事にも関われたし、戦場みたいな臨場感が性に合っていて、楽しかったんです。
忙しいのは苦にならなかったのに、身体はノーと言っていたのでしょうか、入社1年目で体調が悪くなりました。ある日突然、平衡感覚を失って歩くのもままならなくなる、経験したことのない症状に見舞われたんです。さすがに自分でも怖くなって、いくつかの病院を回った結果、パニック障害など、メンタル由来の症状と診断されます。半年くらいはとてもつらかったですね。完治まで2〜3年かかりました。でも、結果論かもしれませんが、良い経験をしたと感じています。それまでの僕は、できないことは「人の三倍がんばればいいんでしょ」という調子で、どんなことも自分のがんばり次第だと思ってました。これは長所だとも思うのですが、陰で努力できるタイプですし、実際、為せば成るでやってきました。だけど人間、がんばったって、どうにもならないことってあるんですよね。病気にならなければ気づけなかったかもしれません。
稼げることと、稼げなくてもやりたいことを分けて楽に
お金にシビアに向き合うことになったのは、やはり起業後ですね。地方と都市の問題に目が向いて、ITを活かしたなにかを農業の周辺でしてみようと、起業したのが2010年。縁のあった人たちと八百屋を始めたり、ビジネススクールの関連する学科の運営に携わったり、農産物の流通のコンサルのようなことをしたり、手探りで動き始めました。八百屋に関しては、生産地、生産者を応援したくて始めたことだったのですが、翌年に起きた東日本大震災で状況が一転してしまい、貯えを切り崩す一方に陥ります。もともとたいした貯蓄もなかったので、いつまで持ちこたえられるかと、不安になることもありました。とはいえ、エンジニアとしてのスキルがありましたから、いざとなれば稼げるという安心感はどこかに持ってました。独身だった当時はなおさらですけど、基本的には、結婚して子どもがいるいまも同じです。食べてゆけるほどには、なんとかする自信があります。
その後の試行錯誤の中で、稼げる事業と、稼げなくてもやりたい、言ってみれば活動みたいなこととを、割り切って分けることにしました。三茶ファームという八百屋は、ホームベースにしている三軒茶屋でいまも続けています。こうした業種、業態で利益を追求するのは至難の技なんです。IT系の事業で稼いだ資金を充てることで継続できれば良しとすると割り切ってからは、気持ち的にずいぶん楽になりました。もちろん、IT系の事業にも、別の面白味がありますから、お金になりさえすればなんでもいいとは思ってませんよ。やりたいことが常にたくさんある人間なので、できるなら同時並行でやりたいんですよね。
軌道に乗せた会社を大手に売却。余裕ができた
お金の面では、2017年に転機が訪れました。Webマガジンの運営を中心に事業展開して軌道に乗せた会社の株式を、すべて売却したんです。この会社を一緒に立ち上げたパートナーと、上場を目指すか、会社ごと売るかを出口にしようと話し合って、後者にすべく売り先を探すことにしました。期待以上に引き合いがあり、中でも条件や考え方が合ったビックカメラさんに。オーナーは移行しましたが、基本的な事業内容は変わらず、従業員はそのまま、経営的にも順調です。まとまった額のお金を得て余裕ができたため、同時並行で手がけている八百屋などに加え、学生時代から好きだった飲食業など、これからやりたいと思っている事業がやりやすくなりました。
僕自身の生活ぶりは、その変わらなさを不思議がる人もいます。大金を手にすれば暮らしが変わるほうがふつうなのかもしれませんけど、住むところも着る服も食べるものも以前と同じです。十分なんですもん。元来、高級なものに特段興味がないんですよね。休暇で旅行に行っても2日もすれば仕事に戻りたくなっちゃう根っからの仕事好きなので、豪遊している時間があったら仕事したいし(笑)。変わったのはせいぜい、躊躇なくタクシーに乗るようになったことくらいかな。事業にはお金がかかりますから、それに費やすことしか考えてませんね。いっぱい稼ぎたいですよ。でもそれは、事業のためにいっぱい使いたいから。お金自体への執着はないですね。預貯金もある程度は必要でしょうが、財産としては、なんというか、決してコストパフォーマンス高くないですよね。自分に投資して経験値を上げるほうが、ずっと割のいい財産になりますよ。これについては疑いなくそう考えてます。
なによりも人間関係。貸したお金はあきらめられる
財産ということでもうひとつ確信しているのは、信頼をベースにした人間関係のかけがえのなさです。縁あって関わり始めて、2008年から2年間代表も務めた、フィリピンとカンボジアの孤児院の支援で一緒に活動した仲間。実は、チャリティなんてことはもっと力をつけてからやることなんじゃないかと、当初は懐疑的だったんです。ところがいざやってみたら、現地に行くたび、感じること、考えさせられることがたくさんあるばかりか、なんというかもう、活動そのものが価値でした。農業関連の会社を立ち上げたときも、いま手がける事業でも、パートナーはこの活動での仲間です。活動メンバーには現在100人ほどが登録していて、100人もいると、得意分野を持ち寄ればいろんなことが実現できます。小さなコミュニティでひとつの経済圏を形成し、機能している感じ。それありきで始めたことではまったくなかったけど、仕事上も多大な恩恵を受けることになりました。こういった、つながりによって可能性を形づくるようなことは、これからの時代、ますます増えてゆくでしょう。だから余計に、人間関係は財産と言えます。
ここで関連づけてお話しすべきかわかりませんが、よく、お金が人間関係をこわすって聞きますよね。実は僕、貸したお金が返ってこないことを、けっこう経験してるんです。中には繰り返す、リピーターもいます。貸すのはあきらめられる金額だけだから、まぁ、返ってこなくてもそれはそれとして、許せるんですよね。学生時代からです。リピーターの友だちには、毎度、一応一言言いますよ、これは大事(笑)。でも、お金が原因で縁を切るようなことはありません。僕が水に流せるなら、それでいいじゃないですか。自分を含めて、人間、仕方のない部分があって当たり前ですもん。自然とそう受け止めるようになったのは、社会性に欠けるというか、クセのある家族の中で育ったからかな。どうかと思うところは確かにあったし、葛藤がまったくなかったとは言いませんけど、家族を恥じたり、嫌いになったことはないですね。お金が絡んでもそうでなくても、相手に対して鷹揚な心持ちでいられるほうが、こっちもハッピーなので、いいことだと思っています。
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- Q1.
- お金のことには詳しいほうだ。
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- Q2.
- 「趣味は貯金」に共感する。
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- Q3.
- 「趣味は投資」に共感する。
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- Q4.
- 先のことはわからないからこそ「使う」。
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- Q5.
- どんぶり勘定の人よりお金に細かい人のほうが信用できる。
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- Q6.
- 100万円と10億円、もらえるなら10億円。
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- Q7.
- お金の稼ぎ方と使い方、こだわるなら稼ぎ方。
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- Q8.
- 「金は天下の回りもの」に賛同する。
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- Q9.
- アリとキリギリスならアリタイプ。
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- Q10.
- お金にまつわる経験から得た教訓や信条をお聞かせください。
お金は、幸せに生きるためのツールのひとつ。財産という意味ではもっと大事なものがあります。一番は身近な人とのつながりでしょうね。自分が存在する意味を感じさせてくれるのが、そうした人たちですから。
10年会社勤めをしたあと起業して8年が経ちます。10年単位で生きてみるのはどうだろうと、次のことも構想中です。10年一区切りでがらりと変えるくらいがいい。人生、短いですもん、何回か、毎回違う人生を生きることができるとしたら、そのほうが、大金を手にするよりずっと贅沢じゃないですかね。
編集後記
口調はどこかドライながら、自然な人当たりの良さが印象に残る千田さん。地頭(じあたま)の良さ、ソフトな風貌と、持って生まれたものに恵まれて、向かい風の少ない人生を想像させます。ですがお話をお聞きするにつれ、意外な一面や、ご経験も垣間見え、努力の人だと理解しました。そして仕事大好き人間。他人にも同じストイックさを求められるとキツいですが、そうではなく、むしろ逆の寛容さ。加えてブレない芯の強さ、「10年単位で生きる」冒険心や潔さ。こうした方が成功するのは大歓迎ですね。「お金を借りるなら千田さんですね」と言うと、「そうゆうことではありません!」と笑って返されました。
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