今月の「生きるヒント」

今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう 今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう

その人の価値観をはかるモノサシにされることも多い“お金”。人生に、深くかかわりがある割に、真正面から語られることが少ないのも“お金”です。
誰かのお金観の背景にある経験やエピソードは、いつか自分のそれと重なるかもしれないし、現在の向き合い方を考え直すきっかけになるかもしれません。専門家による経済の話でなく、人それぞれの、お金にまつわるストーリーをお届けします。

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「好きなことに全力」の人生。ひもじい思いは数知れず 「好きなことに全力」
の人生。
ひもじい思いは数知れず

伊良皆 誠さん

いらみな・まこと

ゴーヤカンパニー有限会社 代表

1967年沖縄県石垣島生まれ。アメリカ統治下で幼少時代を過ごす。中学時代は、のちに人気アコースティックバンドとなるBEGINと共に卓球部。高校から音楽活動にのめり込んでゆく。大学卒業後、ソニーレコード主催のボーカルオーディションで1万2千人の中から準グランプリを獲得。上京し、メジャーデビューを果たす。その後、桑田佳祐のサポートボーカルとして全国ドームツアーに同行。Uターンした2005年にゴーヤカンパニー設立。食品会社としてヒット商品を生み出しながら音楽活動も続行、7年にわたり地元FMのパーソナリティも務めた。
プライベートでは2児の父。趣味は数千曲の中から選曲してテーマ別プレイリストをつくること。

ゴーヤカンパニー 公式サイト

大学時代もメジャーデビュー後も、お金がないのがふつう

貯金できたことも、たくさんのお金を持って暮らしたこともありません。やりくりを覚えさせたかったのかな、福岡の大学に通わせてもらっていた当時、両親からアルバイトを禁止されていました。そのルールを、なんか律儀に守ってたんですよね。奨学金で給付される4万円のみで生活してました。2年生までの下宿生活では下宿代を両親が払ってくれましたが、3年生からはアパートに引っ越して、3万円弱の家賃を自分で払うようになったので、残る現金は約1万円です。それでもなんとかなってました。洋服が好きで、コツコツ節約しては、手に入れることもできましたよ。

大学卒業後は石垣に戻って、2年間農業のお手伝いをしました。お小遣い程度のお金を手にして、隙あらばライブハウスに行って歌ってました。掛け持ちでバーでバイトしていた時期もあります。とにかく音楽が好きで好きで、仕事が終わったら、3時間歌をつくって3時間寝て3時間練習。世界一音楽を愛してると言えるくらいやってやろうと思ったんです。

1992年に、ソニーレコード主催の大きなオーディションで、準グランプリに選ばれて上京しました。メジャーデビューしてからもバイト生活は続きました。見た目にも気を使わなくてはならなくなったので、それなりに出費が増えましたからね。いいごはんを食べに行ったりとか、そうゆうのはまったくなかったです。できなかったし、あんまり憧れることもなかったです。逆にひもじい思いはいっぱいしました。僕の人生、生活水準はこれがふつうです。でも、目いっぱい好きなことをしてきたので、貧しいと思ったことはないですよ。

石垣島にUターン。畑違いの食品会社を立ち上げて・・・

熱唱中のカッコいい写真は、30代前半、渋谷などでストリートライブを繰り返し行っていたころのスナップより。

プロデューサーと意見が合わず、レコード会社との契約が解除になってから、東京時代の後半は、桑田佳祐さんのサポートボーカリストとして、全国ドームツアーに同行しました。父親が体をこわしたのをきっかけに石垣にUターンすることを決めて、ゴーヤカンパニーを立ち上げたのは2005年です。食品会社以前、経営以前に、会社勤めも知らなかったので、(表計算ソフトの)エクセルを覚えるのから始める始末です。相変わらず睡眠3時間でがんばりましたけど、あのころ経済的には、実家にお米を援助してもらうくらいの状態でした。

Uターンしてからの十数年はすごく濃厚だったなぁ。食品会社として、(製品を)“つくる”ことはできました。きちんとやってきましたから、満足のゆくものができました。次なる課題は“売る”ことと、お金を回すことです。最近やっと、感覚的にわかってきました。商品や会社名は地元でそこそこ知られるようになったので、ハタからはそれなりにできているように見えるかもしれませんけど、僕としては、やっとわかってきたところなんです。これまでは、自分が直接手にしたり扱ったりするお金、目に見える一部分のお金しかつかめていなくて、もっと広く世の中に行き渡る、仕組みとしてのお金の全体像が見えていなかったんですね。

いまは試練のとき。「僕じゃなきゃ無理」だった

沖縄八重山諸島の方言で「私たち」を意味するBAGADA(バガダ)をバンド名に冠したBAGADA BAND。伊良皆さんは作詞作曲も担当し、地元の言葉で作詞した楽曲を歌っている。皆さん素晴らしい笑顔!

ここ数年で、石垣島には観光客が急増しました。それによって、これまでの島の経済のバランスが変化したんですね。地元の小さな資本は島外の大きな資本に勝てなくて、苦戦しているところが多いです。うちの会社もここへきて、商品は、PRにたくさんのお金をかけられる他社のものに押されるし、働いてくれる人を募集してもなかなか応募がないし、悪循環が続いています。やっと軌道に乗ったかな、と思ったころに、大きな試練が待っていました。

いまは会社を立て直している最中です。僕ひとりなら、みんなへのお給料さえ払えれば自分の分はなくても…で済むけれど、家族がね。通帳やカードはおろか財布も持たないで、「今日はランチを食べに行くから千円ちょうだい」と、必要なときだけ妻からもらう生活をずっと続けてましたが、経済的なピンチはえてして家庭のピンチを招くものですね。家庭も会社もうまくゆかなくなったとき、どちらも僕がどうにかするしかないのは心身ともにきつかった。何ヶ月か、食べる気も、身なりを整える気もおきなくて、周りに心配かけちゃいました。それでもそんなときは、「僕に生まれて良かった」って思いますね。こんなの、「僕じゃなきゃ無理」って(笑)。若いころから揉まれてきたからでしょうかね、僕、強いんですよね。

4歳と9歳の子どもがとにかくかわいくて、ふたりといる時間を増やそうと、家に仕事を持ち帰っていた時期もありました。でも、子どもの前では子どもを100%にしないとダメだと思い直しました。短くても、子どもだけと向き合う時間を切り分けて、僕自身も楽しみながら大事にしています。いろいろある人生なので、「どうして僕にはこんなに大変なことが多いんだろう」って、思ったことがないわけではありませんよ。でも、だから不幸かというとぜんぜんそうではないんですよね。子どもたちにも、「これが自分の人生」と受け止める力をつけて、それでいてしあわせであってほしい。どんな人にとっても、お金にしろ、家族や環境、あるいは才能にしろ、条件さえそろっていれば完璧な人生だということはないですもんね。

悩まないスキルと、これから臨む経営への決意

手前に並んでいるのがゴーヤカンパニーのヒット商品「島豚ごろごろ」。沖縄で親しまれている甘じょっぱい肉味噌を大事に手づくりし、3種の味で展開中。力強い書体を使ったパッケージデザインもいい感じ!

資金繰りに窮して、税務署や銀行や、あちこちに出向いて相談したりお願いしたり手を尽くして、それでもどうにもならないときもあります。お金に限らずそうしたことは、一日二日は悩んでも、三日目からは考えないで、思考から手放すことにしました。切り替えて、一切考えないんです。悩んで真っ暗になったところでパフォーマンスが上がることはないのだから、頭の中からシャットアウトして、おいしいもの食べてニコニコして、ベストな状態を保ったほうが事態が好転しやすい。例えば問題が生じた1ヶ月後に光が差したとして、悩み続けて弱った状態では、そこに全力で当たれませんよね。悩むなと言われても悩んでしまうのが人間、僕も会社を始めたころはそうでした。これは訓練により得た一種のスキルですね。

本来僕は、できるならばつくることに専念したいタイプ。歌も、食べ物も、洋服も絵も、とにかく次から次につくっていたい。消費するほうにはほとんど興味がなくて、個人としては、50万円以上の現金は使い方もわかりません。ただただ自分の手でつくるのが大好き。でも経営者としては、これからは当分、お金を生み出すことに力を入れると決めました。いままでほかにも割いてきた経営のリソースを集中させて、とにかく返済で精いっぱいのような状態を抜け出さなくては。つくって売る、シンプルな商いをやってみたいと思っています。もう少し自分を露わにして、「見て見て!買って買って!」って、直球でやるのがいいんじゃないかなって。がんばりますよ!

お金にまつわる10のQ&A お金にまつわる10のQ&A

伊良皆誠さん
  1. Q1.
    お金のことには詳しいほうだ。
  2. Q2.
    「趣味は貯金」に共感する。
  3. Q3.
    「趣味は投資」に共感する。
  4. Q4.
    先のことはわからないからこそ「使う」。
  5. Q5.
    どんぶり勘定の人よりお金に細かい人のほうが信用できる。
  6. Q6.
    100万円と10億円、もらえるなら10億円。
  7. Q7.
    お金の稼ぎ方と使い方、こだわるなら稼ぎ方。
  8. Q8.
    「金は天下の回りもの」に賛同する。
  9. Q9.
    アリとキリギリスならアリタイプ。
  10. Q10.
    お金にまつわる経験から得た教訓や信条をお聞かせください。

    お金には関わりたくないですね。お金で変わってしまう人を見たくないので、自分はその中心にいたくないという意味です。お金って強いんですよ。どんなものをも上回る強力さを何度も目の当たりにしてきて、しかたがないとあきらめながらも、自分自身は当たり障りのないところにいたいです。(Q6の質問で)10億円を選んだのは、お金で悲しい変わり方をしてしまうかもしれない仲間が、そうならないよう使いたいと思ったからです。僕には自分が必要な分がわかってるし、ありたい会社像も見えてきてるので、お金があればあるほどいいと思うことは、もうないですね。

編集後記

編集後記

伊良皆さんは、石垣島のちょっとした有名人です。経営者として、実力派シンガーとしてはもちろん、中学時代は生徒会長だったとか、面倒見がいいとか、たぶん島のあちこちでウワサを収集できます。分け隔てなくて、みんなに慕われる人気者。「あたたかい人柄」という表現は、伊良皆さんのためにあるのだと思わせる方です。いまは試練のときだそうですが、存在に励まされる人はたくさんいるに違いありません。そんな伊良皆社長率いるゴーヤカンパニー、製品からも愛情の深さがが伝わります。石垣にお出かけの際にはぜひ!


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