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- ふなはし・よしのぶ/大阪府出身。 (同)リグループ クラリー牧場 マネージャー。幼い頃、祖母に連れられて観た芝居の杉良太郎に憧れて、自分も舞台に立ちたいと子供歌舞伎に入塾、稽古三昧の子ども時代を送る。高校生のときに始めた乗馬に夢中になり、障害飛越競技でオリンピックをめざすまでに。愛馬との生活を成り立たせるため昼夜働いたり、馬について学ぶため拠点を点々としたり、生活の中心が馬。現在は岩手県八幡平市に落ち着き、引退競走馬や養老馬の余生を支えるために、馬ふん堆肥の販売・普及に奔走。
― 今いらっしゃる岩手の八幡平には、二十代半ばにも一度住まわれてますね。
船橋さん :そうなんです。そのとき、ここクラリー牧場で、自馬の偉大歌舞伎(グレイトカブキ:以下カブキ)に乗っていました。オーナーで、名のある障害飛越競技選手だったオーストラリア人のクラリーさんとは、それより前に知り合っていました。
― 長いおつきあいのある方のところに、再び戻られた。
船橋さん :きっかけは東日本大震災です。震災が起きたとき、僕は、北海道で競走馬の育成などに携わる仕事をしていました。乗るだけではなく、育てるところから学びたかったからです。
東北の被害が尋常でなかったので、あまり知られていませんが、僕のいた日高地方にも津波がきたんですね。風景が一変しました。「ここでこうなら、東北はどんなに大変だろう」と、クラリーさんたちのことが思い浮かびました。なにか手伝えないかと。
― それで岩手に。
船橋さん :震災がなければきっと来なかったでしょうね。北海道で勤めていた牧場は、いろんな条件が整っていて、環境に不満はありませんでしたから。これも巡り合わせなんだと思います。
― こちらでは、新しい取り組みもされていますね。
船橋さん :馬ふん堆肥の販売を軌道に乗せようと奮闘中です。植物にやさしく、臭いもない製品で、ほかの家畜由来の堆肥と比較しても、多くの点で優位性があるんです。日本では、レースで成績が残せない競走馬はもちろん、そこそこ活躍した馬でさえ、引退後は行き場を失ってしまいます。それがなにを意味するかわかりますよね…。
― はい…。処分されて、お肉になったり…。
船橋さん :馬がほかの食用の家畜と異なるのは、結果的に食用にされる馬の多くが、もともとは食べることを目的に飼育されていないところです。競馬にしろ、僕のやっているような競技にしろ、人間との信頼関係を高めて、パートナーシップを築くことをしていかないと、人馬共に活躍できないため、人間の側も、そこに最大限心を砕いて育てるわけです。そうした人との向き合い方は、食用の家畜と一線を画します。
― 確かにそうですね。そのまま飼育を続けることが経済的にかなわないから処分するんですものね。
船橋さん :そうです。だから僕は、経済的にまわるようにして、少しでも馬にとって穏やかでハッピーな居場所をつくりたいんです。馬は、信頼し切ったリーダーが求めるなら、目の前に崖があっても進む生き物です。人間を信じて一緒にやってきた馬に、自由に草を食べながら、のんびり過ごさせてあげたい。
― 船橋さん自身、馬に感謝しているんですね。
船橋さん :僕の場合は、やはりカブキのことが大きいです。カブキに出会えたから、いまも馬を続けている。カブキだったから、経済的に苦しくても、苦労と思わず乗り越えられたんだと思います。能力が高くて、誰にでも愛されて、僕にはもったいない馬でした。多くを教えてくれたカブキに恩返しできなかったことが、ある意味、原動力になっています。
― 恩返しできなかった。
船橋さん :恩返しできないまま、逝ってしまいました。もっと一緒にいたかったし、最後がつらすぎて・・・。カブキに限りませんが、馬を満足に弔う環境が整っていないため、亡くなっても産廃扱いになってしまうんです。亡骸が運び出される光景は思い出したくありません。丁重に扱ってもらい、「お疲れさまでした」と、静かに手を合わせてお別れしたかった。胸がつぶれそうでした。
― つらいですね・・・。
船橋さん :そうなんです。だから僕には、まだまだやりたいことも、やらなくてはいけないこともあるんです。馬のためだし、自分のためです。
― そんな思いが、馬ふん堆肥で経済をつくることにつながっていくのですね。
船橋さん :はい。馬ふん堆肥の利用については、ここ八幡平で、地熱を使ったマッシュルームの栽培が大きく動こうとしています。めざしている循環が、少しずつ実現するかもしれません。挑戦の連続ですが、それを含めて本当にやりがいがあります。妻をはじめ、多くの人に支えられて、岩手山の見えるこの素晴らしい土地で頑張れる。やっぱり僕は幸せ者ですね。
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