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- よしかわ・たかこ/広島出身。こいわい食堂経営。転勤族の父を持ち、全国を転々とする少女時代を送る。物心ついたときから、自然を愛で、汚染に心を痛める子どもだった。教職免許を活かして教師になると信じていた両親の期待をよそに、大学卒業後は飲食業界に。国内外のレストランで働く経験を経て、インドやネパールを放浪した際に出会った自給自足の暮らしに感銘を受ける。2010年に訪れた祝島で、自然と共に生きる人々の暮らしに感動し、移住を決める。半年後、島の豊かさを表現する舞台として「こいわい食堂」を開店。
― こいわい食堂は、週4日、昼食だけの完全予約制ですね。
芳川さん :はい。ひとりで始めましたし、ほかにしたいこともあります。大事な食材を無駄なく使って、本当においしいと思えるものをつくるためにも、この形が良いと思いました。予約のときにお電話で少し話すことができるので、まったく知らない人に対してより、気持ちを込めることもできます。
― そして、食べに来た皆さんに、食材についてや、その周辺のストーリーを伝えていく。
芳川さん :私がここでとても大事にしていることです。託された食材ひとつ一つ、どこで採れたか、どんな人がどんなふうに育てたか。都会では分断されているストーリーを、料理を提供することを通して、できるだけ丁寧に紡いで見せたいんです。そうやって、祝島の豊かさを発信するんです。
― こいわい食堂では、島の豊かさと、それに対する芳川さんの思いを、“表現”しているのですね。
芳川さん :そうです。この食堂は私にとっての舞台であり、私は総監督のつもりです!
― こいわい定食一食に使われている食材の説明だけでも、島のたくさんの人のお名前があがってきますね。芳川さんが島の皆さんとの関わりの中で生きているのが伝わります。
芳川さん :島の人たちはお互いを愛称で呼び合うことが多くて、私も「たかちゃん」と呼ばれています。500人もいない島なので、ひとつの大きな家族みたいです。私の暮らしの師匠は民(たみ)ちゃん、今日のお魚を釣ってくれたのはまーちゃん、ぬか漬けのカブをつくってくれたのはけいちゃん、手づくり味噌はかよちゃん。といった具合です。あんまり人との距離が近いので、ときどき孤独が恋しくなるくらいですが(笑)、人とも、自然とも、対面でつき合っている実感は、代えがたいものだと感謝しています。
― 芳川さんが移り住んで以来、Iターンの方も増えたんですね。
芳川さん :4年で30人位増えたんですよ。価値観を同じにする人たちにも出会い、一緒にこの島の未来を語れる仲間も増えました。
― 島の未来を。
芳川さん :自分たちで地域をつくっていくことを意識するようになりました。それが住民自治というものの基本だと思いますが、以前は自分のこととして考えたことがなかったんです。それがこの間の町議選挙では、自分の支持する候補者の、なんと応援演説までしました。
― 応援演説を!
芳川さん :都会に住んでいた頃には、まったくありえなかったことで、自分でもびっくりです。応援演説といっても、自分は祝島のどんなところに魅せられて移住してきたのか、今もこの島が大好きで、だから守りたいものがあると、そうした思いの丈を、正直にお話ししたんです。
― そうですか。反応はどうでしたか?
芳川さん :少しは伝わったのではないかな、と思います。真剣に聞いてくださって、拍手してくださる方もいて、とても嬉しかったです。ちなみに祝島の投票率は90%を超えるんですよ。
― 90%!!あぁ、都民としてはうらやましい限りです…。
― 芳川さんは、生きることに必要ないろんなことを、目に見えるようにして暮らしているんですね。ハイテクな道具を使わず、情報へのアクセスもかなり意識して限定しているようですが、かといって外との関わりを遮断しているわけではなく、人とはうんと関わっている。選挙で応援演説までしている(笑)。
芳川さん :ははは。ひとり一人が自分の暮らしの中でできることってたくさんあると思っているんです。現代は、自分が自然に与えている負荷だって、目に見えない仕組みになっています。どうにかしたいと思っても、問題が複雑で大きすぎて、絶望的な気持ちになってしまうかもしれない。だけど私は希望を捨てていません。いきなり薪で煮炊きする生活にはシフトできなくても、ひとり一人が、ペットボトルの飲料を週4本から2本に減らすだけで、すごいことが起きると思うんです。世の中を変える方法は、多くの人に向かって訴えたり、デモに参加したりするだけではないですよね。私は、一人ひとりの日々の暮らしの中での小さな変化が、奇跡につながると信じています。
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