今月の「生きるヒント」

今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう 今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう

その人の価値観をはかるモノサシにされることも多い“お金”。人生に、深くかかわりがある割に、真正面から語られることが少ないのも“お金”です。
誰かのお金観の背景にある経験やエピソードは、いつか自分のそれと重なるかもしれないし、現在の向き合い方を考え直すきっかけになるかもしれません。専門家による経済の話でなく、人それぞれの、お金にまつわるストーリーをお届けします。

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“価値”とは値段ではなく、あなたが決めるもの “価値”とは
値段ではなく、
あなたが決めるもの

安河内 眞美さん

やすこうち・まみ

古美術商、ギャラリーやすこうち オーナー

1954年福岡県生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科卒。アメリカへ語学留学の後、東京の老舗古美術商で5年間の修行を積み、1985年に独立。六本木にて掛軸、屏風等日本画を中心に扱う美術商を始め、2007年には北九州市小倉にも店舗を構える。1996年よりレギュラー出演中の『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京)で広く知られるように。江戸時代を中心にした古画を得意としながらも、新しい和の芸術や工芸品にも探究心旺盛で、自らプロデュースしたオリジナル掛軸「風香」も注目を集めている。
趣味は還暦になって始めた水泳と卓球。著書に『安河内眞美の大人の掛け軸入門』(宝島社)など。

ギャラリーやすこうち 公式サイト

半分以上、出たとこ勝負でやってきた

私くらいの年齢で、女性が美術商として独立した例は少ないですから、夢を実現すべくがんばったと思われることもありますが、私の場合、そうではありませんでした。自分からああしたい、こうしたいと言わずしていまに至っています。身を任せてやってきた先にいまがあったという感じでしょうか。サラリーマン家庭で、どちらかというと甘やかされて育ちました。大学時代も仕送りで生活できてましたし、お金のことを意識しなくてすむ、恵まれた環境にありました。いまなら少しは楽しめるかもしれませんけど、もしも若いころ金銭的に追い込まれていたら、弱かったんじゃないかと思います。

人生設計らしきものも、計画性もありません。ずっとないし、いまもない。計画してもその通りにならないでしょう?半分以上、出たとこ勝負でやってきました。そうした気質はたぶん、この仕事に向いていましたね。オークションなどでその場その場の、お金をかけた判断を迫られるとき、決められないタイプの人ならストレスになるんですよね。思い切って落としても売れるとは限りませんし、万一の確率では、本物でないかもしれないのですから、ギャンブルです。でも私は、いざとなるとスパッと決めてしまえます。

二度の大病。「助からない」と言われて

鑑定、買取などは、事前に問い合わせた上で、来店には予約が必要。

計画してもその通りにはならないと言いましたが、病気が、いい例ですね。私は二度の大病を経験しました。まったく、考えてもみなかったことでした。どちらも珍しいがんで、一度目は40代の前半での肝内胆管がん。告知を受けた時点でステージ4の、医学的には深刻な状態でしたけど、どうゆうわけか実感が薄かったんですよね。「次の出張鑑定行けないですね」なんて言って、周囲をびっくりさせました。二度目はその5年後、ウイルス性の白血病でした。そのときは、「治らない。もう助からない」と言われて、さすがに絶望しました。でも、一度目のときもそうだったのですが、治療法や病院を調べてくれた友人のおかげで、骨髄移植という道があることがわかった。兄がドナーになってくれた結果、一年ほどの闘病を経ていまがあります。助からないと言われたくらいなので、経済的なことよりも、病気とどう向き合うか、なにをすればいいのかがわからない不安が大きかったです。保険にも入ってましたし、治療に費やせるだけの貯えはありましたから、やることさえ決まれば、あとはそれに向かうのみ。やってダメなら仕方がないと思いました。

白血病の治療後、しばらくおそるおそるなところもありましたけど、いまではもう、過去の経験ですね。人生観が変わったなどということも特にありません。ただ、支えてくれたきょうだいに感謝できるようになったのと、自分の足で好きなところに行けるって幸せだなぁって、思い出しては感じることがあります。この先の夢ですか?なんとしてでも叶えたいことはありませんが、広大な敷地でたくさんの動物と暮らすのが、夢物語的に描く理想ですね。犬や猫はもちろん、羊やうさぎ、にわとり…。ソファで、グラス片手に隣にゴールデンレトリバー(イギリス原産の大型犬)、という生活が憧れです。

どんなに気に入った品物も手放せる

1988年、骨董商修行時代にご友人と旅行した北海道にて。当時観光客用にセットされたこのような場所があったそう。シュールにも見えるが(笑)、動物たちに囲まれた安河内さんの貴重な一枚!

美術商の中には、品物を愛でる半コレクタータイプの人と、私のように仕入れた先から売ることを考えるタイプがいます。私も、美術品はもちろん好きですよ。でも、集めることには興味がありません。所有欲がないんですよね。ものを買う喜びはすごく感じていて、オークションでも、個人のお客様からの買い取りでも、「これは必ず買いたい」と感じるものに出会うと、すごく胸が高鳴ります。アドレナリンが出るというのでしょうか。それでいて、どんなに気に入ったものでも、欲しいと言われたら執着なく手放します。自分がいいと思ったものを誰かがいいと思ってくださって、品物が売れる過程には共感のやり取りがありますから、それもまた喜びです。いままで、欲しいという方がいるのに売らずに手元に置きたいと考えたことは一度もありません。自宅にも、実はものはあまり置きたくないほうで、美術品だらけだなんてことはまったくないですね。

このようにお話しすると、仕入れて売るまであっという間な印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちの商売は、気長に構えられないととても無理です。ひとつの品物を仕入れて販売するまで、多くのビジネスではせいぜいワンシーズンとか、年度中とかですよね。私たちの場合、それが何年にもわたることがあります。買ってから、何年も持ち続けて、買い手を待つ状態です。修行先には、一世代ずっと待っているものもありましたよ。一般には不良在庫扱いでしょうが、私たちの世界ではそうではない。時代の評価もありますからね、それまで見向きもされなかったものが脚光を浴びることも珍しくありません。ただそのスパンが、50年、100年と長い(笑)。その意味でも、好きでないと続けられない仕事です。

欲を出すと目が濁る。価値は値段とイコールではない

ギャラリーやすこうち六本木の店内。伺ったときは、安河内さんのお眼鏡にかなった、アジアの漆器類も置いてあった。

ものの良し悪しと関係なく、時代が値段を決めることはよくあります。中国の焼き物や絵は、30年くらい前まで、ほんの一部にファンがいるのみでした。ところが国の経済成長に比例してどんどん高騰し、いまはもうバブルのような状態です。かつての何十倍もの値段になりますから、昔から好きだった人が、手が届かないと嘆くようになりました。そうかといって、先を見越して、つまり投機目的で買っておくのも、うまくゆくものではありません。鑑定団(テレビ東京『開運!なんでも鑑定団』)をご覧になっていればうなずく人もいると思いますが、「儲かるだろう」と思って買うものに限って偽物が多いんですよ。逆に、好きで好きで買うと、値段はさておき、偽物であることは少ないんです。人間、欲があると自分の都合のいいように見るものなんです。欲で、目が濁る。私も修行時代、そうやって偽物を買ったことがあります。

ものの“価値”というのは本来、ごく個人的な「あなたにとっての」価値ですよね。あなたが決めるもの。価値と評価は一緒にならないし、100万円の値がつくことと、あなたにとって大事であるということは別なはずです。マーケットで値がつかなくても、その人にとってたったひとつの思い出の品には価値があるわけじゃないですか。私が、古美術が好きで、この仕事を好きだと思える最も大きな理由は、品物を通して、関わってきた人の思いに触れられるからだと思います。丁寧につくった人の愛情、所有してきた人たちが注いだ愛情。それが、私自身が感じている価値、古いものの持つ魅力ですね。

お金にまつわる10のQ&A お金にまつわる10のQ&A

安河内眞美さん
  1. Q1.
    お金のことには詳しいほうだ。
  2. Q2.
    「趣味は貯金」に共感する。
  3. Q3.
    「趣味は投資」に共感する。
  4. Q4.
    先のことはわからないからこそ「使う」。
  5. Q5.
    どんぶり勘定の人よりお金に細かい人のほうが信用できる。
  6. Q6.
    100万円と10億円、もらえるなら10億円。
  7. Q7.
    お金の稼ぎ方と使い方、こだわるなら稼ぎ方。
  8. Q8.
    「金は天下の回りもの」に賛同する。
  9. Q9.
    アリとキリギリスならアリタイプ。
  10. Q10.
    お金にまつわる経験から得た教訓や信条をお聞かせください。

    人生って不公平。神様は公平じゃないと思ってるんです。Q9でアリとキリギリスの例えがありますが、現実には、最後まで楽しんで長生きするキリギリスもいれば、安泰でないアリもいて、イソップ物語のようにはいきませんよね。世の中の物事の良し悪しだって、必ずしもはっきりとはしておらず、曖昧な部分を残しています。ですから私はあまり、どうあるべきかにこだわらないほうです。
    お金については、そうですね、生きてる限りはないと困りますから、自前のポケットに入るくらい、ポケットが破けない程度に持っていたいですね。

編集後記

編集後記

流れに身を任せて生きてきたとおっしゃる安河内さん。たくさんの動物と暮らしたいとか、趣味が水泳と卓球とか、意外な一面も、とても魅力的に感じられました。水泳も卓球も数年前に始められたそうで、水泳は「息つぎができるようになりたくて」、卓球は「美術商仲間に誘われてやってみたら面白くて」。健康のためなどではないのです。これに限らず、一貫して、「ためになる」「役に立つ」からではなく「やりたいから」やってきた方。おもむくままに生きるというのは、誰にでもできることではないと思います。率直さが清々しく、テレビで拝見する以上に、かっこいい女性でした!


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