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今月の「生きるヒント」

今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう 今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう

その人の価値観をはかるモノサシにされることも多い“お金”。人生に、深くかかわりがある割に、真正面から語られることが少ないのも“お金”です。
誰かのお金観の背景にある経験やエピソードは、いつか自分のそれと重なるかもしれないし、現在の向き合い方を考え直すきっかけになるかもしれません。専門家による経済の話でなく、人それぞれの、お金にまつわるストーリーをお届けします。

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「お金じゃない」に憧れながら、自己矛盾に悩まされ 「お金じゃない」
に憧れながら、
自己矛盾に悩まされ

伏原 健之さん

ふしはら・けんし

東海テレビ放送株式会社 ディレクター/映画監督

1969年愛知県生まれ。バブル時代に東海テレビ放送に入社。営業局、制作局でディレクターやプロデューサーを歴任。現在は報道局のチーフプロデューサーを務めながら、局として力を入れ定評のあるドキュメンタリー映画の制作にも携わる。90歳と87歳の建築家夫婦の、あたたかく美しい暮らしを追った最新の監督作品『人生フルーツ』が、2017年の年明けに公開されて以来異例のロングランを記録。同年8月までに18万人を動員し、多くの共感が寄せられている。

人生フルーツ 公式サイト

監督した映画『人生フルーツ』とは、かけ離れた・・・

映画『人生フルーツ』の制作者としては、映画の世界観とかけ離れすぎていてはばかられるのですが…、お金を使うのが好きです。お金がかかることが好き、なのかな。欲しい、食べたい、行きたい。ミーハーで物欲強めの浪費家です。お金がなくなったらどうしよう、天から降ってこないかな、なんてしょっちゅう考えてますからね。年を重ねても一向に変わらなくて、最近では、持って生まれたものかと疑うほどです。この、煩悩でしょうか?なんとか逃れられるものなら逃れたいですね。そのほうが楽ですよね。

就職先にテレビ局を志望したのは、時代もあって、まさに「花形」だったからです。報道に携わりたいとか、ドラマでヒット作を出したいとか、そんな熱意は特段なく、お金に困らなさそうな進路として選びました。バブル時代に学生生活を送り、DCブランドの服を着て、ちょっと背伸びしたマンションに住んで。会社を経営する父はお金には堅実でしたが、世の中が潤っていたのもあって、私は甘やかされていましたね。あれからずっと、「お金を理由にものごとをあきらめると世界が広がらないから勉強代」を免罪符に散財してきました。そうやってやれてこれたのは恵まれていると思います。

それでも“お金じゃない”幸せを信じてる

『人生フルーツ』の1シーン。淡々と綴られる日常に浮かぶ津端夫妻の生き方、あり方が、多くの共感を呼んだ。

でも、『人生フルーツ』のナレーションもお願いした(樹木)希林さんなんかと接していると、お金を使わずしてかっこいいんですよ。物欲の虚しさについて目を開かされるというか、習いたいし、ちょっとでも学びたい。僕の場合、自分がこんなふうに物欲にとらわれていなければ、もっと自由に大胆になれる気すらします。それに、矛盾するようですが、僕自身、「お金じゃない」という気持ちが強いんです。本当は自分も、「お金がなくたって、愛が、やりがいが、…」と言いたいんです。だから『人生フルーツ』は、僕の中でも“希望”なんです。

『人生フルーツ』は、誠実に生きた人の幸せな結末を描いたドキュメンタリーです。おとぎ話のような、ドキュメンタリー。僕自身も信じたいファンタジーが、実話として存在してる。夫の修一さんは東大卒の建築家です。貯蓄も保険もないという夫妻の暮し向きは、少し多めの年金で、ゆとりがあるように見えました。だけど、東大を出ていなくても、もっとお金がなくても、きっとあんなふうになった人たちなんですよね。

買い出しに出かけた妻の英子さんが、「お金じゃないのよ」と言うシーンがあります。僕は最初その言葉を、「お金に糸目をつけずいいものを買うのよ」という意味に解釈していました。あとで、高い安いではなく、物より人とのつながりを買っているということがわかりました。そうした態度に触れているうちに、僕自身、人生に同様の価値観を入れてゆかないと幸せにならないと思うようになりました。

将来には、不安だらけ

自分でもわかってるんです。テレビ局で華やかな情報にまみれて、底なしの物欲にしばられて…それでは幸せになれないということが。いろんな幸せの引き出しを見つける必要があるんだということが。それなのに、手を替え品を替え市場に送り込まれる手に入れたいものへの欲が尽きない。僕には資本主義のマーケティングが、この上なく効き続けています。これがまた、絶対に手に入れられない超高級品ならあきらめがつくのに、ほどほどに無理をすれば届くよう計算されたかのようなものばかりが、僕の前に送り込まれるのはなぜなのでしょうか(笑)。

僕は独身だし、貯えらしき財形と個人年金の積み立てが十分な備えになるとは思えないし、将来については不安だらけです。報道に携わっていると、いまの社会のものすごい格差を目の当たりにすることが少なくありません。本人の努力次第でどうにでもなるという域は完全に超えています。ただでさえそんな世の中で、僕のようにお金に振り回される生き方は、いろんな意味で甚だ不安です。自らに一定の枷(かせ)をかけないと、あっという間にめちゃくちゃになるタイプだとの危機感があるので、サラリーマンではい続けようと思います。あとは、これからだって、例えば骨董収集なんかに走る可能性も捨てきれない、自分の習性をなんとかしたいです。

逆の暮らしをしながら感じ取った、「持つべき普遍的なもの」

普段は報道局で夕方のニュースを手がけている。ドキュメンタリーの制作とは異なる現場だが、両方をやることで「いいバランス」なのだそう。

『人生フルーツ』という作品は、つくり手から離れて、観た人が大きくしてくれました。10のことを10伝えようと努力してもむずかしいのに、10以上になった初めての経験です。津端夫妻の姿には、僕ももちろん感動してました。でも、泣かせようとする演出は嫌いですし、そもそも泣くような映画だとは思っていなかったんです。なのに、劇場で涙する人たちを幾度も目にしました。中には津端夫妻とまるで世代が異なる若者もいましたし、思いもよらないシーンで、まさに号泣する人もいました。なにが琴線に触れたのかわからないこともあるので、作品自体もう、観た人のものです。僕が思う修一さんは、普通っぽいようで、やっぱり普通じゃないというか、語弊はあるけど、人としてはすごく変わってるんです。立派なだけでもない。でも僕は、だから素敵だと思っています。

夫妻の、畑で作物を育てながらなんでも手づくりする豊かな暮らしに感銘を受ける一方で、食事は年中コンビニで調達し、「タワーマンションに住みたい。虫もこないしセキュリティもしっかりしてるし」なんて言っちゃうのが僕です。そんな僕が「みなさんも津端夫妻のような暮らしをしましょう」などと言えるわけがなく、『人生フルーツ』は、「いいも悪いも考えてください」と、観てくれる人に委ねると決めてつくりました。夫妻への憧れを悟られないよう心がけ、観察しているふうに撮りました。撮りながら、密着していたのがタワーマンションに住む起業家だったら感じなかったであろう居心地の良さと、親近感を覚えていたのだから不思議です。きっと、彼らが、人間の持つべき普遍的なものを持つ人たちだったからではないかと思っています。

お金にまつわる10のQ&A お金にまつわる10のQ&A

伏原健之さん
  1. Q1.
    お金のことには詳しいほうだ。
  2. Q2.
    「趣味は貯金」に共感する。
  3. Q3.
    「趣味は投資」に共感する。
  4. Q4.
    先のことはわからないからこそ「使う」。
  5. Q5.
    どんぶり勘定の人よりお金に細かい人のほうが信用できる。
  6. Q6.
    100万円と10億円、もらえるなら10億円。
  7. Q7.
    お金の稼ぎ方と使い方、こだわるなら稼ぎ方。
  8. Q8.
    「金は天下の回りもの」に賛同する。
  9. Q9.
    アリとキリギリスならアリタイプ。
  10. Q10.
    お金にまつわる経験から得た教訓や信条をお聞かせください。
    お金は大切だけど、お金じゃない。お金じゃないけど、お金は大切。ここの感覚が狂うと危ういですよね。それを踏まえたうえで、いつか「お金じゃない」って言える人になりたいです。ウソっぽくなりがちで言いづらいけど言いたい。さらっと言える人に憧れます。生きる意味は、やっぱりそこにはないと思うからです。
    津端さんは、「お金は残せないが良い土は残せる」と言って畑の土づくりをしてました。田舎にこもって経済文化から距離を置こうとは思わないけど、僕も後輩に、そのようななにかをつないでゆきたいと、いまは思います。

編集後記

編集後記

取材を申し込むと、「『人生フルーツ』の制作者とは思えないようなお金とのつき合い方をしていて、とても人様にお話しできるような…」と、躊躇されていました。そのとき、でもそんな監督さんだから、押しつけのない作品になったのかな、と素人ながらに思いました。実際にお話をお聞きすると、並々ならぬお金への執着は確かに予想外(笑)として、概ね当たっていたかなぁと。映画は観る人に委ねたとのことでしたが、「観た人が、自分の生き方、やり方を肯定して、許されているんだと感じてくれたらうれしい」とのお気持ちはあるそうです。たくさんの人に届きますように。

映画『人生フルーツ』全国公開中!

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