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2010年5月号 これからの子育てを考える 第2回 ぶれない態度を見せることで、子どもは育つ 作家 室井佑月さん

子どもたちの幸せな明日を作り出すことをめざす「これからの子育を考える」シリーズ。その第2回として、小説家・コメンテーターの室井 佑月(むろい ゆづき)さんのインタビューをお送ります。室井さんはモデル、女優、レースクイーン、銀座ホステスなど、さまざまな職業を経て、作家になり、シングルマザーとして9歳になる男の子を育てています。「親の価値観とスタンスがぶれないようにすることが大切」と語る室井さんの子育て論に迫ります。

「早く大人になりたい」と考えるように仕向ける

室井さんが出産され、子育てを始めるにあたって何か準備したことはありますか

室井 私にとって子育ては初めての経験でした。何の知識もないので、誰かに教えてもらいたいと思いましたが、私の回りには子どものいる友人がいなかったのでその願いはかないませんでした。しかたがないので、たくさんの本を読んで、それを参考にしながら、育ててきました。しかし本を読んでも、その通りにはいかず、いまだに試行錯誤の連続です。でも、本から得られた知識やノウハウは、たいへん役に立っています。

子どもを育てるようになったときに、
どんなことを一番意識しましたか。

室井 仕事柄、大学の学園祭で講演する機会があるのですが、よく「大人になりたくない」とか、「大人になるのが恐い」という学生に会います。子どもを育てて、社会に送り出すのは親の責任です。ですから、「大人になりたくない」というのは、親がその責任を果たしていない証拠です。そんな風に考えていますから、私が親になったときに最初に意識したのは、息子を完成形に近い大人、つまり必要な道徳心を持ち、弱い者いじめをせずに、働いて税金を納め、社会に役立つことができる人間に育て、成人したあかつきには、すぐに社会に送り出すことでした。そのために、息子が「早く大人になりたい」とか「大人になるのが楽しみ」と考えるように仕向けました。

  子どもが早く大人になりたいと考えるようになるのは、ささいなことの積み重ねだと思います。たとえば、親が毎日「疲れたなあ」と言って家に帰ってきて、「職場では、むかつくことばかりだ」と言っていると、子どもは大人になりたくないと考えるようになってしまいます。また、親子の関係を友だち同士のようにせずに、はっきり分けることも大切です。たとえば、テレビのチャンネル争いでも、「私が買ったテレビだから、私に優先権がある。あなたも好きな番組が見たいのであれば、早く大人になって、自分で買えばよいではないか」と言い続けていると、「よし、早く大人になって、自分で稼いで、テレビを買うのだ」と考えると思うのです。

ルールや考え方をぶれないようにしようと覚悟

そのほかにも、どんなことに留意して子育てをしてきたのでしょうか。

室井   先ほどお話ししたように、完成された大人の条件である、道徳心を持ち、弱い者いじめをせず、社会の役に立つ人間に育てることは大事なことです。ですから、そうした社会ルールを身につけられるように子育てをしています。

  しかし、それを除けば、家庭内のルールはそれぞれの家庭で親がやりやすいように変えてもよいと思っています。私自身、世間一般の常識とは相当かけ離れています。そこで、子どもができたときに、どんなルールで育てるかを真剣に考えて、今まで、それにもとづいて、子育てをしてきました。たとえば、「ご飯を食べるときにものを読むのはいけない。家族で会話をするべきだ」とよく言われます。しかし、私は朝食のときに新聞を読みたいし、夕食のときもゲラ刷りの原稿があったら、読みたいのです。ですから、息子には「ママは食事中に新聞を読んでもいい。お前がものを読みながら食べて、食べ物をこぼしても自分でふいたり、きちんとかんで食べられるのなら、ママと同じようにやってもいいよ」と言っています。それから、社会的には「学校では友だちは多い方がよい」と言われていますが、私は「友だちは無理矢理つくるものではないし、無理してもできない。ケンカをする必要はないけれど、友だちになれないと思った相手とはつきあわなくてもよい」と教えています。

  ただ、そこで大切なのは、親がぶれて、ルールや言うことをコロコロ変えたりしないようにすることです。親がルールを突然変えると、子どもはどうしたらよいのかわからなくなってしまいます。私は親が言うことをよく変えるタイプだったために、私自身が自分の意見を言えるようになるのが遅くなって、とても苦労した経験があります。ですから、絶対にぶれないようにしようと決めて、9年間やってきました。

息子のイジメに動揺、対応を間違えるも、我を取り戻す

では、室井さんは、ぶれるようなことはあまりないのですか。

室井 そんなことはありません。昨年学校で、息子が相手を替えて順番でいじめる「イジメ」のターゲットになったときはとてもぶれました。いじめに関する本も随分読んでいたのですが、いざ息子がやられてみると、本当に動揺してしまったのです。息子の背中に鉛筆の先で刺された跡がたくさんあったのを見て、すごく興奮してしまい、息子を連れて相手の家に乗り込みました。そして、いじめた子を捕まえて、「やるなら、公園で一人で立ち向かってみたらどうだ」とか「これ以上やったら、私があんたに仕返しするからな」とやってしまいました。

  息子は私から生まれて、顔つきも私にそっくりなのですが、別人格で私とは違う考え方を持っています。その基本的な認識が、動揺のあまり吹き飛んでしまいました。自分がひどい目に遭うのなら大丈夫なのですが、自分が一番大事に考えている息子がそういう目に遭うのはとてもつらく、ぶれてしまいました。息子は私と違って、まわりと協調してうまくやっていこうとする性格なので、そういう私のふるまいはとてもいやだったと思います。私が乗り込んで怒ったので、相手の子は泣いていましたが、息子はそういうやり方が好きではありません。何よりも、本人はやられたときに、「痛い」とも言わずに我慢して、「弱い者いじめをするような恥ずかしい奴にバカにされようが、関係ないし、自分は気にしない」と考えていました。そして、「そんなつまらないヤツの挑発に乗らずによくがんばったね」と、私に誉めて欲しかったわけです。ところが私が対応を間違って、事態がとんでもない方向に進んでしまい、息子がそれに驚いてしまいました。冷静になった今は、そんな風に振り返っています。

自らの意志で進路を決めさせ、二十歳には家から出す

これからの子育てをどのように考えていますか。

室井 息子が二十歳になったら、出て行きたくなるようにしていて、息子もそれが当たり前だと思っています。そのためには、息子が自分なりに考えて、自分の進んでいく道を選んでいくことが大事だと考えています。それで、4月には小学校4年生になるので、「小学校も高学年になるのだから、そろそろ進路を考えなくてはダメ。将来は相撲部屋か、東大だよ」と極端なことを言っています。東大に合格するのも、相撲部屋に入るのも、簡単な話ではありません。そこで、「どちらにするの?」と極端な問いかけをしていけば、息子の方から「東大も相撲部屋もムリだけど、自分はこの中学に入りたいし、今の自分の力であれば、入れると思う」と私に頼んでくるようになり、自分の進む道を選べると考えています。

とても努力した、意識的な子育てをしているように見えます。

室井 それは息子にかけている私の「トラップ」なのです。息子は小さくても男です。男は、人からこうしろと指図されるとやりたくないし、やりませんが、自分なりに理由があれば、がんばるものです。これは私がホステス時代に学んだことのひとつで、その経験とノウハウが今、子育てに生きています。私が「勉強しなさい。早く宿題を終わらせなさい」と言っているときは、息子は勉強しません。しかし、「あんたは勉強好きだよね。このままでは、塾や私立中学の学費などで、ママはいくらお金がかかるかわからないわ」と言うと、いつの間にか「勉強が好きなんだよね」と言いだすのが男というもので、実際、息子もそうなっています。

誇らしく思える、理想とする男に育っている

小学校高学年になって、勉強の出来不出来が気になりますか。

室井 学校の成績も子どもに対する評価のひとつです。学校時代は「点数では人は推し量れない」と言われ、「誰でも皆、よいところがある」と平等意識を持つように教育されますが、実際に大人になって、社会に出れば、かなりの部分が点数で評価されます。ですから、成績が悪くても、その悔しさをきちんと受け止めて、がんばって成績が上がったら、誉めます。

  息子が「きょうは漢字テストがある」と朝教科書を見ていたことがあります。けれども、すぐに忘れてしまって、テストではとんでもない悪い点数をとって帰ってきて、それを見せてくれました。そのとき、本当は「いくら点数が悪くても、お前にはお前のよいところがある」とベタベタに甘やかしたかったのですが、つらいのを我慢して、厳しく意見しました。「成績が悪くても、君にはよいところがある」というのは家族以外の人が言うことだと思うのです。学校の先生やよその人に「あなたの息子さんは成績が悪い」と言われたら、腹が立って、「成績以外にも、よいところがたくさんある」と思うでしょう。よその人にそう言われるのがイヤだから、私が息子に「もっと勉強するように」と言うのです。

息子さんの成長ぶりを見て、
どんなことをお感じですか。

室井 息子が顔をくしゃくしゃにして泣いたりすると、すごくかわいくて、抱きしめたくなることがよくありましたが、じっと我慢してきました。子どもは自分の思う通りにならないと泣きますが、小学校に入る頃から、泣けば自分の意見が通ると思ってしまうのはよくないと考えました。そして、「もう一度やらせてくれ」と自分の意志を明らかにすれば、チャンスを与えるという接し方をしてきました。「自分がこうしたいと思うのであれば、泣き止んで、もう一度やりたいと私を説得しなさい」と言うのはとてもつらいのですが、そういうやり方でやってきた結果、息子は次第に、私が理想とする男に育ってきています。

  先ほどのイジメの話でも、息子が「弱い者いじめはやめろ」とはっきり言える方がよいに決まっているのですが、息子はその性格もあって、はっきり言えませんでした。しかし、私はそういう形で悩んでいた息子をとても誇らしく思っています。息子に対するいじめを知ったときに、私自身が一瞬対応を間違えてしまいましたが、「弱い者いじめは卑怯だ」と言ってきたことが息子にきちんと伝わっていることがわかり、今はとても嬉しく思っています。

室井 佑月(むろい ゆづき)


 

1970年青森県生まれ。モデル、女優、レースクイーン、銀座ホステスなど様々な職業を経て、1997年『小説新潮』の「読者による性の小説」に入選し、作家デビュー。主な著書に『熱帯植物園』(新潮文庫)、『ママの神様』(講談社文庫)、『血い花』『ドラゴンフライ』『ラブファイアー』(以上、集英社文庫)、『恋より仕事』(メディアファクトリー)などがある。