今月の「生きるヒント」

住まいに愛情、暮らしに愛情

一生のうち、住まう家は限られています。長く過ごすところだから、できるだけ居心地よく、自分らしく保ちたい。常に最高のモノに囲まれて生活したり、時間をかけてお手入れしたりは無理でも、それぞれのペースで、日々の豊かさを感じられる暮らしがしたい。こころも充実、エコで豊かな「生きるヒント」をお届けします。

第8回

今日の気分は?選べる和洋の香りと暮らす。

仏教や茶道と縁が深く、風雅な貴族文化も彩った日本のお香。心身をリラックス、リフレッシュさせるなど、自然療法の役割を果たしてきたヨーロッパの精油。同じように主には植物由来でも、加工のし方からたしなみ方まで、異なる伝統をたどってきました。どちらも、大がかりな道具をそろえずとも楽しめて、ゆとりの気分をもたらしてくれるところは共通しています。一瞬で空間に魔法をかけてくれる、和洋の香りの世界をお届けします。

いにしえの時代から受け継がれてきた、日本の「香」

教えてくれた人

松栄堂

畑元章さん

松栄堂は、京都に本店を構えるお香の老舗です。創業は1705年。仏教や茶道と縁が深いお香文化の担い手として、製品の販売のみならず、イベントや教室などの形でも、広くその世界を伝える活動をおこなっています。この日は東京の「青山香房」でお話を聞かせてくれました。

松栄堂公式サイト
絵巻物に登場する、平安貴族の間で愛された香り

その歴史は聖徳太子の生きた時代にさかのぼり、仏教とともに伝えられたと考えられている日本のお香。仏教の儀式に使われるとともに、平安時代には貴族の間で教養や財力の象徴にもなって、かの源氏物語にもたびたび登場しています。庶民に浸透したのは、町人文化が花開いた江戸時代といわれています。そしてお香の香りは、平成の今に至るまで、日本人なら誰もがそれとわかる香りとして受け継がれています。けれど畑さんによれば、意外にも「ヨーロッパの香水と材料はさほど変わらない」のだそうです。

写真:日本のお香の原料は昔から「舶来物」。現代ではスパイスとしておなじみのものも多いです。

ベースになる材料は、香木

その材料。沈香(ぢんこう)や白檀(びゃくだん)など、芳香を持つ貴重な木である香木(こうぼく)をベースに、桂皮(シナモン)、大茴香(ダイウイキョウ)、丁字(チョウジ)といった植物由来のものから、貝香(かいこう)と呼ばれる、巻貝の蓋部分までさまざま。すべてがいわゆる「舶来物」で、料理のスパイスとして、それから、生薬として用いられるものとかなり重なっています。香木は用途に応じて刻むなどして、素材そのものを仏事や茶事、趣味の香りに、香炉などで焚いて使います。香炉に灰を入れてそこにいったん小さな炭を置き、熱くなった灰の上にお香をのせて焚くのです。一方、お線香のように直接火をつけるものは、前述の沈香や白檀をベースに材料を粉状にしたものを調合して練り合わせてつくられます。松栄堂では専門のスタッフが、代々伝わるレシピ帳を基に開発するそうです。「調合はうちの心臓のようなものです」と畑さん!

写真:香木を薄くスライスしたり刻んだりする作業にも、風情があります。

生活を彩る一要素として

日本のお香の世界は奥深いものですが、「直接火をつけるタイプのお香であれば、小さな耐熱皿一枚と香立があれば始められます。スティックタイプに火をつけて、20~30分ほど漂う香りを楽しみながら、コーヒーを飲んだりお客様をお待ちするひとときを味わっていただければ」と、畑さんのお話をお聞きするうち、敷居の高いイメージが変化してきました。「生活にいろんな香りがあって欲しい。お豆腐屋さんから豆の香りがする朝、料理店のかつおだしが香る夕方。それに連なる香りのひとつとして、お香もまた、彩となれば。ちょっと火をつけるひと手間が、一歩だけ非日常に連れ出してくれる。その体験を、共にいる人と共有できる点を大切にしたいと思っています」…素敵なお話をお聞きしました。

写真:松栄堂で人気の「白川」は、20本入りのスティックタイプが800円台。白檀ベースのふんわりと甘やかな香りで、甘めの香りが好まれる寒い季節にもぴったり。

ひと言アドバイス

ほんのりと、後ろに控えているような香りであるところがお香の良さですが、同じ香りを長く焚きつづけると慣れてしまい、つい濃く強くしてしまいがち。それを避けるため、別の香りを挟みながら楽しむのがコツです。

畑さんより

香りの文化は西洋にも東洋にも根づいていますが、香水に代表されるように、西洋のそれがどちらかというと自分を表現するものであるのに対し、東洋では皆で楽しむものに寄っているところに特徴があります。同じ空間を共有した思い出として、香りを思い出すことはできなくても、香りで思い出すことはできる、お香がそういうものであればいいと私も思っています。

香りに宿る、植物の力。心身を整えるアロマセラピー

教えてくれた人

ニールズヤード レメディーズ

鷹見恵美さん

ニールズヤード レメディーズは、オーガニック栽培や野生種の植物から抽出した、エッセンシャルオイルをはじめとした製品で知られる英国のブランド。植物の力を生かした自然療法を学ぶスクールや、アロマトリートメントサロンも運営しています。鷹見さんは、日本におけるプレス担当で、アロマやハーブを暮らしに活かすホリスティックライフスタイリストの資格を持つ。

ニールズヤード レメディーズ公式サイト
その芳香は、ヨーロッパ伝統の自然療法として

植物から抽出する精油(エッセンシャルオイル)を用いる心身のトリートメントは、アロマセラピー(仏語読みでは「アロマテラピー」)と呼ばれ、ヨーロッパでは古くから自然療法のひとつとして知られています。リラックスしたいとき、集中力を高めたいとき、また、風邪や花粉症の季節のケアになど、目的別に働きの異なる精油を使い分けます。芳香成分を抽出する部位により、大別すると、葉は呼吸器系、花は生殖器系、木(樹脂)と根は循環器系に、主に効果があるとされているのだそうです。専門的に学べるスクールも運営するニールズヤード レメディーズ(以下ニールズヤード)ですが、鷹見さんは「多くの知識がなくてはいけないというものではありません。自分がそのとき好きな香りを使うのが良いともいわれます。ぜひ気楽に楽しんでください」と。

写真:右手に見えるボトルは精油を使用したホームフレグランスで、藤製のスティックが香りを伝えてくれる。

こころも満たす、“本物の香り”

精油は、専用のディフューザーや電球式の芳香器を使って焚くのが王道ではありますが、「お湯を張ったマグカップに数滴垂らしたり、ティッシュにつけて持ち歩いたりするだけでもいいんです」と鷹見さん。曰く「特に生活の場が都会にあると、植物と触れ合う機会がどうしても少なくなりがちです。たくさん植え育てることはできなくても、精油独特の“本物の香り”は季節をも感じさせてくれます」。例えば12月には、サイプレスのウッディーな香りと、シナモン、オレンジなどをブレンドするとクリスマス気分に。体調管理を目的とした使い方なら、ヨーロッパではインフルエンザ対策にも使われるユーカリやティートリーが冬におすすめとのこと。どちらもスッとする香りで、アルコールと水に垂らしてお掃除に使っても。

写真:蒸気とともに香りが広がるディフューザー。要する精油はわずか数滴です。

クレオパトラのお気に入りも

もともと女性のお客さんが圧倒的に多いニールズヤードのお店には、近年、男性の来店も増えてきたそうです。小学生の男の子の母親でもある鷹見さんは、お子さんが赤ちゃんのころから「香りのある、五感を使った子育て」をしていて、慣れ親しんで育った息子さんは、今も香りが好き。「この香りが勉強に集中できる」「サッカーの試合のときはこれがいい」とおっしゃるそうですよ。さすがですね。これら香りの歴史は古く、特に「神に届ける香り」とも言われるフランキンセンス(乳香)は、「クレオパトラのお気に入り」「イエス・キリスト誕生の際に奉納された」などという記録も残っているというのですから、神秘的な魅力も感じられます。種類が多く、確かに男女を問わずつき合えそうです。

写真:5mlで1,000円台の使いやすいものから10,000円台の希少なものまで精油の種類は豊富。

ひと言アドバイス

体調管理や美容の効果も期待できる精油ですが、多くの場合、直接肌につけるのは控えるほうが無難です。焚いて楽しむだけなら神経質になる必要はないものの、小さなお子さんやペット、妊娠初期の方は特に気をつけましょう。

鷹見さんより

精油の香りは人工のものに比べ、好き嫌いが少なく食事の邪魔もしないのが特長です。特に柑橘系の香りは好まれることが多く、明るい気分を促してくれる働きがありますので、朝一番や来客時におすすめです。自然の芳香はやわらかに香るため、ほんのり感じるかどうかでも、効果はきちんとありますので、用いる量はわずかで大丈夫です。お好きなものを、まずは1本、2本そろえて楽しんでみてください。

編集後記

松栄堂の畑さんの、「香りを思い出すことはできなくても、香りで思い出すことはできる」は名言だと思いました。香りになつかしい記憶を呼び覚まされる経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。精油の香り、お香の香り、どちらも深い魅力がありますが、なにより、香りに心を向けることのできるゆとりが、豊かなのだろうと思います。


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