今月の「生きるヒント」

シリーズ 女性の生き方 ターニングポイント~わたしの転機~ vol.2 山口絵理子さん 正直に生きるため心と体をタフに鍛える

プロフィール
やまぐち・えりこ/1981年、埼玉生まれ。株式会社マザーハウス代表取締役兼デザイナー。小学校時代イジメにあい、その反動で中学時代は非行にはしる。高校時代は柔道に没頭し、全日本ジュニアオリンピックカップ出場。部活引退後、偏差値40から慶應義塾大学に合格。大学時代、アジア最貧国バングラデシュにわたり、現地の大学院に進学。「かわいそうだから買ってあげる商品じゃなく、商品として競争力があるものを途上国から世界に発信する」という理念のもと、大学院卒業と同時に24歳で「株式会社マザーハウス」を設立。現在、バングラデシュで特産のジュート(黄麻)やレザーでバッグと小物を、ネパールで現地のシルク、コットン、ウールなどを用いたレディースの洋服を生産。著書『裸でも生きる ~25歳女性起業家の号泣戦記~』はロングセラーに。

生きることに必死だと、比較は無意味になる

途上国の援助に興味をもったのは、大学2年の時です。ワシントンの国際機関のインターンに応募し、幸運にも採用されたのですが、働けば働くほど途上国のためになる援助とはなにかわからなくなりました。そこで、アジアの最貧国の実態を知るために、22歳でバングラデシュに渡ったんです。これが、すべての始まりでした。現地のさまざまな援助やビジネスから、「日本でも売れるかわいいバッグを、現地の素材と工場でつくる」という、私なりの解決策が見えたのが、この時です。

バングラデシュで2年間暮らし、価値観も大きく変わりました。生きることに精一杯だと、自分と他人を比べることに意味がないとわかります。何かと比較するのではなく、自分の腑に落ちるように生きよう。そう思うようになりました。マザーハウスも、誰に評価されるかは関係なく、自分が納得できることだからやっています。

求める品質のバッグがなかなか作れなかったり、現地の工場をいきなり追い出されたり、売るあてもない大量のバッグをひとりで検品したりと、軌道に乗るまでものすごく大変なことがいくつもありました。スタッフに裏切られたときは、このまま人を信じられなくなってしまうかもしれない、とも思いました。でも、自分以外の人にできることじゃないという自負がある一方で、自分の意志でいつでもやめられると割りきっていたんです。だからこそ、逆に続けられたのだと思います。


格闘技もビジネスも、白黒はっきりしているから好き

途上国でも大変でしたが、本当につらいことは日本にありました。起業後、マザーハウスの活動がメディアに取り上げられて、実態以上のパブリックイメージが広まってしまったことです。私はやりたいことをやっているだけなのに、途上国の問題を解決する使命感に燃えているかのように伝わってしまう…。まわりの期待が重くて、人と話せなくなった時期もありました。その時は工場でバッグをつくることに集中し、少しずつ自分のペースを取り戻しました。

もともと、人の集まるところが苦手なんです。家で本を読んだり、絵を描いたりするのが好き。あと、趣味といえばプロレス観戦くらいかな。日本に帰ってくるたび観に行って、私も頑張ろうって勇気をもらうんです(笑)。彼らの体を張った頑張りって、絶対に対価以上のものだと思います。毎日のように試合に出場して、試合の後、血だらけのまま、自分たちのグッズを販売したりして…。あの姿には、いつも胸が熱くなります。応援しないわけにはいきません!

もともと格闘技は好きです。白黒はっきりしているところがいい。ワシントンの国際機関では、援助の良し悪しの基準が曖昧なのが心に引っかかっていました。たとえば、途上国に学校をつくる。もちろん寄付した人はいいことをしたと思っているけれど、せっかく卒業しても、現地では人力車のドライバーしか仕事がない。これって、結果的によかったのか悪かったのか、わからないですよね。格闘技もそうですが、いまのビジネスが好きなのは、売れたか売れないかではっきり結果が出るところ。社長になるなんて思ってもいませんでしたが、このビジネスはすごく自分に合っていました。


エリートじゃない私は、途上国に似ている

花びらのかたちからパターンをつくり、制作したHanabiraシリーズのLeather Mizubasyo。
モチーフであるミズバショウの花言葉「変わらぬ美しさ」がコンセプト。

いま、1年のうち7割は海外の工場にいます。工場が自分の居場所だという気持ちは、日に日に大きくなっていますね。バングラデシュにいる自分のほうが、日本にいる自分よりもずっと好きです。

私はもともと、小学校のときいじめられっ子で、高校で入った柔道部でも女一人で最下位の状態。大学も、高3から猛勉強してかろうじて合格したのでついていけなくて…まったくエリートじゃないんですよ。だから、途上国などの隅っこの存在に強く共感しているんです。

バッグをつくるときも、ゴミ捨て場にあるココナッツなどを素材として利用することがあります。それを拾って加工してみたら、ちゃんとバッグのボタンになった。そして、商品としていいと思ってもらえたから売れたというプロセスに、なんだかとても勇気が出るんです。

せっかく途上国でつくるのだから、日本製っぽく見せることに意味はないと思っています。バングラデシュでつくることでしか出せない温かみを追い求めたい。先進国に媚びずに、品質とこの国らしさの最適解を見出だすのが好きなんです。


頑張る女は体力勝負。筋トレは欠かさない

では、途上国にあるすてきなものはなにかと考えたら、それは自然でした。現地のスタッフはみんな葉っぱや花びら、鳥などに詳しいんです。普段からよく見ているから、花びらのかたちを切り抜いてもらうと、すごくきれいに切れる。そのかたちを重ねあわせてつくったバッグもあります。彼らのクリエイティビティを引き出し、かたちにして、それがうまく先進国の人たちの感覚とマッチした時はとてもうれしくなります。

幸せって、好きなことを続けられることだと思います。続けるのに必要なのが、体力。自分が社長になって、女性のベンチャー経営者があまりいない理由は、シンプルに体力の問題なのだとわかりました。私も普段は40℃近い暑さのなかで作業をしていますし、身の危険から自分を守る必要もある。女性であることが完全なハンディキャップになっています。

だから、日々のトレーニングは欠かしません。ランニング、腕立て、腹筋。人に言うとちょっと驚かれるくらいのハードさみたいで、実はけっこうマッチョなんです。その基礎になっているのは、高校の時に柔道に打ち込んだ経験です。男の先輩をおんぶしながらグラウンドを走らされるなど、地獄のような苦しみを味わいましたが、あの時に鍛え上げた身体が、いまの私を支えてくれています。

山口絵理子さんの、生きるヒント

大事な決断をするときは、パソコンにあまりふれないこと。私自身が、振り返るとそうしていました。近くにあると、パソコンから得られる情報を頼りにしてしまいますが、それが正しいとは限らないですよね。その時間、自分自身と対話したほうが、もしかしたらいい答えがでてくるかもしれない。
バングラデシュのみんながすごいのは、自分の生まれた村の天気がわかったりすること。生来備わった、生き物としての力なのでしょうね。バングラデシュだと人力車を選ぶのでも、信頼できる人を瞬時に見ぬかなければいけません。だから、そういう力はすごく大切。日本ではそこまでの危険はなくても、本能的なアンテナを鋭敏にしておくことで、トラブルを避けたり、大事なものを守ったりできるんじゃないかと思います。

【色紙プレゼント!】応募受付は終了しました。ご応募ありがとうございました。当選者には、2013年2月上旬以降にご連絡いたします。


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