赤ちゃんたちに伝えたい。「思いっきり泣いてもいいよ、大丈夫。」
みんなが自然と「たすけあい」を楽しめる瞬間を増やすには? でも、そんな社会はピンとこないし、どうしていいのかわからない。私たちこくみん共済 coop は、そんな戸惑いに寄り添い、「たすけあい」をENJOYするための7つのヒントを掲げます。今回は、ヒント4『たすけた方がうれしい』をテーマに、ライターの波多野友子さんに文章を書いてもらいました!
大学病院の会計待合室で、ひときわ大きく響き渡る赤ちゃんの泣き声。少し離れたその方向に目をやると、抱っこ紐に入れた赤ちゃんを胸に抱え、片手で2歳くらいの男の子の手を握っているお母さんの姿がありました。お母さんはもう片方の肩にぶら下げた大きなトートバッグの中を必死で探っています。おもちゃを探しているのでしょうか。
周囲の大人たちの反応はいたってクール。なんとなく意識はそちらに向いているようではありましたが、誰一人としてお母さんに声を掛けたり赤ちゃんをあやしたりする様子はありません。まさに「触らぬ神にたたりなし」状態です。私自身、子どもを産む前までは、電車の席で隣り合った子どもがぐずり始めると「ちょっと面倒くさいかも……」などと寝たフリをしていたこともありました。
2年前に出産して知ったことですが、小さな子どもの育児まっただ中のお母さんはとても孤独です。それは、正解の見えないいくつものルーティン作業をひたすらこなし、いつ危険にさらされるかもわからない小さな命と日々必死で格闘しているからです。
私の日常を例に挙げると、朝起きた子どもを抱きかかえて階段を降りる際、「今この子が暴れだしたら階段から落としてしまう」と想像し、お尻をついた状態で階段を降りることもあります。ご飯をあげているとき子どもが少しでもむせかえると、「食べ物を詰まらせたら危ない」と想像し、必死の形相で背中をパシパシ叩きまくります。保育園の送り迎えの際、「手を離して車道に飛び出したら車に跳ねられる」と想像し、その小さな手が赤くなるほどギュッと握りしめずにはいられないのです。
育児において、一体何が正しいのかわからない。それでも子どもをなんとか守り、育てていくため、必死に解決策を模索する日々を送っているのがお母さんだと思います。もちろん公共の場面で子どもが予想外に泣き出したときも同然です。大きなマザーズバッグに仕込んでおいたお気に入りのぬいぐるみや絵本を取り出して、あの手この手であやします。それでも子どもが泣き止んでくれないとき、お母さんの思考は停止し、同時に周囲の目線が恐怖に変わるのです。
そんなお母さんに対して、「赤ちゃんは泣くものだから気にしなくていいですよ」と声を掛けられる人はとても少ない。あまつさえ、露骨に嫌そうな表情を見せる大人も少なからず存在する。これは日常的に私が体感していることでもあります。
母親2年生になった現在の私は、泣く子どもを抱えたお母さん、お父さんの気持ちが痛いほどわかります。なんとか「泣いてもいいんだよ」という思いを伝えたい。自分が欲しい言葉を同じ気持ちの人に伝えられたらうれしい。そんな私の手元には伝家の宝刀があります。それは「WEラブ赤ちゃん 泣いてもいいよステッカー」です。
「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」はエッセイストである紫原明子さんが呼びかけ、2016年5月にウーマンエキサイトにより発足したものです。お母さんやお父さんだけでなく、社会全体が赤ちゃんに愛を向けることによって、よりよい環境を生むことができるはず。そんな思いが込められています。このプロジェクトのメインとなるアイテムが「泣いてもいいよステッカー」です。
私はこのステッカーをスマホの背面に貼っているのですが、この行為によって、公共の施設で泣き止まない赤ちゃんに焦ってしまうお母さんやお父さんに向けて「その泣き声、私は気にしていませんよ」というメッセージを無言のまま伝えることができます。初めてこのステッカーの存在を知ったとき、なんて温かいメッセージなのだろうと胸を打たれました。もし「泣いてもいいよステッカー」が、多くの妊婦さんがつけている「マタニティーキーホルダー」と同様に広く周知されることになれば、小さな子どもの泣き声に怯えるお母さんやお父さんの心を随分と楽にすることができるのではないか、そう思わずにはいられないのです。
プロジェクト発起人の紫原明子さんは語ります。
「私がお母さんと赤ちゃんをたすけたいのは、自分が赤ちゃんを育てていたときに、周囲の無理解から辛い目に遭った経験があるからです。それ以降世の中を信じられなくなりそうでしたが、自分の子どもたちのためにも信じられる社会をつくってあげたいし、自分も社会は信じられるという希望を持ちたいと思いました。だからこのプロジェクトをやっています」
私も「泣いてもいいよ」のたった一言が、あのとき欲しかった「たすけ」でした。
今はスッテカーを貼ることで、欲しかった「たすけ」を自分から渡せるということに喜びを感じます。
まさに『たすけた方がうれしい』のです。まずは自分がたすけてもらえたらうれしいこと、たすけてもらってうれしかったことを探してみると、たすけあいへ一歩近づきます。
私は一人でも多くの人がWEラブ赤ちゃんプロジェクトを知り、一枚でも多くの泣いてもいいよステッカーが社会に出回ることを期待して止みません。言葉はなくてもいいんです。今にも泣き出しそうなお母さんと赤ちゃんに、みんなで伝えてみませんか?
「泣いてもいいよ、大丈夫。」
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