みんなが自然と「たすけあい」を楽しめる瞬間を増やすには? でも、そんな社会はピンとこないし、どうしていいのかわからない。私たちこくみん共済 coop は、そんな戸惑いに寄り添い、「たすけあい」をENJOYするための7つのヒントを掲げます。今回は、ヒント6『憶えておいた方がいい知識もある』をテーマに、ライターのくりたまきさんに文章を書いてもらいました!

視覚障がい者の方々と知り合って、わたしの世界は広がった。その経験から「憶えておいた方がいい知識もある」と考えている。

たとえば、視覚障がいを持つ方が白杖を垂直に頭上の50㎝ほど上へ掲げてたすけを求めるサイン、『白杖SOSシグナル』をご存じだろうか。「困っていることがあるから声をかけてね」という意思表示だ。もし街でこのサインを発している人を見かけても、意味を知らなければたすけたくても気づくことはできない。『白杖SOSシグナル』ツイッターなどでも時折紹介されて話題になるが、裏を返せばそれだけ知られていないということでもある。

▲出典:内閣府「障害者に関係するマークの一例」
※視覚に障がいがある方が、危険に遭遇しそうな場合や困っている場合は『白杖SOSシグナル』を示していなくても声をかけて、たすけてください

出会うまで、何も知らなかった。

わたしは大学生のころ、視覚障がい者の方々の集まりに参加していた。月に一回、視覚障がいのある方々が30人以上は集まって、みんなでお茶をしながら話し合って情報交換をしたり、音声ガイドつきの映画の上映会をしたり、ハイキングやお花見をしたり、バラエティ豊かな活動をする。50?60代の方が多かったのだが、誰もがやさしく、活発だった。

この集まりに行くたび、「わたしは視覚障がい者の方々のことを何も知らなかった」と実感した。視覚障がいとひと言で言っても、全盲の人ばかりではないこと、視力に問題があってもメールをしたり家事をしたりできる人もいること。そんなことも知らなかった。

何よりも彼らは、わたしが一方的にサポートしなければならない対象ではなかった。視覚障がいがあっても自分たちでできることは率先して動き、むしろ孫に近いくらいの年齢のわたしを可愛がって、仲間として歓迎してくれた。主催者の方のお家に遊びに行くと、目がほぼ見えないながらも彼女自身がつくったごはんを食べさせてくれることもあった。包丁だってガスコンロだって使えるのだ。

相手の感覚を知ると、手だすけの方法がわかる

その集まりに参加するようになって、わたしは視覚障がい者の歩行をどう手だすけすればいいのか体験し、知ることができた。いろんなやり方があると思うけれど、わたしはだいたいこんな感じで一緒に歩いている。

1. 相手の様子をうかがってみる。まったく困っていなさそうなら声はかけない。
2. たすけが必要そうなら、驚かさないようにトントンと軽く肩や腕にふれて「何かお手伝いできることはありますか? 」と声をかける。
3. 移動に補助が必要な場合は、自分の腕、肘のあたりに相手の手を誘導して掴まってもらい、一緒に歩く。
4. 段差や階段があれば、そのことを伝えてから進む。

手だすけしているとき忘れそうになることがあるが、階段の終わりの声がけをしないと、足の出し方が平地とちがうので視覚障がい者の方をひやっとさせてしまう。これは実際にアイマスクをして体験したから、わかることかもしれない。相手と同じ環境に立ってみると、より細やかにサポートすることができる。

知ると、世界の見え方が変わる。

点字ブロックを見る目も変わった。集まりのとき、「あそこの交差点、あの点字ブロックじゃ怖くて渡れないね」などと視覚障がい者の方々が話し合って、実際にその交差点を確認しにいくのに同行したことがある。たしかにその道は点字ブロックが必要な場所に適切に置かれておらず、視覚障がい者からすると十分ではなかった。みんなが真剣にブロックを白杖で叩く姿に、点字ブロックの大切さを知った。

点字ブロックには二種類ある。

丸い粒が並んでいるのが『警告ブロック』。道の分かれるところや段差、階段などの手前、障害物の近くや駅のホームなどの危険箇所にあって「ここから先は道が変化してるよ」「この先は危ないよ」と教えてくれる。
もうひとつが『誘導ブロック』。4本の線が平行に並んでいて、道がその線の先に伸びていることを教えてくれる。

視覚障がい者の方はこのふたつのブロックを、足裏の感触や白杖で叩いて確認して歩いている。点字ブロックがないと、視覚障がい者は駅や人が多い街中で歩くことが難しい。ただ街の模様のようにぼんやり視界に入ってきていた点字ブロックが、わたしのなかでやっと意味を持ちはじめた。

人とかかわりながら、憶えてゆく。

あるとき、視覚障がい者の方々が地域の小学校で福祉体験の授業をする際に、お手伝いとして一緒に参加させてもらった。小学生たちと視覚障がい者の方々が直接お話しして、アイマスク体験をして、同じ時間を過ごす。小学生たちは視覚障がいのある暮らしの一端を知ることができた。だけれどそれ以上に、視覚障がいがある人も自分が住む街で暮らしているのだと実感することが、大きな第一歩なのだとわたしは思った。

盲目だけれど明るくチャーミングな、ふつうのおじちゃんおばちゃんたち。ふだん視覚障がい者と接する機会がない子どもも多いようだったから、親しみやすい彼らとふれあうことは、日常の中で視覚障がい者を気にかけるきっかけになったんじゃないかと思う。だって、わたしがそうだったから。

冒頭の『白杖SOSシグナル』のことも、彼らと関わるようになって知った。視覚障がいについての知識も、身近なことだと思うからこそ目や耳に飛び込んでくる。視覚障がい者の方々の集まりで知り合ったおじちゃんおばちゃんは、歳は離れているし最近はめっきりお会いできていないけれど、わたしは今でも仲間だと思っている。これからも人とかかわるなかで、無理して知識を詰め込むのではなく、体験を交えながら自然と「これも憶えちゃったな」を増やしていきたい。

最近も、都内の駅で白杖を持って歩いている人を見かけたので、立ち止まって声をかけた。知識があると、声をかけるときも変に気負わないでいられる。やっぱり、憶えておいた方がいい知識もあるんだなあ。

参考:社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合『「白杖SOSシグナル」のマークが内閣府ホームページに掲載』『点字ブロックについて』、内閣府『障害者に関係するマークの一例