みんなが自然と「たすけあい」を楽しめる瞬間を増やすには? でも、そんな社会はピンとこないし、どうしていいのかわからない。私たちこくみん共済 coop は、そんな戸惑いに寄り添い、「たすけあい」をENJOYするための7つのヒントを掲げます。今回は、ヒント3『アンテナを立てよう』をテーマに、ライターのはつこさんに文章を書いてもらいました!

初めて話す、内緒のゲームのこと

日曜日の夕暮れ時。一人、電車に乗る。これから出かけるのはわたしくらいで、早めに家路につく人々を乗せた静かな電車だ。わたしの右隣りと斜め向かいにはひとつずつ座席が空いている。すると、わたしがこっそりやっているゲームのチャンスタイムが始まる。

わたしは日常的に「おもいやりゲーム」をしている。心づかいができるチャンスを探し、見つけ、実行するのだ。このあと、ポイントを獲得するから見ていてね。

「あの、よかったら、こちらどうぞ」

そう言って、わたしは斜め向かいの席に移動する。

二人組はハッとした顔で、

「あっ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」

と、わたしがいた席と空いていた右隣の席に少しはにかみながら並んで座る。小さな声で「優しいね」「座れてよかったね」と顔を見合わせながら手を握り、今日の思い出話に花を咲かせ始めた。

わたしはその笑顔を見て、心の中で小さなガッツポーズをする。おもいやりゲームで高得点を獲得したのだ。

このゲームにはログインボーナスがある。気づかいができるチャンスを少しでも意識したらその時点でポイントが入る。電車に乗って空いている座席を確認した時点でポイントを獲得しているのだ。

心づかいができそうなチャンスを見つけたら発見ポイントが入る。電車に二人組が乗ってきて、席の移動を考えた時点でポイントが加算されている。

行動に移すと実行ポイントが入る。声をかけた時点ですでに10点。

さらに、喜んでもらえたらボーナスポイントが入る。今回の獲得ポイントは満点超えだ。

攻略法は小さな成功体験の積み重ね

「たすけあい」と聞くと、お年寄りに席を譲るとか、ボランティアに参加する、とかが思い浮かぶかもしれない。

でも、もっとさりげなく気軽なおもいやりも、小さな「たすけあい」だ。まずは小さな成功体験を積み重ねていくことで、ちょっと勇気が必要な「たすけあい」にも自然と踏み出せるようになる。

わたしが考える「たすけあい」のコツは、踏み出せた歩幅がどんなに小さくても、一歩一歩を自分で褒めてあげること。

だからログインボーナスがあるゲーム感覚で始めてみるのがいいんじゃないかな、と思う。

わたしが「おもいやりゲーム」をやっているのは、自分がご機嫌でいるためだ。自分がしたことで誰かが喜んでくれるとすごくうれしい。わたしは「おもいやりゲーム」をすることで心に余裕が生まれた。誰かに話したことはなかったけど、あなたにもやってみてほしいからゲームの話をつづけるね。

わたしは、もともとよく気がつくタイプだったかというと実はそうではない。わりとぼんやりしている方だった。でも、気づかいができる人ってかっこいいしいつもご機嫌だな、わたしもあんな風になりたい。という憧れから「おもいやりゲーム」を始めた。

急に気づかいができるようにはならないから、ポイントを獲得しようと意識してみたのだ。「おもいやりゲーム」を始めてみると、思っていた以上に街にはポイント獲得チャンスが転がっている。

小さい子がぐずっていたら、微笑みかけてみる。怪しいお姉さんにならないように様子をみて優しくね。電車にはチャンスがたくさん。これをして親子と仲良くなったこともある。

荷物の多い人が扉を開けようとしていたら、押さえに行く。台車を押している宅配便屋さんが通ったら大チャンス。

店員さんが研修中バッジをつけていたら、いつもよりゆっくり話す。レジはチャンスがいっぱい。ポイントカードを先に出したりね。

気にかけてみると、こんなにチャンスがあったのかと驚く。小さなことのように思えるけど、こまっている人をたすけるより、あったらうれしい手だすけをする方が成功率が高い。宅配便屋さんのために扉を開けに行くなんてチートなくらいほぼ成功する。それでも、成功体験を積むのがステージアップのコツだ。

まずは自分がされて嬉しかったことを意識すると、だんだん「こうしたら喜んでくれるんじゃないかな」ということも見つかる。

「あったらいいな」から「こまったな」へステージアップ

気軽にできそうな小さなおもいやりチャンスを探していると、少しレベルアップしたおたすけチャンスが自然と目にとまるようになる。

赤ちゃんを抱いた人に席を譲る。ときどき「立って揺すっている方がいいんです」と言われるけれど、おもいやりゲームでは実行ポイントまで獲得できる。

路線図を見ながらキョロキョロしている外国人に声をかける。言葉がわからなくても身振り手振りとスマートフォンがあれば意外と伝わる

「あったらいいな」の気づかいができるようになれば、だんだん「こまったな」をたすけられるようになってくるもの。チャレンジして失敗しても、小さな成功がたくさんあるからダメージは少ない。落ち込まずに次のチャンスを探せる。

ささやかな自己満足から始まったわたしのおもいやりゲームは、少しずつ少しずつレベルを上げ、災害救援のボランティアに行ったり、カンボジアの孤児院を訪問したりするようにまでなった。過去に遠く思えた「たすけあい」へも、少しずつステージを上げていくうちにいつのまにかたどり着いている。

たすけられていることにもよく気づく

だんだん見えてくる、だんだん心が動く、だんだん体が動く。そうやって小さな小さな気づかいが、誰かのたすけになっていく。

そうそう。自分ができるおもいやりを探していると、人からのおもいやりにも敏感になる。「ああ、わたしはこんなにたすけられているんだ」と、たすけながら、たすけられていることにもよく気づくようになる。優しさに気づける回数が増えると、どんどんご機嫌に暮らせる。そんな好循環が生まれるのだ。たすけあいはハッピーを引き寄せる。

「おもいやりゲーム」のスタートガイドはこれで終わり。まずはたすけあいのチャンスを見つけるアンテナを立てよう。最初はたまにしかチャンスをキャッチできない弱いアンテナかもしれない。でも、だんだん強くなる。

このゲームはきっと、あなたを思いもよらなかったステージに連れていってくれるはず。