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今月の「生きるヒント」

シリーズ 女性の生き方 ターニングポイント~わたしの転機~ vol.17 田中美里さん 体を壊したからこそ見えた 芝居への思いと日々の幸せて

プロフィール
たなか・みさと/1977年、石川県出身。1996年、「第4回東宝シンデレラコンテスト」審査員特別賞受賞により、芸能界デビュー。翌年、NHK連続テレビ小説『あぐり』の主役・望月あぐりを演じ、一躍有名になる。その後、映画では『みすゞ』『ゴジラVSメガギラス』探偵事務所5』『能登の花ヨメ』、テレビでは『WITH LOVE』『一絃の琴』『利家とまつ』『小暮写眞館』など、数々の作品に出演。さらに韓国ドラマ『冬のソナタ』などでチェ・ジウの吹き替えを担当するなど、声優としても活躍している。また、bay-FM『Morining Cruisin’』ではラジオのパーソナリティーを10年以上務めている。

ベテランだと思われ、プレッシャーと戦っていた新人時代

初めてお芝居をしたのは、小学生低学年のころ。恥ずかしがり屋で、すぐ人の後ろに隠れてしまう私を心配した母が、児童劇団に入れてくれたんです。演技をしてみると、なぜか気持ちが楽になりました。いつもは引っ込み思案な私でも、怒ったり、笑ったり、役になりきっていると感情を素直に出せる。舞台上でも、緊張を感じるより「ああ、息がしやすい」と思ったことを覚えています。役ごとに全然違う人になれるのは、すごく楽しい体験でした。それから10年以上経って、本格的にお芝居の世界へ入ることに。19歳で、NHK連続テレビ小説「あぐり」の主役オーディションに合格したのです。生活がガラッと変わりました。あのころはまるで、大きな見えない力に背中を押されているような感じでした。

実は、デビューから3年目くらいまでは、すごくプレッシャーを感じながら仕事をしていたんです。当時の私は年上に見られることが多く、10代のころから30代に間違われていました(笑)。まだ1~2年しか経験がないのに、現場でよくベテランだと勘違いされるんです。例えば、撮影のとき周りがうるさかったため、音声だけ別録りすることになったときのこと。私はその録音を一度も体験していないのですが、当然やったことがあると思われ、レクチャーもなく「はい、どうぞ」とふられる。「できて当たり前」という雰囲気の中、なかなか「やったことありません」とは、言えないんですよね。とりあえず見よう見まねでやってみるけれど、初めてなのでやっぱりできない。それで「なんでできないんだ!」と怒られる。もう悪循環でした。


大きく見える壁は、障子ほどの薄さかもしれない

そうして重圧と闘いながら、休みなく仕事をしているうちに、23歳で体を壊してしまいました。そのときに感じたのは、自分の感情の大切さです。それまではインタビューを受けるときなど「喜怒哀楽の『喜』と『楽』だけで、『きらく』でいい」と言っていたのですが、それではやはり我慢がたまっていくんですね。人間は、喜怒哀楽を全部出していかないと、体にも影響が出てしまう。怒りや哀しみを感じたときは、押し込めるのではなく、やわらかく表現すればいいんだと思うようになりました。

また、その当時撮影していたドラマの監督が言ってくださったことは、今でもよく覚えています。どう演技をしていいかわからなくなってしまった私を、「とにかく続けるんだよ。そうすれば大きな壁もいつか乗り越えられる。そして、その壁は振り返ってみると障子のように薄いものだってわかるから」と見守ってくださいました。今はすごくその言葉の意味がわかります。大きな壁はまた現れるかもしれませんが、その壁も障子のような薄さだと思うと、立ち向かえるんです。心が強くなりました。

その監督には、今もお芝居で悩んだときに相談しています。「人生は坂道じゃなくて、階段なんだ」と教えてくださったことも、いつも心に留めています。一段上がると平行線になっていて、進んでいないんじゃないか、後戻りしてるんじゃないかと悩むけれど、ずっと歩いているとまたひゅっと1段上がれるときがくる。そう考えると、生きるのが楽になります。


歳を重ね、初めてのことがうれしく感じるように

お気に入りの自作の帽子

体調を崩した当時、1ヶ月ほどお休みをいただきました。そのときお医者様に言われたのが、「自分の一番やりたいこと、やりたくてもできなかったことを全部やりなさい。それがあなたのお薬になるから」ということ。そこで、自分は何を一番やりたいのかじっくり考えました。すると、その次に決まっていた映画をどうしてもやりたい、演じたい、という気持ちがわいてきたんです。仕事がしんどくて体を壊したのに、やっぱり私はお芝居がすごく好きなんだ、と改めて実感した時期でもありました。

23歳の転機を乗り越え、さまざまなことへの意欲が出てきました。歳を重ねるごとに、やりたいことが増えています。30代になって、いろいろな出会いを楽しめるようになりました。緊張してドキドキする前に、うれしい気持ちがわいてくるんです。以前は、時間があったら、家に閉じこもって本を読んでいるようなタイプでした。でも、今は外に出て、たくさんの人と知り合いたいし、未知のことにチャレンジしたい。最近は帽子づくりにはまっているのですが、これもお裁縫が大の苦手だった私にとってはすごく意外なことです。ミシンなんて絶対にうまく使えないと思っていたのに、やり始めると楽しくて。自分は立体的なものをつくることに、心を惹かれるということに気づきました。平面だったものが、立体になっていく様子はまるで魔法のようだと思います。


幸せは、そこらにころころ転がっているもの

今は、朝起きたときに何がしたいのか、毎日自分に問いかけるようにしています。自分は出不精だから、休日も家にいよう。そういうふうに思うのもやめました。自分はこういう人間だ、と決めつけない。朝起きたら、外に出たい日もあるし、家にいたい日もある。本を読みたい日もあれば、運動したい日もあるんです。人間というのは、日々変わるものなんだと認められるようになりました。そうすると、まわりから「やわらかくなったね」と言われるようになったんです。それまでは、「これをやらなきゃ」「あれもやらないと」と、ガチガチになってしまっていたんですね。

人生の幸せって、「タダ」なものだと思います。お金でやり取りするものじゃなく、そこら辺に転がっている。例えば、人を思う気持ち、大切な人の笑顔、飼っている犬がお腹を見せてくれること(笑)、そういうすべてが幸せなんじゃないでしょうか。当たり前のようにそこにあるけど、見ようとしなければ見えない、小さなものを大切にしたい。小さな幸せを見つけられないと、大きな幸せも見つけられない気がします。以前は、「こういう女優になりたい」「女性としてこういう生き方をしたい」と突き進んで、視野がせまくなり、そうした幸せを見落としていました。幸せは案外、起きて寝るまでの間にころころと転がっている。そう思うと、どんな瞬間も大事に感じられますよね。

取材協力:ヴィツゥ・東京

田中美里さんの生きるヒント

「日々是好日(にちにちこれよしにち)」。これは私が、嫌なことがあったり、調子が悪かったりするときにつぶやく言葉です。舞台に上る前、緊張してしまったときも「にちにちこれよしにち、にちにちこれよしにち…」と唱えると、ぐっと顔を上げて踏ん張れる。ある意味「魔法の言葉」です。もともとは禅語で、違う読みもあるそうですが、私はこの読み方の響きが好きですね。なんだかちょっと、おまじないみたいでしょう? 悪いこともすべてひっくるめて、自分の人生のいい一日。そう思える、生きる原点のような言葉です。

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