島に移住して、いろんな人に親切にしてもらった僕が考える“たすけあい”の一歩目とは
こんにちは。
僕は鹿児島県長島町というところで暮らしています。
長島には約3年前、大学生だった頃に移住してきました。
それから今は地域おこし協力隊という職に就き、「長島大陸食べる通信」という情報誌の編集長と飲食店のオーナーをしています。
長島町は、下の地図の赤く囲われたところです。
長島町が気になる方は【長島町 鹿児島】
などで調べてみてください。
ちなみに【長島】単体だとほぼ120%ナガシマスパーランドが出るので正しい情報には辿り着けません。お気をつけて。鹿児島、島、と聞くと南国感が出てしまいますが、そんなことは全くありません。冬には道路が凍結しますし、2年に1度は雪も降ります。暖房がないと凍えてしまって生活もできません。
そんな長島町ですが、人口約一万人で、食料自給率は120%を超え、風力発電や太陽光などのクリーンエネルギーを利用してエネルギー自給率も200%を超えています。いますぐにでも独立できそうな勢いの島です。
景色もものすごく綺麗で、特に東シナ海に落ちる夕日は、今日あった嫌なことを浄化するほど美しいです。その景色を少しだけおすそ分け。
(水平線が霞んだりして、太陽が最後まで落ちていくのを見られるのはじつは珍しい)
(時々刻々と見た目を変える空。時間の流れにも手触りがあるように感じられます)
(島の中でも一二を争う好きな景色。この向日葵たちは枯れると土の養分になります)
長島町はたくさんの美味しい食材が獲れます。そしてそれらを獲り、育む優秀な生産者の方がたくさん存在しています。
(実りある収穫。土の中から掘り出されたじゃがいもたちは一つ一つ手作業で選り分けられます)
(麦味噌を仕込んでいる様子。このお味噌は減塩で麹の香りがはっきりしていて優しい)
手間暇をかけて生き物や自然と格闘する生産者たち。その姿はとても美しく、人間らしいものです。
僕が編集長を務める「長島大陸食べる通信」は、そんな生産者の方々にスポットライトを当て、彼らのこれまでの人生やこれからの道を細かく取材し、記事としてまとめたものです。
「長島大陸食べる通信」を送る際は、誌面に登場した生産者が作る食材を一緒にお届けします。彼らの思いや生産過程を知った上で、食材を口にすることができるのです。
(長島町は赤土じゃがいもが有名。眼の前に海が広がる畑って贅沢だ)
さらに僕は、島で飲食店を開業し、島の生産者たちが作る食材を使って、料理を提供しています。
(大人気の長島じゃがいもを使ったフライドポテト。ものすごくホクホクで美味しい)
(長島といえば養殖のブリ。僕はこれをしゃぶしゃぶで食べるのをオススメしています)
こうして僕はこの島に来て、たくさんの生産者を取材させていただきました。その中で、血はつながっていないけど、お父さんやお母さん、年上の兄弟のように慕える方々にたくさん出会いました。
島の人たちは、得体の知れない学生に親切にしてくれ、島で生活することを歓迎してくれたのです。
言葉もあまり理解できない(方言がきつくて高齢の方との会話は大変。外国のようだった)僕をあたたかく迎えてくれた彼らにとても感謝しています。
そんな長島町で暮らす中で、町の人のコミュニケーションのとり方と、そこから僕が感じた「たすけあい」について、お話できればと思います。
あんたはどっから来たの??
これは長島に来てから、挨拶のように言われ続けています。
町の食堂でご飯を食べていたら隣のおじさんに、
スーパーで買い物していたらレジのおばちゃんに、
温泉の脱衣所で体重を測っていたときにもおじいちゃんに聞かれたことがあります。
いいか悪いかは置いておいて、この島では大体みんなが知り合いなので、よそから来た人はすぐに分かるみたいです。
だから必ず、
「あんたはどっから来たの??」
と話しかけてくれます。
「あ、鹿児島市内から移住してきました」
と答えると、
「なんね!移住してきた!?どこに住んでるの??」
とすぐに住んでる地域を聞かれます。
「えーっと、指江ってところに住んでます」
「え!指江!?あそこは〇〇さんがいて、じゃがいもつくってるわ!となりの〇〇さんはあそこで働いてるな!へー指江に住んでるんか!」
と終始笑顔で周辺情報をスラスラ話してくれます。(いいかわるいかは置いておきます)
「あんたはどっから来たの??」
という質問に対して、ここまでがワンセットだと僕は思っています。
ここからの会話の流れは2パターンです。
①何をしているのか聞いてきて、自分のお家に呼んでくれる人。
長島町は住んでる人の7割くらいがなにかの作物を育てています。
つまりは農業や漁業の一次産業を行なっています。役場に勤めている人も副業として農業をしています。(米の収穫です。という理由で半休を取ることもしばしば)
なので、僕が料理をしたり、生産者の取材をしていると伝えると、
「おいげんところもじゃがいもやデコポン作っとっぞ!見に来い!」
とお誘いしてくれます。
こうなるともう簡単です。
「えー!ありがとうございます!!行きます!!」
と言うだけです。
②若いのに移住してきて、ほんとに食べていけるの??と心配そうな顔で聞いてくる人。
事実、こんな20代前半の人がこの島に移住してくることってほとんどありません。
なので、不思議そうな顔をしながら、
「どうして……この島に……??」
と死んだと思っていた主人公が突然現れたときの悪役みたいなセリフを言ってきます。
この質問には、たとえ「地域おこし協力隊という仕事があって、それで移住してきました」や
「以前来たときにものすごく親切にしてもらったし、景色もきれいだし、仕事もあるので移住してきました」
と理由を答えたとしても、
「それでご飯は食べていけるの?大丈夫?」
と、あれ?実家に帰省したかな?と思うようなセリフをみんなが言ってくれます。
そして母親のような愛のある顔で
「お米とか野菜とかはあるから、あげるよ。今度取りにおいで」
とお恵みを与えてくれます。
こうなるともう分かると思いますが、
「えー!ありがとうございます!行きます!」
と満面の笑みで答えるだけです。
(地域の人たちみんなでご飯を作っている様子。おじいちゃんの手際の良さにみんな驚く)
“気にかけてくれる”ことの安心感
この島に移住してきて、いろんな人に出会って、先程のような会話を沢山してきました。
そこでわかったことは、この島の人たちは、ものすごく他人を気にかけてくれているということです。
僕みたいな移住者に対しても、長島に住みやすいようにいろんな人が声をかけてくれて、気にかけてくれます。
たとえ、ものをいただくとか、困りごとを解決してもらうとか、わかりやすい“たすけあい”ではなくても、話しかけてくれて、自分の話をきいてくれる。
そんな“この人は自分を気にかけてくれているんだ”と思わせてくれる存在がいるだけで、この島で生活をしていくことに安心感があります。
僕はそんな島の人たちと暮らす中で、“気にかけること”がたすけあいの第一歩だな、と思いました。
多分みなさんの中でも、
電車などで席を譲ろうか譲らないか迷っている間に、降りていってしまったり、他の人が譲ってあげたり、自分が降りる駅についてしまったりして、
「あーどうして声をかけてあげられなかったんだろう」
と少しだけ落ち込んだことのある人は多いと思います。
確かに「思ってるだけじゃ意味はなくて、行動して初めて意味がある」と言われたら、(それはわかってるんだけど)という気持ちを抑えつつ「うん。そうだよね。それができれば一番いいよね」と言うしかないです。
でも僕は、その人を“気にかけてあげられた”だけで、たすけあいの第一歩をきちんと踏み出せていると思いますし、「いいね。あとちょっとじゃん!」と褒めてあげたくなります。
生活の中には、“気にかける”ポイントがいろんなところに、たくさんあります。
町中だったら
「キョロキョロしてるから、なにか探してるのかな?」
とか
「あの大荷物で階段登るの大変そうだな」
とか
「この人顔色悪いな、立ってるのつらそうだな」
とか。
もう、シャーロック・ホームズばりの洞察眼を発揮して、たくさん気にかけてあげてください。そうしたら、その内の一つくらいは、自然と自分から行動できるタイミングが訪れると思います。もしできなくても大丈夫。気にかけ続ければ、またその次、必ずチャンスはやってくるので。
自分ができるタイミングで、無理のないように、みんなが自分以外を思いやることができるようになると、今よりももっと楽しげな世界になるのかなと思います。
今日も今日とて、家の玄関前には、
誰かの家で採れた野菜がかけられていました。
(差出人の名前もわからない食べ物。あとから「あの野菜食べた?」と言われることもしばしば。)
「かいくんはちゃんと食べていけてるのだろうか……」
と気にかけてくれたのかな〜、ありがたいなぁと思いながら、僕もいろんなところで気にかけていきたいなぁと、もらった野菜をもりもり食べながら思うのでした。
(写真提供:カイユーヤ 編集:はつこ)