「なぜ、日本はたすけあいの文化が少ないのか?」トークイベントが行われました
2019年12月16日(月)、noteとのコラボレーション「#たすけてくれてありがとう」投稿コンテストの結果発表の後、「なぜ、日本はたすけあいの文化が少ないのか?」というテーマでトークセッションが行われました。
※投稿コンテストの結果と審査員のコメントはこちらをご覧ください。
イギリスのチャリティ機関「チャリティーズ・エイド・ファンデーション(CAF)」が毎年発表している「世界人助け指数(World Giving Index)」。その中で「この1ヶ月の間に、見知らぬ人、あるいは、助けを必要としている見知らぬ人を助けたか?」という調査に基づいたランキングがあります。日本の順位はというと……なんと最下位の125位なんです。
このデータを踏まえ、今回は「なぜ、日本はたすけあいの文化が少ないのか?」「本当にたすけあいが少ないのか?」「たすけあいを増やすにはどうしたらいいか?」について考え、いろいろな切り口から話し合いが行われました。
最下位という衝撃的なデータからスタートしたトークセッションでしたが、登壇者から前向きなお話が次々と飛び交い、来場者からは笑みが溢れ、たびたび笑いが起きるほど終始あたたかな雰囲気に包まれていました。今回はそんなイベントの様子をお届けします。
<登壇者>
・岸田奈美さん(投稿コンテスト審査員)
2019年6月から、車いすユーザーの母と、知的障がいのある弟の日々などをnoteに書き始め、「弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった」「一時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが帰ってきた」などがSNSで話題に。講談社「現代ビジネス」「FRaU」等でエッセイ連載中。
https://note.kishidanami.com/
・櫻本真理さん(投稿コンテスト審査員)
株式会社cotree 代表取締役。京都大学教育学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券にて株式アナリストとして勤務していた頃の睡眠障害の体験から、より気軽に心理の専門家に頼ることができる仕組みを作りたいと2014年に株式会社cotreeを設立。悩みを抱えた時に気軽に相談できるオンラインカウンセリング事業、自己理解を深めて目標達成を目指すアセスメントコーチング事業、経営者向けコーチング事業等、心の健康に関わる事業を複数運営する。
https://note.com/marisakura
・モリジュンヤさん(投稿コンテスト審査員)
株式会社インクワイヤ 代表取締役。2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、大手企業のR&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。
https://junyamori.com/
・森下夏樹(ENJOY たすけあいジャーナル編集部)
株式会社カラスのコピーライター。ENJOY たすけあいジャーナル編集部として記事の企画、執筆を行う。執筆を担当したコラム「ドラえもんがのび太をたすけ続けるワケと、未来をよりよく変える方法」がSNSで話題に。
・一入恭子(こくみん共済 coop )
こくみん共済 coop にてブランドコミュニケーションを担当。Twitter、LINE、オウンドメディアなどWebを使った企画、運用をしている。今回のnoteの投稿コンテストも担当。
(左から一入、岸田さん、櫻本さん、モリさん、森下)
<モデレーター>
・牧野圭太(ENJOY たすけあいジャーナル編集長)
株式会社カラス代表/エードット取締役副社長。ENJOY たすけあいジャーナルの編集長を務める。
たすけあい文化は国によって異なる
牧野: 今日のテーマ「なぜ、日本はたすけあいの文化が少ないのか?」は僕が設定しました。
世界人助け指数が最下位だと知って、シンプルに残念だなと思ったんですよね。でもそんなことはないと思ったり、やっぱり知らない人に対してはそうかもしれないと思ったり。なので今日はみなさんと一緒に「たすけあい」について、いろいろな角度からお話できたらなと思います。
それではまず岸田さん、ご経験の中でたすけあいについて感じていることをお話してもらえますか?
岸田:はい。日本にたすけあい文化が少ないかは私もまだ結論が出ていません。
ですが、たすけあいの形が国によって違うことは最近気がつきました。
投稿コンテストのお手本作品で、ミャンマーで車椅子の母がたすけられた記事を書いたんですけど、ミャンマーに行ったときめちゃめちゃたすけられたんですよね。現地でバスを降りるなり、どこからともなく現れた人がサッと母の車いすを押していって「母が盗まれた!」と思ったくらい。
会場:笑い
岸田:すごく嬉しかったです。でもそれって、ミャンマーは上座部仏教の信仰者が多くて、輪廻転生の考え方が根付いているからなんですよね。人をたすけることは、来世を良くするための行いなんです。
じゃあニューヨークはどうかというと、車いすの母と行って階段や扉の前で困っていても一旦は無視されるんです。「ちょっと冷たいなー、日本より冷たいかもなー」と思っていたら、ある人から「ニューヨークは多様性の街で人も多い。いろんな国の人がいるし、ホームレスもいるし、LGBTの人たちもいるから、いちいち声をかけないんだよ。その人にとって迷惑かもしれないし。でも、たすけてって言ったらニューヨークの人は全員たすけてくれるから」と言われたんです。
本当かな?と思って「たすけて〜!」って言ってみたら、みんなたすけに来てくれました。ニューヨークが冷たいわけではなかったんです。
牧野:へえ〜!
岸田:それに比べたら、確かに日本って知らない人から声をかけてもらうことは少ないですよね。でも制服を着た日本人、つまり店員さんや駅員さんなどの働いている人はとても優しい。
ミャンマーでもニューヨークでも、車いすで電車に乗ろうとしても、駅員さんは駆けつけてくれないんですよ。日本は駆けつけてくれますから。
私は日本のおもてなし文化が素晴らしいと思っています。特に、制服を着た人は優しい。日本人は最初の一歩が恥ずかしいだけで、店員という役割を演じていて、堂々と声をかけていい立場になったときはすごくたすけてくれると思います。
牧野:日本の接客業の方々のホスピタリティはすごいですよね。 店員を演じていれば、恥ずかしがらずにたすけられるというのは面白い。確かにそうだなと思いました。
岸田:たすける最初の一歩でいうと、最初の一言が大切です。
「大丈夫ですか?」って聞くと人って反射的に「大丈夫です」と答えちゃうので、「何かお手伝いできることはありますか?」と聞くんです。そうすると「こうして欲しい」って言いやすいですよね。
そして私は声をかけてもらった方にもマナーが必要だと思っていて。例えば年寄り扱いされた!と怒ってしまうのはマナー違反。まずは「ありがとう」と受け止めて、「今は大丈夫です」というような、お互いの歩み寄りが大事なんじゃないかなと思います。
牧野:ありがとうございます。 めちゃくちゃヒントになるお話ですね。
小さなたすけあいを認識すること、「すみません」ではなく「ありがとう」と言うこと
牧野:では続いて、モリさんお願いします。
モリ:はい。岸田さんのお話を聞きながら、たすけるって受動型と能動型があるんだな、面白いなと思っていました。東京はどちらかというと受動型なんだなと。
日本にはたすけあい文化が少ないのかという問いに対しては、たすけあっていると意識していない日本人が結構多いんじゃないかなと。「こんなのでたすけたなんておこがましい」と思ってるんじゃないかなって。
なぜかというと、僕、「道聞かれビリティ」が高いんですよ。
牧野:ははは(笑)。
モリ: 僕、街を歩いていたり、駅のホームで電車を待ってたりするときに、「ここ行きたいんだけど、どっち行ったらいい?」って聞かれることが多いんですよ。そんなウェルカムな顔をしてるわけじゃないと思うんですけどね(笑)。
道を聞かれたらもちろん答えるんですけど、僕の中ではわざわざ「たすけた」とは思っていない。けれど、多分たすけているんですよね。そんなふうに、たすけあっている認識はないけど、じつはたすけあっていることが、結構あるんじゃないかと思っています。小さいことでも、これはたすけたな、たすけられたなと認識することで変化があるんじゃないかなと思いますね。
牧野:なるほど。
モリ:あと、僕が日常的に気をつけているのは「ありがとう」の回数を増やすこと。コンビニのレジやタクシーの乗降で、反射的に「すみません」って言っちゃいがちじゃないですか。小さいことですけど、僕はそれがすごく嫌で「ありがとう」と言うようにしているんです。
「ありがとう」と口にし、日常で自分が何を受け取って、何を返せているのかの解像度を上げれば、たすけあいの見方、考え方も変わってくるのではないかと思います。
牧野:確かに、僕もつい「すみません」って言っちゃう場面が多いですね。
モリ:「すみません」って言ってると、本当に申し訳ない気持ちになるじゃないですか。
牧野: なりますね。
モリ:でも「ありがとうございました」って言うと、なんだかちゃんと感謝した気持ちになる。小さいことかもしれないですけど、自分の口癖を変えていくって結構大事なのかなって思ったりしますね。
牧野: 「すみません」じゃなくて「ありがとう」にしましょうって、広告を出したいくらい、いい気づきでいいコピーになりそうですね。
「自立とは依存先を増やすこと」という認識を広げる
牧野: モリさんは、soar(ソア)という、障害のある方やLGBTの方など社会的にマイノリティと言われている人々に光を当てたメディアを運営されていますよね。メディアに関してで、たすけあいについて何か思うことはありますか?
モリ:soarの取材で出会う方の多くは、たすけが必要なときは堂々とたすけを求めるようにしているそうです。彼らにとって、たすけを求めるのは特別なことではなくなっている。困っているときに自分で何とかしようとせず、たすけを求める。これは僕たちも必要なことだなと思います。
soarでお世話になっている熊谷晋一郎さんが「自立とは依存先を増やすこと」と仰っていて。日本人って「困っても自分でなんとかするのが自立した大人」だと思っている人が多いですよね。でも誰かに依存したりたすけてもらったりするのは、自立するために行われて然るべきという考えなんです。
僕はこの考えにすごく学ぶことがあるなと思っていて。「自立」の前提条件を「自立とは依存先を増やすこと」だと置きかえられれば、もっとたすけあいやすくなるんじゃないかな。
牧野:「自立とは依存先を増やすこと」って僕は目から鱗だったんですけど、まさにそのとおりだなと。人って一人で立ってられないですからね。
身内の範囲が広がれば、たすけあいの輪が広がる
牧野:櫻本さんは、普段カウンセリングやコーチングのお仕事をされていて、悩みを抱えている方と接する機会も多いと思います。その中でたすけあいに関する気づきや感じることはありますか?
櫻本:はい。まず日本はたすけあい文化が少ないのかに関してお話しすると、カウンセリングの市場規模ひとつとっても、アメリカは約2兆円あるのに対し、日本は200〜300億円くらい。やっぱり人に相談するという文化自体がアメリカと比較して少ないですよね。
さらに文化を掘り下げると、日本は「恥の文化」、欧米はキリスト教が広まっているので「罪の文化」が根付いていると言われます。
罪の文化って神様が見てるから、悪いことしたらバレるし、いいことをしたら天国に行けるんですよね。ミャンマーの仏教のお話と似ています。
一方で日本は宗教観が一回崩れ去って「恥」、つまり神様の代わりに身の周りの人に見られていて、そこに責任を負う。だから身の周りの人に迷惑をかけちゃいけないというのが日本人のルールになっているし、逆に身近な人には行動を先読みしてお手伝いをする。
日本人はサークルの内と外の境界線が強く、接し方の差が大きいんです。サークルの内側の人である、身内や仲間には配慮するけど、外側という認識の人、例えば電車内の見知らぬ人へだと途端に配慮ができなくなってしまう。
「たすけあい文化が少ないか」のお話に戻ると、内の人とはたすけあうけど、外の人には冷たくなる。人助け指数の質問も「知らない人をたすけたか」でしたよね。そうなるとやっぱり低くなってしまう文化なのだと思います。
じゃあ知らない人ともたすけあえるようになるにはどうしたらいいかというと、サークルの内側、想像力の及ぶ身内の範囲を広げていくのが一つの方法だと思います。この人は自分の仲間だと思えると自然とたすけあいが発生していくのかな。
あとは恥の文化があるので、みんながやっていることはやりやすいんですよね。「たすけあい、みんなやってるよ?」という空気になったらものすごく強いんじゃないかなと思います。なので「ENJOYたすけあい」の取り組みはすごくいいなって、テンションが上がりました。
牧野:「たすけあえる身内、仲間の範囲を広げる」というのは、モリさんの「依存先を増やす」とも近いのかなと思いました。
あと、仲間の範囲を広げるにはTwitterとかもいいのかなって。僕は岸田さんと今日初めましてなんですけど、Twitterで繋がっていたので他人という感じがしなかったんですよね。
さっき岸田さんが「財布を忘れた」とツイートしているのを見て、「今からお金届けましょうか?」って送ったんです。
岸田: そうそう。そしたら牧野さんの部下の方がいち早くLINE Payで2000円を送ってくれて、お昼ご飯を食べれたっていう(笑)。
会場:笑い
牧野: かなり高度なたすけあいですよね(笑)。
やっぱり身内の範囲、概念を広げるのは、たすけあいを広げる一つの方法なんだなって。めちゃくちゃ素敵な気づきをもらいました。
人をたすけるには自分に余裕が必要
牧野:森下君は、なぜ日本にたすけあい文化が少ないのかを普段の生活で考えることはありますか?
森下:そうですね。 先日ニュースで、除夜の鐘が「近所迷惑になる」というクレームが寄せられて廃止になったというのを見て、社会が不寛容になっているなと感じました。残念ながら、たすけあいが広がりにくい傾向なんじゃないかなと思いますね。
牧野:そうですよね。あたたかくなっているような気もするけど、世間の目が厳しくなっている面がありますよね。
森下:他のニュースを見ていても、なんだか社会が不寛容になっているなってすごく感じています。でもそれって色んな要因が絡まっているんですよね。みんな自分を苦しめているのかなとか、頑張りすぎているんじゃないかなとか。人って自分に余裕がないと誰かをたすけられないから、不寛容さの要因はたすけあいと関わりがありますよね。
牧野:確かに、人をたすけるって自分に余裕がないとできないですよね。
たすけるという行為の裏側には、その人の生活環境とか心の状態とかもめちゃくちゃ関係すると。
森下:そうですね。あとはやっぱり、先ほど櫻本さんがお話していた「たすけあいが、みんなやってるあたりまえになればできるようになる」というのは、本当にそうだなと思います。
僕もちっちゃい頃、友だちの家に遊びに行って、そのまま友だちのお母さんにご飯をご馳走してもらったりしていたんですけど、それってあたりまえの感覚でやってくれていたんですよね。なのでやっぱり周りからたすけあいをあたりまえにしていくことで、少しずつ広がっていけばいいなと思います。
牧野:そうですね。 ありがとうございます。
お手本は気遣い上手なママ友だち
牧野:一入さんは普段の生活でたすけあいについて思うことはありますか?
一入:私には夫一人、子ども一人の家族がいるんですけど、子どもが小学校に入ってから特に、たすけてもらわないと何もできないなと日々感じています。
そんな中で、私がお手本にしているたすけ上手なママ友だちがいるので、ご紹介したいと思います。
彼女は私をたすけてくれるとき「大丈夫?」と言わないんです。先ほど岸田さんがお話していたように、「大丈夫?」って声をかけてもらうと、やっぱり「大丈夫なんとかなる」って言ってしまうんですよね。
お手本のお友だちは、例えば私は仕事なのに学校が休みで子どもを見てくれる人がいないときに、「明日お仕事休みになっちゃったからプラネタリウムに行こうと思うんだけど、息子が〇〇ちゃん(娘)も一緒にいたら楽しいって言ってるから、一緒に行かせてくれない?」とすごく具体的に提案してくれるんですね。そう言っていただけると、素直に「じゃあお願いできる?」ってたすけてもらえる。
出張でお弁当が作れなかったときも「女の子のお弁当、一回作ってみたかったから作らせて」って言うんです。
牧野:へ〜!
一入:すごいなと思って。
牧野: すごいですね、ちょっとレベル高いですね。
一入:そうなんです。それがすごく自然で、しかもお弁当を作ってもらったお礼の連絡をすると、おかげですごく楽しかったとか、 女の子のママになった気持ちになれたとか、「私の方こそありがとう」って返ってくるんです。そのお友だちと接していて、すごいな、自然とそうできるのって大事だなと思っています。
私はなかなかたすける側に回れないんですけど、たすけたいなと思ったときは、ちょっと強引なくらい「もうこういうふうに考えてるから行っていい?」と、具体的に提案するようにしています。
牧野:なるほど。ありがとうございました。
今日は僕が前からファンだった素敵な方々から素敵なお話を聞けて、すごく勉強になったなと思います。ここ数ヶ月、普段から「たすけあいって何だろう?」と考えていたんですけど、僕には思いつかなかったたくさんのヒントをいただきました。
会場のみなさんにも、あたたかい気持ちでたすけあいについて考えていただけたのではないかと思います。
ENJOYたすけあいのプロジェクトはまだ始まったばかり。今回のお話を生かして今後もたくさんのコンテンツを展開し、たすけあいの輪を広げていきたいと思います。