「ドラえも~ん!!!!」

急いで学校から帰宅してきたかと思えば、叫びながら階段で二階に駆け上がり、未来からやってきた青い猫型ロボットに泣きすがる。

これが『ドラえもん』お決まりの冒頭である。

ドラえもんはロボットといっても豊かな感情がある。のび太のめんどうを見続けることに嫌気がさし、途中でその役目をリタイアすることを何度も考えたはずだ。しかし、最終的にドラえもんは使命である「のび太を幸せにすること」を無事に達成することになる。

でもなぜ、ドラえもんはそんなのび太をたすけ続けるのか。

のび太はそのまますぎるんだ

それは、のび太が自分のダメな部分を隠して偽ったりしないからだろう。ドラえもんに泣きついて、たすけを求めて、みっともない姿をあられもなくさらけ出す(ドラえもん以外には強がって見せるが大抵うまくことが運ばない)。

のび太は「そのまま」だ。

私だったら弱くてみっともない部分は隠しておきたい。そりゃ恥ずかしいから。

でものび太のように「そのまま」でいることに、私たちが人に頼ったりたすけを求めたりするためのヒントや、「たすけあい」の本質が隠れているような気がする。

私たちは、もっと「たすけて~!!」と叫んでいいのかもしれない。

例えば職場で責任のある任務を命じられ、プレッシャーを感じて独りよがりになってしまったり、変にプライドが邪魔して強がってしまったり、たすけを求められず後に引けない状態になってしまったりしたとき。だいたい後で他人に迷惑をかけてしまい、自分も傷つき、仕事もうまくいかなくなってしまう。

そんなときは強がらずたすけを求めることができれば、悪い事態は防げたかもしれない。

きっと、自分を大きく見せて勇み足で進むよりも、自身の弱さを認めることの方がずっと難しい。弱さを認めることは強さなんだと思う。

私たちが素直に弱さを認め、たすけを求めながら生きていくのは決して悪いことではない。きっとみんなお互い様の精神があれば、弱さを見せ合って生きていくことが成り立つのだ。

たすけられた人は、たすける人になると思う

ドラえもんがいなければ、のび太はしずかちゃんと結婚することもなく借金まみれの人生を送ることになっていた。

そう、ドラえもんが来て未来は変わった。しずかちゃんと結婚できたのだ。彼の光る素質が磨かれ、開花し、しずかちゃんに影響を与えたのだろうと思う。

『ドラえもん(25)てんとう虫コミックス』(小学館)の「のび太の結婚前夜」で、しずかちゃんがパパに言った

「あたし……、不安なの。うまくやっていけるかしら」

という問いに対し、しずかちゃんのパパはきっぱりとこう答える。

「のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それがいちばん人間にとって大事なことなんだからね」

それを聞き、幸せな将来を確信したしずかちゃんは、次の日の結婚式に臨むのだった。しずかちゃんは、「ドラえもんに出会った後ののび太」という人間に次第に惹かれていった。それはきっと、ドラえもんからたくさん「もらってきた」のび太が、今度はしずかちゃんにたくさん「あげてきた」からじゃないかと思う。

人の優しさが、人の未来を変えていく。そう考えると「たすけあうこと」が社会にもたらす無限の可能性を感じる。

社会の中では、いつもどこかでドラえもんとのび太のような関係が起こっているはずだ。誰かが困っているときは、あなたがドラえもんになってたすけてあげたり。あなたが困っているときは、誰かがドラえもんになってたすけてくれたり。

「たすけられた人」は「たすける人」になりながら、そのサイクルが広がりたくさんの人に伝播していく。その輪は『ドラえもん』の物語のように誰かの未来を、運命を変えていくことになるかもしれない。

『ドラえもん』は、今を生きる私たちの物語

藤子先生は生前、のび太は自画像であると何度も公言している。作者自身を投影したキャラクターだからこそ、私たちの心を動かすのかもしれない。そして、そんな『ドラえもん』は、読者である私たちの物語でもある。

あなたには今までこんな経験がないだろうか。

・友達に悪口を言われ嫌な思いをしたこと
・周りの人と比べてしまい劣等感を感じたこと
・テストの成績が悪くて先生に怒られたこと、それを親に内緒にしたこと
・好きな人に告白できず友達のままになってしまったこと
・好きな人を強引に振り向かせようとして、相手の気持ちを考えてあげられなかったこと
・あやとりや射撃のような得意なことで調子に乗ったこと
・調子に乗りすぎて人から距離を置かれたこと
・大切な人に恩返しできず別れてしまったこと
・そばで一番優しくしてくれた親友に優しくできなかったこと

全てではないにせよ、一つや二つ似たような経験をしたことがないだろうか。上記はのび太のことだが、漫画史上最高傑作とも言える『ドラえもん』の世界の主人公は、私やあなたでもある。

のび太はドラえもんに出会い、弱さをさらけ出すことで成長し「人の幸せを願うことや、人の不幸を悲しむことができる」ようになった。

だから人にたすけられ、たすけてあげることは、のび太のように自分の未来をよりよく変えていく可能性を秘めていると思う。

残念ながら現実の世界にドラえもんはいない。けれど、あなたは誰かのドラえもんになれるし、あなたの前にはいつかきっとドラえもんのような人が現れる。

もしかしたらその瞬間から、あなたとその相手は、より良い未来へ少しだけ近づいているんじゃないだろうか。