みんなが自然と「たすけあい」を楽しめる瞬間を増やすには? でも、そんな社会はピンとこないし、どうしていいのかわからない。私たちこくみん共済 coop は、そんな戸惑いに寄り添い、「たすけあい」をENJOYするための7つのヒントを掲げます。今回は、ヒント7『うまくいかなくても自分を褒めよう』をテーマに、コピーライターの森下さんに文章を書いてもらいました!

とある土曜日の夕方、西陽が差し込む京王線の車内。

70歳くらいの女性が駅のホームからゆっくりと電車に乗ってきたのを見て、座っていた私はとっさに立ち上がり「どうぞ」と声をかけた。

「次で降りるので大丈夫ですよ」

柔らかい口調でそう言った彼女は、入ってきたのとは反対側のドア横にさっと移動した。

「あ…」と、心の中で声を漏らす。

不意を突かれた気がして立ち尽くした私は、座っていた席にもう一度静かに収まった。周りにいた人に見られていてちょっと恥ずかしい、不快に思われたかな、声をかけなきゃよかったかな。と座りながら自問自答する。

さらにその瞬間、自分の気持ちの「在り方」に対しても恥ずかしく思っていた。

気持ちが風船みたくシュッとしぼんでいくようにヘコんでいた私は、相手の気持ちを勝手に想像し喜んでくれるだろうと期待し、「ありがとう」の返事を期待していたのかもしれない。だから断られた瞬間に、予想通りにいかず不意を突かれたような気持ちにもなってしまった。

電車はすぐに終点の新宿に到着し、足早に電車を降りて乗り換え口に向かった。

人の気持ちなんて、その人にしかわからない

多くの人は、自分以外の人との関わりの中で生活をしている。そんな私たちにとって、「相手の気持ちを想像する」ということはとても大切なことだ。

しかし、自分の善意のアクションがもたらした他人の気持ちは100%想像できっこない。

電車で声をかけたことで不快になってしまったかどうか、喜んでくれたかどうかは、態度で明らかでない限りわかり得ない。相手の気持ちは当然コントロールできるものではなく、当然相手に委ねられているのだから。

誰かを「たすけたい」と思い立ち行動した後は、「いい意味で」相手の気持ちなんて考えなくていいのかもしれない。しかも、私が感じたように「ありがとう」と言ってもらえるかもしれないと想像するのは、独りよがりの願望にすぎない。

ここで本当に大切にしなければいけないのは、自分が相手のことを真摯に思い一歩踏み出した瞬間に生まれた勇気だ。そこには確かに讃えられるべき事実がある。

ときにおせっかいだと思われて、相手に嫌な思いをさせてしまうことがあるかもしれないが、それでもいいのだ。誰かを思いパッと芽吹いたかけがえのない勇気はなににも代えがたい。たまには失敗しながらも、そんな気持ちのやりとりを繰り返すことで、きっと人生は豊かなものになっていく。

落ち込む必要はない。ただただ、自身が勇気を出して起こしたアクションを素直に褒めてあげたらいい。誰かのために行動を起こせるというのは素晴らしいことのはずなんだ。

してあげたことは忘れていい
けど、してもらったことは忘れない

電車で席を譲ろうとして断られた後で、ふと親から教えてもらった言葉を思い出した。

ーーー

誰かにしてあげたことは忘れる
誰かにしてもらったことは忘れない

ーーー

善意で自身が誰かに何かをしてあげたとき、見返りやお礼を求めないように。逆に、誰かから何かをしてもらったときには、その恩は忘れないようにして、いつかちゃんと返してあげようということだ。

私はさっきの電車での自分の行いに対して、相手からのポジティブな反応を勝手に期待していたのかもしれない。でも、それはすこしおこがましい。

もし逆の立場だったら、と想像してみる。もし自分が相手側の立場だったら、ちゃんとお礼を言ってあげればいいし、また別の誰かに行動を通して返してあげればいい。誰かからしてもらったことは忘れないように、ちゃんと返していけるよう心がけていきたい。

そんなことが今日もどこかで繰り返し行われている世界を想像したら、ぬくぬく温かい気持ちになった。

自分をちゃんと褒めてあげよう

「日本人は自己肯定感が低い」とどこかで聞いたことがある。本当かどうかはわからないにせよ、どうしても人はポジティブなことよりも、ネガティブなことばかりに目がいってしまったり、思い悩んだりしてしまう傾向にあると思う。

もし、知らない人に声をかけてたすけようとアクションを起せたなら、それは素晴らしいことだ。気軽にできそうなたすけあいほど、いざとなると行動に移せなかったりするのだから。

それに、そもそも失敗することは当たり前。失敗した自分も丸ごと受け止めてあげればいい。だから、「たすけあい」のアクションを起こしてうまくいかなかったとしても、ちゃんと自分を褒めてあげてほしい。気軽に楽しめる「たすけあい」こそ、もっともっと気軽に自分のことを肯定してあげればいい。

エライぞ、とっさに「どうぞ」と言えたあのときの自分、と。

「たすけあい」をエンジョイしながら、「たすけあいの輪」を大きく広げていくヒントは、そんな気軽で大げさなほどポジティブな気持ちなのかもしれない。