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今月の「生きるヒント」

今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう 今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう

その人の価値観をはかるモノサシにされることも多い“お金”。人生に、深くかかわりがある割に、真正面から語られることが少ないのも“お金”です。
誰かのお金観の背景にある経験やエピソードは、いつか自分のそれと重なるかもしれないし、現在の向き合い方を考え直すきっかけになるかもしれません。専門家による経済の話でなく、人それぞれの、お金にまつわるストーリーをお届けします。

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人生設計はない。将来を考えるより、いまが大事人生設計はない。
将来を考えるより、
いまが大事

久松 達央さん

ひさまつ・たつおう

株式会社久松農園 代表取締役

1970年茨城県生まれ。28歳のとき周囲の反対をよそに帝人(株)を辞めて農家に転じる。綱渡りの時期もあったが、持ち前の論理的思考とITを駆使した新しい経営スタイル、それを著した著書が話題となり全国に知られるように。年間50品目以上の有機野菜を栽培し、個人や飲食店に直接販売。補助金に頼らない小規模独立型の農家の育成にも力を入れる。
茨城県土浦市で妻と小学生の娘二人と四人暮らし。趣味は音楽鑑賞で、R&Bが好き。著書に「キレイゴトぬきの農業論」 (新潮新書)、「小さくて強い農業をつくる」(晶文社)。

久松農園 公式サイト

計画なんてしてたら動けなかった

25歳で結婚したときは大企業の社員で、僕自身、農家になろうとは思ってもみませんでした。退職する旨を伝えたのは、会社には辞める半年前、妻にはその後のタイミングです。「あなたにはついて行けない」と言われ面食らいました。彼女にはそれまで“説明”のみで、“相談”していなかったんですね。明確に反対の意思を示されて初めて、「ダメだったのか?」と。両方の親にも反対されましたよ。でもそっちは意に介してなかったの(笑)。「この人に止められたらできないかもしれない大切な人」から反対される経験は、このときが人生初でした。

本を出して、講演などで経営論を語る機会も増えたので、先を見て戦略的に動く人間だと思われがちですが、予算を含めて計画性なんてなかったですよ。計画なんてしてたら動けなかったですよね。ただ決めただけ、思い切っただけです。お金の管理ですか?サラリーマン時代は、残高がマイナスにさえならなければいいと思ってました。収支の洗い出しをしたのも会社を辞める半年前です。独立して1年目というのは、稼げないのに前年度の収入ベースで税金や保険料が計算されて大変だからです。毎晩500ml缶のビールを3本も空けていてはダメだな、なんて具合に。

トラクターを盗まれて、初めての借金

現在は6名のスタッフ、研修生とともにチーム農業を営む。畑にテーブルを出して採れたての野菜料理を味わってもらう、プロのシェフとのコラボイベントなどを開催することも。

古巣では、僕が辞めると知った同期の「もったいない」の反応に、ややショックを受けました。だって、もったいないってことは、すでになにか持ってるということでしょ?同じ28歳で僕は、自分はまだ始まってもないと思ってたんですよ。他人と同じはイヤ、エコを実践したい、農業を変えてやろう…だなんて、知らないことに向かっていった。後悔はないけど、そんな青き素人が、「借金はしない」と決めてしまっていたのは失敗でした。無借金経営というと聞こえはいいですが、引き換えに時間を無駄にしてしまった。いまは借りてますよ。借りるという資金調達の選択肢を持つことで得られるメリットに気づいたんです。

2011年末、折り合いがいいとはいえない親に頭を下げて、初めてお金を借りました。そのときは「黙って貸してくれ」とだけ言ったんですけどね、実はトラクターを盗まれたんです。中古で100万円ほどのトラクターでした。ちょうど引っ越して、自宅や出荷場を建てたばかりのすっからかんのタイミングに、春先でトラクターがないと仕事にならない時期とが重なって。警察いわくプロによる犯行で出てきようもなく、保険をかけてなかったもので、丸々失いました。農家になるとき真っ向反対した親への意地もありましたけど、急を要したし、スタッフも抱えてるし、そんなことも言ってられません。お願いしたら黙って貸してくれました。

つぎ込む先は、農業一本

個人としての僕は、これといって欲しいものがないんです。かつて残高だけ見て無頓着に使っていたのも、だからなんだと思いますよ。車や時計が好きだとか、年に一度は海外で過ごしたいとか、まとまって必要なら貯めますよね。独立して以降は、農業一本に投資しまくってる状態です。すきあらば事業につぎ込んでいて、いまの僕にはお金って完全に道具。サラリーマンにとっての給与と違い、従業員に使うか、設備投資に回すか、マネジメントの道具です。

農家なんてやめときゃ良かったと思ったことは何百回とありますけどね、20年経ってもなお、面白いですね。いい道、飽きない道を選びました。農業は生き物相手。生き物の育つ過程は短縮できないし、その過程に人が張りついてなくてはいけない。でもね、やりがいあるんですよ。食べるものをつくっているから尊いとかいう以上に、命を賭けるに値する、深い仕事だと感じています。

思えばサラリーマンを続けるのはどの道無理でした。ただ、いま10人くらいで農園をやっていてすごく感じるのが、チームづくりの面白さです。自分が畑をできるようになったのより、スタッフができるようになるのを見ているほうが楽しい。20代のころ人と一緒に仕事することから逃げた分、いま向き合ってるんだと思っています。

お金より、家族に見放されたらつらい

僕は合理主義者ですけど、最近、就農を希望する人たちと接していて感じるのは、お利口さんが多いというか。計画をきっちり立てて…って、理屈はわかりますよ。でもね、やる前からできるかできないかの話をしてるようじゃダメですね。完璧な理屈なんて武器にもならない。計算のないほうが強いに決まってるんです。縛られない分突破力がある。理屈を用意して、周囲に認められて船出したい、祝福されたいっていうのは結局甘いんですよ。

いまはトラクターに保険かけてます(笑)。でも、個人としての僕は備える生き方はしてませんね。1年後よりいまが大事。いまやるのが得意です。人生設計のビジョンはない!ことさら老後のために貯えようとも考えない。“いまを生きる”人はみんなそうなんじゃないですか?

だけどお金って、人の感覚を狂わせますよね。狂わせるものは、ほら異性とか、ほかにもあるけど、その中で最も持続性があって、キリもなく求めてしまうのがお金じゃないですかね。より多くの人の羨望の対象になりたいという人間の願望の表れでしょうか。幸い僕はその点には執着がない。妻には認められたいし、褒められたらすごくうれしいんですけど、厳しいことしか言われません。子どもには、親として立派そうなことを言おうとすると見透かされるし、家庭ではドライな評価を受けてます(笑)。お金より、家族に見放されたらつらいな。

お金にまつわる10のQ&A お金にまつわる10のQ&A

久松達央さん
  1. Q1.
    お金のことには詳しいほうだ。
  2. Q2.
    「趣味は貯金」に共感する。
  3. Q3.
    「趣味は投資」に共感する。
  4. Q4.
    先のことはわからないからこそ「使う」。
  5. Q5.
    どんぶり勘定の人よりお金に細かい人のほうが信用できる。
  6. Q6.
    100万円と10億円、もらえるなら10億円。
  7. Q7.
    お金の稼ぎ方と使い方、こだわるなら稼ぎ方。
  8. Q8.
    「金は天下の回りもの」に賛同する。
  9. Q9.
    アリとキリギリスならアリタイプ。
  10. Q10.
    お金にまつわる経験から得た教訓や信条をお聞かせください。

    お金は、一義的な目的にするのは危険だけど、絶対に必要なもの。お金にしか関心がない人は尊敬しませんが、お金にまったく関心を払わない人は、もっと尊敬できませんね。ひとりで成り立ってるわけでもないのに、お金を生み出したり回したりに興味がないような態度はないと思いますよ。
    僕は農園の売り上げも、面積あたりいくら稼げるかも、オープンにしています。これから始める人には、特に知りたい数字だから。財産というのはお金だけを指さない。いろんな人から返しきれない恩を受けてきた分、なにかしらの形で次の人に渡していきたいですよね。

編集後記

編集後記

久松さんは巷で、「日本一話のうまい農家」とあだ名されているようです。ついていくのがやっとなほど頭の回転が早く、舌鋒鋭い久松さんですが、ユーモア満点だし、奥さまには弱いし(尊敬しているのだそうです)、ときどきお茶目にすら感じられる方です。農業に限らずなにかを始めようとするとき、「応援するよ!」という人のほかに、久松さんみたいに論理的にビシッと言ってくれる人がいるとありがたいですね。お聞きするに、アリとキリギリスのキリギリス代表のようでもありますが、何度でも越冬できそうなキリギリスさんです。