• ご加入の皆さま
  • マイページ
  • 共済金のご請求

今月の「生きるヒント」

今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう 今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう

その人の価値観をはかるモノサシにされることも多い“お金”。人生に、深くかかわりがある割に、真正面から語られることが少ないのも“お金”です。
誰かのお金観の背景にある経験やエピソードは、いつか自分のそれと重なるかもしれないし、現在の向き合い方を考え直すきっかけになるかもしれません。専門家による経済の話でなく、人それぞれの、お金にまつわるストーリーをお届けします。

4

介護はお金?
体験で得た答えは、
「介護は人」

谷口 朝子さん

たにぐち・あさこ

兼業主婦

1964年神奈川県生まれ。大手レコード会社にて洋楽部宣伝課勤務ののち、飲食業界に転職し、店舗の開発、広報、人材育成などを経験。その後、母親の認知症をきっかけに関心を持った介護業界に。介護福祉サービス会社の企画課に所属して、介護サービスにおけるさまざまな企画を手がける。2012年に結婚。現在は主婦のかたわら、従来とは一線を画す高齢者向け運動プログラムの開発と、そのインストラクター育成にフリーランスとして従事する。
ボート部出身の夫との、カヌー遊びが最近の趣味。都内で夫婦二人暮らし。

母親の認知症をきっかけに転職

両親がそうだったからでしょうか、もともとお金をポンポン使ってしまうタイプです。私の場合は特に交際費。夫とは似た者同士のため、そこは結婚後も変わってません。みんなで楽しい時間を共有したり、人を喜ばせたりが根っから好きで、交際費の多い家庭です。反面、将来の計画を立てるのは夫婦そろって苦手。最低限考えるべきことは考えねばと、最近保険について話したのですけどね、夫は逃げ腰でした(笑)。

会社員時代には頓着なく使っていたお金のやりくりを考えるようになったのは、母が認知症と診断されたときでした。16歳のとき父を亡くしたひとりっ子の私は、母の出身地の横須賀に、長く母ひとり子ひとりで暮らしていました。東京まで通勤しながら母を看るのは無理だと判断して会社を辞め、フリーランスに転じて飲食業界で店舗開発などに関わりながら、介護ヘルパー講座に通うことにしました。やがてくる母の介護のために、知識をつけておこうと考えたのです。

生活を支えた、仕事と賃貸収入

学ぶために通ったヘルパー講座を主催する、介護福祉サービスを提供する会社が声をかけてくれたことで社員となり、公私ともに介護に携わることになりました。まったくの異業種ではあるものの、企画担当として、想像以上にそれまでのキャリアを活かすことができました。のちに開発に携わる高齢者のための運動プログラムは、前職の飲食業界、前々職の音楽業界で出会った、運動、発声、BGM、デザイン、著作権などの、たくさんのプロに力を貸してもらえたからできたものです。

母親が認知症とわかったときのショックは、おそらく人が思うほどではありません。かつて同居していた祖母の、近い症状を目の当たりにしていたのと、元来病弱な母をいずれ看るようになるであろう覚悟が、どこかにあったからでしょうね。アルツハイマー型認知症という医師の診断は、意外と冷静に受け入れました。経済面では、余裕こそありませんでしたが、生活を脅かされるほどの不安もありませんでした。母は要介護度が高かったため、デイサービスやショートステイなどをフルで利用できました。転職による収入減があったとはいえ、仕事を辞めずに介護と両立できたのは、恵まれていたと思います。また、不動産関係の仕事をしていた叔父のアドバイスで、地元横須賀に母が所有していた小さな土地に共同住宅を建て、母と私は上の階に住んで階下を賃貸にしたんです。この収入はやがて、母との生活の大きな支えとなりました。

「助けて」と言えることの大切さ

介護の苦労は、もちろんありました。徘徊防止のため内側からもキーを使ってしていた家のロックを、うっかりし忘れてしまった翌朝、起きると母の姿がなく、血の気が引いたときのことは忘れられません。パジャマのまま、ハンドバッグを持って、サイズの大きな私のパンプスを履いて。そのときは馴染みのない駅のそばの交番で保護されました。また、一時的に入所した老人ホームで、虐待が疑われるトラブルの被害者になったこともあります。やりきれない事件でした。加入していた保険のオプションで弁護士費用がカバーされ、専門家に相談できたのがせめてもの救い…。

振り返って実感するのは、「介護は人」だということ。思い切ってお金を払った老人ホームでつらい経験をすることになった反面、約7年勤務した介護福祉サービスの会社の理解で、柔軟な働き方をさせてもらえたり、素晴らしい理念のデイサービス主宰者に出会い、安心して母をお任せできたり、感謝しきれない人たちのお顔が浮かびます。寝不足やストレスにさいなまれた日々、現在の夫が協力的であったことにも、本当に救われました。現実問題、介護生活にお金は必要です。でも、お金で環境を整えたとしても、その先は、家族や地域、専門家を含め、人の力が必要な領域。「助けて」と言えることはお金と同じくらい大切です。私は性格的に言えるタイプだったのが幸いしましたが、そうでなければ、自分自身を保ちながら介護を続けられた自信はとてもありません。「迷惑をかけてはいけない」と抱え続ければ誰だってつぶれてしまいます。「助けて」と言い合える社会がいいじゃないですか。

介護には、喜びもあった

谷口さんがさまざまな人の協力を得て完成させた、高齢者向け運動プログラム「大声ツアーズ」。声を出すことを中心にした無理のない運動で、心身の元気を引き出してゆく。

いよいよ自宅で生活できなくなった母の入院を機に、結婚して東京に越しました。お世話になった会社は辞めることになりましたが、業界にはフリーランスの立場で身を置き続けると決めました。要介護の当事者や家族の喜びに接した経験はあまりに大きなもので、ほかの仕事に気持ちが向かなくなったのです。一般に持たれるイメージのように、暗く大変なばかりでは決してなく、喜びも大きな仕事なんです。

母は2014年に他界しました。もう少し自由になるお金があったら、介助してくれる方を同行して、旅行に連れて行ってあげたかったなぁ。一緒に行ったオーストラリア旅行をいつまでも覚えていて、うれしそうに周囲に話してたんです。いえ、足りなかったのはお金よりも、限られたお金を活かす力だったのかもしれませんね…。それでも私には、母とのあたたかな記憶も、深く刻まれています。介護を通して母に触れ、体温のぬくもりを伝え合った。共に暮らす親子といえど、健康であったなら、持ちえなかった時間です。

認知症の人にも、意思や個性があります。だからそれらをないがしろにされるのも、腫れもののように見なされるのも悲しい。誤解されていることがいかに多いか知り、私自身もくやしい思いをしました。業界としても、労働環境、賃金をはじめ、課題が多いのは確か。だからといって、社会の中で暗いところに閉じ込めておくべきではないですよね。介護は、アイデアと行動力でもあります。大金を手にしたいと考えたことはありませんでしたが、いまあれば、介護を少しでもポジティブな方向に後押しできるビジネスに使いたいです。

お金にまつわる10のQ&A お金にまつわる10のQ&A

谷口朝子さん
  1. Q1.
    お金のことには詳しいほうだ。
  2. Q2.
    「趣味は貯金」に共感する。
  3. Q3.
    「趣味は投資」に共感する。
  4. Q4.
    先のことはわからないからこそ「使う」。
  5. Q5.
    どんぶり勘定の人よりお金に細かい人のほうが信用できる。
  6. Q6.
    100万円と10億円、もらえるなら10億円。
  7. Q7.
    お金の稼ぎ方と使い方、こだわるなら稼ぎ方。
  8. Q8.
    「金は天下の回りもの」に賛同する。
  9. Q9.
    アリとキリギリスならアリタイプ。
  10. Q10.
    お金にまつわる経験から得た教訓や信条をお聞かせください。

    人生で2度、まとまった金額の借金の申し込みをされたことがあります。どちらも社会的に活躍する知人からでした。どうしてか軽い調子で頼まれて、ものすごい違和感と不信感を抱きました。申し出の事実よりショックだったかもしれません。お断りし、関係もそれきりになりました。
    お金への向き合い方にはその人が出ると思います。同時に、お金に対する感覚は、どれだけ持っているかだけでは測れません。日雇いでその日暮らしの人から、年に億と稼ぐ人まで、幅広い経済状態の友人と仲良くしていますが、どちらであっても、素敵な人は素敵なもの。それから、これも額の問題ではなく、ケチは嫌だなぁ(笑)。

編集後記

編集後記

「介護」「認知症」と聞くとそれだけで忌避したくなるのは、いつ自分ごとになるかわからないという恐れからでしょうか。メディアで取り上げられるのはとかく暗い話ばかりな気がしますし、高齢化社会をますます不安にさせ、現実逃避したくなります。谷口さんのお話は、そんな私たちが具体的に心構えをするうえで、希望になりうるように思います。お金はないと困るけど、お金だけあればいいというものではない。「介護は人」。改めて教えてもらいました。

『今も大事、将来も大事。“お金”を語ろう』第5回は、
「タルマーリー」オーナーシェフの渡邉格さんのストーリーをお届けします。
8月15日公開予定です。お楽しみに!