わたしにとっての最高の楽しみは、みなさんからの作品を読むことです。何度も繰り返して。一方、最大の苦しみは、その中から幾つかの作品を選ぶことです。今回もまた大いなる楽しみと、それに続く苦しみを、何度も体験しました。 まずはお願いです。この総評に関して難しい言葉や言いまわしがある場合は、先生や保護者のかたがたにきいてください。小学校1年生から6年生まで。誰もがわかる文章を書くことはかなり困難なので、お許しを。* 新しい年を迎えたその第1日目の16時過ぎ、能登半島を中心に震度7の大きな地震が襲いました。あなたはどこで何をしていましたか? この総評を書いている2月半ばの今も大勢の人たちが、「復旧」には遠い日々の中で苦しんでおられます。一体、わたしたちひとりひとりは何ができるのだろう、と胃がねじれるような感触の中で考えています。 2011年3月11日の東日本大震災。福島第一原発の過酷事故。阪神淡路大震災を考えても、わたしたちの暮らしには、明日という保証はないのかもしれません。だからこそ、わたしたちは今日という日を、今という瞬間を丁寧に迎え、ひたむきに生きて、そして見送りたいと心から考えます。深く、確かに、誠実に。明るく楽しく、けれど時々は、「ふーっ」とため息をもらしながら。 今回の自由課題の作品の中にも触れた作品がありましたが、幸福とはどんな状態をいうのでしょう。平和とは? 生命いのちとは? 人生において最も大事なもの、かけがえのないひととは? この社会の明日を創っていくのは、そう、あなたたちひとりひとりなのです。ちょっと想像してください。社会が平和でなければ、誰も作文を書きあげる余裕はないでしょう。社会が穏やかでなければ、誰かの作文や絵画や版画を味わうこともできません。そのことをもう1度深く心に刻みましょう。* 小学校1年生から6年生まで、それぞれの違い(年齢だけではなく)をかけがえのないものとしながら、あなたはあなたを生きています。これ以上に大事なことはありません。 ウクライナやガザ地区に暮らす人々のように、ひとたび戦争が起きれば、ひとりひとりの違いも個性もすべて消され、「自分自身」であることさえ奪われてしまいます。そのことも心に刻んでください。 この作品コンクールはスタートして、今年で第50回目にあたります。想像してください。1回目の時に、小学校1年生だったひとはいま、50代の半ばを過ぎているはずです。今まで、どんな人生を重ねてこられたのでしょう。そして50年後、ほかでもないあなた自身はどんな人生を重ねているのでしょうか。 それぞれの作品が持つ豊かな「違い」を大事に、自由にこれからも書き続けてください。 「自由課題」というのは、案外難しいものではなかったですか? そうです、「自由」はいろいろな意味で、難しいものです。だからこそかけがえのないものだとも言えます。 受賞したかたも、残念ながら逃したかたも、これからも「書くこと」を、どうか日々の大事な柱にしてください。書くこと、表現することを通して、わたしたちはさらに考え、考えたことをもっと深め、ぶつかり、はね返されたりしながらも、閉じられたドアを開き、誰かとつながる深呼吸の時を迎えるはずです。いつかまた、どこかで「あなた」の作品に出会えることを!
今から、ここから、あなたから
作家・子どもの本の専門店クレヨンハウス主宰
落合 恵子
わたしにとっての最高の楽しみは、みなさんからの作品を読むことです。何度も繰り返して。一方、最大の苦しみは、その中から幾つかの作品を選ぶことです。今回もまた大いなる楽しみと、それに続く苦しみを、何度も体験しました。
まずはお願いです。この総評に関して難しい言葉や言いまわしがある場合は、先生や保護者のかたがたにきいてください。小学校1年生から6年生まで。誰もがわかる文章を書くことはかなり困難なので、お許しを。
*
新しい年を迎えたその第1日目の16時過ぎ、能登半島を中心に震度7の大きな地震が襲いました。あなたはどこで何をしていましたか?
この総評を書いている2月半ばの今も大勢の人たちが、「復旧」には遠い日々の中で苦しんでおられます。一体、わたしたちひとりひとりは何ができるのだろう、と胃がねじれるような感触の中で考えています。
2011年3月11日の東日本大震災。福島第一原発の過酷事故。阪神淡路大震災を考えても、わたしたちの暮らしには、明日という保証はないのかもしれません。だからこそ、わたしたちは今日という日を、今という瞬間を丁寧に迎え、ひたむきに生きて、そして見送りたいと心から考えます。深く、確かに、誠実に。明るく楽しく、けれど時々は、「ふーっ」とため息をもらしながら。
今回の自由課題の作品の中にも触れた作品がありましたが、幸福とはどんな状態をいうのでしょう。平和とは? 生命とは? 人生において最も大事なもの、かけがえのないひととは?
この社会の明日を創っていくのは、そう、あなたたちひとりひとりなのです。ちょっと想像してください。社会が平和でなければ、誰も作文を書きあげる余裕はないでしょう。社会が穏やかでなければ、誰かの作文や絵画や版画を味わうこともできません。そのことをもう1度深く心に刻みましょう。
*
小学校1年生から6年生まで、それぞれの違い(年齢だけではなく)をかけがえのないものとしながら、あなたはあなたを生きています。これ以上に大事なことはありません。
ウクライナやガザ地区に暮らす人々のように、ひとたび戦争が起きれば、ひとりひとりの違いも個性もすべて消され、「自分自身」であることさえ奪われてしまいます。そのことも心に刻んでください。
この作品コンクールはスタートして、今年で第50回目にあたります。想像してください。1回目の時に、小学校1年生だったひとはいま、50代の半ばを過ぎているはずです。今まで、どんな人生を重ねてこられたのでしょう。そして50年後、ほかでもないあなた自身はどんな人生を重ねているのでしょうか。
それぞれの作品が持つ豊かな「違い」を大事に、自由にこれからも書き続けてください。
「自由課題」というのは、案外難しいものではなかったですか? そうです、「自由」はいろいろな意味で、難しいものです。だからこそかけがえのないものだとも言えます。
受賞したかたも、残念ながら逃したかたも、これからも「書くこと」を、どうか日々の大事な柱にしてください。書くこと、表現することを通して、わたしたちはさらに考え、考えたことをもっと深め、ぶつかり、はね返されたりしながらも、閉じられたドアを開き、誰かとつながる深呼吸の時を迎えるはずです。いつかまた、どこかで「あなた」の作品に出会えることを!