「この差し出した手を、握ってくれるようになったのはいつ頃かなぁ……」

小学1年生になった息子と歩いているとき、ふとそんなことを考えました。

子育てをしていると、幸せを感じる瞬間ってありますよね。
子どもが「おいしい!」と言ってご飯をおかわりしてくれたとき、変なツボに入って爆笑する子どもを見たとき、一日中遊び尽くした日の夜に熟睡する子どもの寝顔を見たとき。なかでも、僕が究極の幸せを感じる瞬間があります。

それは、一緒に歩いているとき、何も言わずにそっと差し出した僕の手を、息子がギュッと握ってくれる瞬間です。

子どもの成長において、大きなターニングポイントとなる“歩く”という行動。歩けるようになったばかりの子どもは、両手で必死にバランスを取り、泥酔したサラリーマンさながらのフラフラした足取りで僕たちを楽しませてくれます。
そこからもう少し成長し、歩く楽しさを知った子どもは、親の制止を耳にも入れず、自分の定めた目標地に向かって突如駆け出します。
そんなハラハラ時代を乗り越え、また少し成長した先に『手をつないで歩く』という、平和で幸せな世界が待ち受けているのです。

少し前までは、急に駆け出さないように一方的に掴んでいた手。
“放せ放せ”と振りほどかれていた手。

それが今では、何も言わずにそっと手を差し出すだけで、何も言わずにギュッと握ってくれるようになりました。

「この差し出した手を、握ってくれるようになったのはいつ頃かなぁ……」

息子がまだ小さかった頃、育児に疲弊していた僕は「この子さえいなかったら……」と考えたことがあります。夜泣きし続ける息子を2時間かけてなんとか寝かしつけたある夜のこと。

真っ暗な寝室でそっと開いたSNSには、まだ子どももいなければ結婚もしていない友人たちの写真が、キラキラと輝いていました。ビールジョッキを片手に肩を組み、満面の笑顔。それはそれは楽しそうに写る友人を見て、なんとも言えない孤独感に苛まれました。

「この子が生まれてから、遊びにも飲み会にも誘われなくなったな……」
「この子がいなかったら、もっと幸せな毎日が送れていたんだろう……」

そう思いました。一度きりではありません。数え切れないほど、何度も何度も思いました。今になって振り返ってみると、よく耐えきったなと思うような精神状態の日もありました。

しかし、そんな思いも息子の成長とともに徐々に薄れていき、その薄まった部分には“幸せ”という感情が少しずつ染み込んできました。

先日、差し出した手を息子がギュッと握ってくれた瞬間、いつものように究極の幸せを感じるとともに、「この子さえいなかったら……」と考えていた頃を、ふと思い出しました。そして、「本当にこの子がいなかったらどうなっていたのだろう……」と考えました。

育児に疲れきっていた当時の僕は、友人たちのキラキラした日常に嫉妬し、「この子さえいなかったらもっと楽しい毎日が送れていたに違いない」と思っていました。

今になって冷静に考えてみると、“子どもがいなけりゃ楽しい毎日を送れていた”という保証などどこにもないのに、当時の僕はなんて楽観的な考えをしていたのだろうか……。
もしも本当に息子がいなかったら、全く違う人生を歩んでいたことに違いはないです。
しかしそれが、楽しい毎日になっていたかどうかは、誰にも分かりません。逆に、もっと辛い毎日を過ごしていた可能性だってあります。

そう考えたとき、息子とこうして歩いていられること、家族で笑い合っていられること、そして僕が今、毎日楽しく生きていられること。それは、息子がいてくれたおかげなんだと気付きました。

「この子さえいなかったら……」と考えてしまったことさえある息子に、知らない間にたすけられていたのかもしれない……と。

そんなことを思いながら、僕の右手をギュッと握る息子の左手に何気なく目を向けると、あの頃は小さくプニプニしていた息子の手が、とても大きく、そして力強く成長していることに気付きました。

まだ味噌汁が熱かっただけで泣きそうになる息子。
まだ前後ろ逆でパジャマを着てしまうことがある息子。
まだ隣で一緒に寝てあげないと眠れない息子。

そんな、まだまだたすけてあげなきゃいけないことばかりの息子。
そう思っていました。でも違うんだね。

もう味噌汁が熱いだけでは涙をこぼさなくなった息子。
もう1人で服を着られるようになった息子。
もう抱っこしなくても眠れるようになった息子。

大きくなっているんだね。1人で色々なことができるようになったんだね。たすけてばかりいるように感じる子育てだけど、僕たち親に求めるたすけは、少しずつ減っているんだね。

それなのに僕たち親は、君たち子どもにいつもたすけられてばかりだよ。仕事も家事も、子どもたちがいてくれるから頑張れる。辛いことがあっても、子どもたちの笑顔にたすけられて頑張れている。君たち子どもは、僕たち親をたすけてくれる、大きな大きなヒーローなんだね。

まだまだたくさんたすけてあげたいから、ゆっくりゆっくり大きくなってね。
そんなことを思いながら、息子の左手をいつもよりも強く、ギュッと握りました。


「この差し出した手を、握ってくれなくなるのはいつ頃かなぁ……」

僕は今、SNSで子育て情報を発信しています。
夜中に見たSNSで孤独感に苛まれたあの頃の僕のようなパパやママを減らせるよう、クスッと笑える発信を続けています。

もしかしたら、僕の発信を見ているパパやママの中にも、あの頃の僕のようにボロボロになりかけている人がいるかもしれません。
近くにたすけを求められる人がいれば、気持ちに余裕を持てるかもしれません。
でも、核家族化が進んだ今の日本では、たすけを求められる人が近くにいないパパやママも数多くいると思います。昔は地域のみんなで子どもを育てる雰囲気がありましたが、そんな風潮も薄れています。

しかし、SNSに動画を投稿したり、子育てに関するブログを投稿したりすると、たくさんの反応が返ってきます。昔と形は変わったかもしれませんが、子育て中のパパやママが励まし合い、アドバイスをし合い、苦労や喜びを共感することで、たすけあっていけると感じています。

僕自身、全国から寄せられるたくさんの温かいメッセージに支えられて、子育て情報の発信を続けることができています。想いを伝え合うことの大切さを教えてくれた全国のパパやママに、心の底から感謝しています。

子育てはすごく大変で、挫けそうになる瞬間が何度もあるよね。
でも必ず、そのすべてが報われる日がやってきます。
長く険しい毎日も、「あっという間だった」と思える日がやってきます。
もう少し、あともう少しだけ、一緒に頑張ろう。

離れていても、たすけあえる。
さあ、手を握ろう。

(イラスト:シムシム 編集:はつこ)