視覚障がい者と仲間の集まり『いどばた』。みんなで会場代とお菓子代だけを持ち寄って
障がいについて情報交換をする活動を
15年続けています。

主宰者である木野ゆずきさんは、
埼玉県の福祉教育推進委員会などにも関わり、
地域で精力的に活動しています。
そんな彼女は、自身も幼いころから難病で目が悪く、
65歳になる現在ではほぼ目が見えません。

なぜ、こんなにもパワフルに多くの人を導けるのか。
その秘訣とたすけあいのヒントを聞くと、
「たすけあいは『お互いさま』」だと語る木野さん。
障がいに限らず、生きづらさを抱えるすべての人のことを考え、
活動し続ける彼女の視野の広さに、引きこまれてしまいました。
インタビュアーは、大学生のときに「いどばた」で
木野さんと出会ったライターのくりたまきです。

情報を知ることで、世界は変わる。

くりた
大学生のとき、それまで視覚障がいがある人とふれあったことのなかったわたしは、明るくパワフルな木野さんに出会って圧倒されたのを覚えています。視覚障がいを持つ人と仲間が集い6人ではじめた木野さん主宰の『いどばた』は、今やメンバーは目が見える晴眼者を含めて130人以上。どうしてこうした集まりをつくられたんですか?

木野
もともとは、社会福祉協議会主催の、視覚障がい者のためのガイドヘルプ講習会がきっかけだったの。そういう講習会があると知って「なんだそりゃ」と思ってね。わたしはそのころまだ目が見えてたけど、病気でどんどん自分の目が見えなくなっていくのは幼いころから分かっていた。だから見えない人はどんなサポートを受けるのか気になって、ヘルプする側の講習会に参加したの。

くりた
その行動力、すごいです。でもそうですよね、知りたいですよね。

木野
それをきっかけに、同じ地域に住む視覚障がいのある仲間たちと、集まりをはじめたんです。わたしは情報を学んで共有するために、ガイドヘルプの講習会だけではなく、知りたいことがあると都内にいっぱい出かけてたの。

くりた
埼玉から、都内まで。木野さんが住んでいる毛呂山から出かけるのは、結構距離がありますよね。

木野
行きたいから勝手に行くのよ。
活動していろんな視覚障がいのある人と知り合ううちに、情報の重要性を感じたの。情報が一番大事なのね。わたしが住む地域の人たちは、なんの情報も持っていなかった。例えば眩しければ遮光眼鏡をかければいいとか、視覚障がいがあってもパソコンが使えるとか。わたしは自分と同じ見えない人たちに、この情報を届けなくちゃって思った。

くりた
わたしも木野さんに会うまで、視覚障がいがある人たちがバリバリにパソコンを使えるなんて知らなかったです。

木野
少しでも情報が得られれば、やっぱり自分の生活に役立つじゃないですか。時計一個とっても、わたしたちは時計を見れないけど、ボタンを押せば時間を教えてくれる音声時計がある。携帯だって画面が見えなくても音声携帯なら使えるしね。そういう情報をどんどん発信していったのが『いどばた』です。
ほかにも、みんなで音楽会を鑑賞しに行ったり、音声ガイドのついた映画を観に行ったりしてるのよ。だからね、なんて言うのかな、自分が必要だと思ったから動いただけの話、なんてことないの。

たかが「お互いさま」だから。

くりた
そうした活動をする木野さんの原動力はどういったものなのでしょう?

木野
やっぱり自分が育った環境にあるんじゃないかしら。東北の山奥で育ったわたしのルーツは「お互いさま」なの。人間生きてるあいだにあることは、なんでもお互いさま。田舎だと「今日留守にしてるからうちの子ども見といて」とか「醤油切らしちゃったから貸して」といった、頼りあう関係が当たり前だったの。小さいころからお互いさまの文化、価値観の中で生きてきたから、周りの人のいろんな動きが気になってしまうのよ。

くりた
短い時間の中だけで考えたら「やってあげた」という一方通行かもしれない。けれど、もっとずっと長い時間の中でものごとを考えてるから「お互いさま」と思えるんですね。

木野
うんうん。あとね、すこしでも相手からなにかやってもらったら、自分もその人になにか返さなきゃいけないってわけじゃないんだよ。べつの人に返す、それもやっぱりたすけあい。

くりた
考える視野が広いですね。

木野
べつにね、簡単なことなのよ。もしちょっとでも困っている人がいて、なにか自分にできることがあったら、できることがあったらだよ、「ちょっと声かけてみようかな」って思う。ボランティアしてみようなんて立派な気持ちは、さらさらないからね。「ちょっと声をかけてみようかな。これがわかったら相手もすこし楽になるかな」そんな感じでね、全然な~んにも難しいことは考えてないの。適当なの。

くりた
ふふふふふ(笑)。「なにかすごいことをしよう」ではなくて、「お互いさまの中で、できることがあれば」というくらいの、軽やかな関わり方。

木野
そうね。あとはやっぱり自分がしたことで、相手がよろこんでくれる、それが一番うれしいよね。

くりた
でも、「誰かが喜んでくれるとうれしい」とか「お互いさま」という気持ちを持っていても、木野さんのように動ける人はなかなかいないように思います。
コミュニティを作って15年運営し続けたり、並行して他にも色んな活動をしたりするのは、難しいのではと思ってしまいます。

木野
そんなことないわよ、みんなやってるのよ。ただね、頑張りすぎたらだめなのよ。例えばこれが企業としての活動だったら、ちゃんと頑張らなきゃいけない。だけどさ、たかがさ、暮らしの中の「お互いさま」の話じゃない。頑張る必要なんて、ないわけさ。たしかに細かい仕事はいっぱいあるよ。あちこちに交渉したり、あれしたりこれしたりはいっぱいあるけど、それは頑張るんじゃなくて、自分がやりたいことのために必要だからやる。それが苦にならないからやるってだけ。

「頑張ってるね」を真に受けない。

くりた
「お互いさま」の考えでたすけあう。それでいて頑張らない、というのはとても大事なポイントだなと感じました。

木野
わたし、一番言われて嫌いな言葉がね、「一生懸命頑張って、偉いね」なの。世の中には、ちょっとでも行動した人を見ると「偉いね」って言う人がいるけど、そうじゃない。それを真に受けて、自分が「頑張っている」と思うようになったら……もう、それまでのように動けないからね。だから、まず自分が好きでやってることが大事。その好きが、「お互いさま」って価値観に突き動かされちゃってるわけさ。

くりた
言葉の切れ味が鋭い。たしかに、他人からの賞賛に影響されてしまうと、好きでやっている原点を見失ってしまうこともあると思います。

木野
自分の意識では、人のためにやってあげたなんて思ってないわけ。自分がやりたいから勝手にやったこと。それだけ。だからね、世の中を見ると突拍子もない素晴らしいことをやっている人がいるけど、わたしはそうじゃないの。自分の生活の中でのんびりゆっくりやってる。物好きだから自分がやりたいことをやるだけ。それがたまたま人の役に立ってるなら御の字。それだけよ。

生きづらさを感じているすべての人へ。

くりた
木野さんは、学校で福祉教育の授業をされたり、あちこちで講演に登壇されたりもして、障がいについてを広める活動もされていますね。

木野
わたしが普段みんなから受けているガイドだったりサポートだったりのお返し、「お互いさま」がそこだと思ってるの。

くりた
そういう気持ちでやっているんですね。

木野
うん。なんでもそうだよ。それとやっぱりもう一つは、自分たちのことをもっと知ってほしいというのもあるね。目が見えない人だけでなく、生きづらさを抱えているすべての人のことを知ってほしい。

くりた
それは障がいがある方だけではなくという意味ですか?

木野
そう。たとえば妊婦さんがね、電車に乗って立ってるのはつらいでしょう。これだって生きづらさ。視覚障がい者は白杖を持ってるから、目が見えないとわかってたすけてもらえるけど、心臓にペースメーカーを入れている人は外から見てもわからない。その人は、すごく勇気を出して外出しているはずなの。生きづらさを抱えるというのは、家から出れない不登校の人も一緒だよ。お年寄りだって、もちろんそう。

くりた
そこまで含めて、すべての生きづらさを抱えている人のことを考えているんですね。

木野
みんな一緒よ。そうなると今、世の中の半分ぐらいの人は生きづらさを抱えてるかもね。きっと多いと思う。だから、生きづらさを抱えている人のことをもっと世の中に知ってほしい。最後は自分次第だけど、家族や周りの人の理解や行動が本人の生き方に大きく影響するから。

朱に交われば赤くなる、人間は変われる。

くりた
誰かが困っていることに気がついても、なかなか動けない人もいると思います。動ける人との違いはどこにあるのでしょう。

木野
なんだろうね。わたしはさっき言ったように「お互いさま」が自分の価値観だから、生まれ育ってきた環境が大きいかもしれない。

くりた
そういう「お互いさま」の価値観が薄いところで育った人は、どうしていったらいいのでしょうか。

木野
「お互いさま」の価値観を持つ人たちの仲間に入ればいいの。朱に交われば赤くなるんだよ。たとえば『いどばた』もそう。わたしはみんなが自立して、視覚障がいがあっても自分でできることはぜんぶ自分ですることを大事にしているのね。だけど、メンバーが全員最初からそういう意識だったわけじゃない。

くりた
ああ、なるほど。まさに朱に交われば赤くなる。

木野
そう。『いどばた』も口コミでみんな集まってきてくれて、気がついたら130人ものメンバーがいるの。人数がここまで多くなると、視覚障がい者の中には、まれに晴眼者にお世話してもらって当たり前と思っている人もいる。それでも仲間として一緒に行動したら、すこしずつ変わっていくのよ。環境に飛び込むと、みんな考え方が引きずられていくの。

くりた
「引きずられていく」という表現が、木野さんらしいですね(笑)。

木野
ふふふ(笑)。べつにわたしが無理に引っ張ったわけじゃないんだけど、勝手に考え方が寄っていくの。いくらでも人間は変われるのよ。だから、世の中もね、捨てたもんじゃないぞ。

(写真:くりたまき 編集:はつこ)