今までの人生で、僕はいくつもの言葉にたすけられてきました。
ピンチのとき、落ち込んでいたとき、どうしていいのか迷っていたとき。様々なシーンで誰かの言葉によって奮い立たされ、励まされ、背中を押してもらいました。

高校生のとき。僕は全く勉強をしなかったので、成績がめちゃくちゃ下がりました。その原因は男子寮での生活が楽し過ぎて夜更かしして、毎日勉強せずに遊んでいたからです。授業は1時間目から寝ていて、気付いたらお昼になっている、なんてこともよくありました。自業自得でしかないのだけれど、授業には全くついていけず、途中で完全に勉学を諦めていました。夜は寮で宴に明け暮れ、昼間は教室で寝るという昼夜逆転の生活を続けて、いよいよ高校2年生のときには完全に勉強がわからなくなっていました。

そんな中、唯一わかる授業がありました。国語です。国語だけは理解できたのです。それに先生がとても面白い人で授業がとても楽しかったのです。国語の授業だけは寝ずに受けていたのですが、月に1回だけ俳句を詠む授業がありました。僕は俳句が好きで毎月楽しみながらはりきって提出していたのですが、あるとき先生に「君は言葉のセンスがあるね」と褒められたのです。勉強面で褒められることなんてなかったし、成績も酷いものだったので、先生から掛けてもらった言葉のおかげで、僕の勉学における自尊心がめちゃくちゃ回復したことをよく覚えています。

生徒をよく褒める先生だったので、先生にとってはいち生徒に対する何気ない一言だったと思います。でも、結局卒業まで成績が低迷し続けた僕は、あの一言でなんとか自信を保つことができたのです。まさか高校を卒業して15年経ってからライターになるとは思っていませんでした。この仕事を始めるきっかけとなったTwitterを始めたときも、「僕は言葉のセンスがあるからフォロワーもきっと増えるハズ……」と思っていたりしましたからね。先生の言葉でどれだけ自信を持てたか、感謝の気持ちしかありません。
あのときの先生の一言がなければ今の僕の人生はなかったかもしれないのです。

人生のピンチのときにいつも勇気づけてくれる言葉もあります。それは父が言ってくれた「お前はタフだから絶対に大丈夫だ」という言葉です。

僕が高校を卒業して自転車で日本一周の旅に出発する朝に、父がこの言葉で激励してくれました。自転車で旅をしていると悪天候の日があったり、体調を崩したりして、それこそ今すぐ電車に乗って家に帰ろうかなと思うシーンがたくさんありました。そのたびに父が僕にくれた「お前はタフだから絶対に大丈夫だ」という言葉を思い出して自分を鼓舞し、無事に2年間かけて日本を一周できました。そして旅が終わったあとも父のその言葉に何度もたすけられています。月並みではありますが、人生はまさに旅です。苦しい上り坂を歯を食いしばりながら登っている途中で、追い討ちを掛けるように嵐がやってきたりします。「もうイヤだ!」と投げ出したくなる状況で、僕はいつも父の言葉にたすけられてきたのです。

逆に僕がたすけたこともあります。
何年か前にTwitterでフォロワーさんから相談のDMが来ました。詳細は割愛しますが「赤ちゃんを授かったのだけど産むかどうか迷っている」という内容でした。相談者の方は自分の置かれた状況を事細かに教えてくれたのですが、たしかにその状況ならば産むかどうか非常に悩むだろうなと僕も感じました。僕なりに真剣に考えて返信をしました。

「僕は産んだほうがいいと思います。あなたは出産したとして『産んでよかった』と思える人だと僕は感じました」

はっきり言って僕はこれが正解だったのか本当にわからなかった。しかし僕には、相談者の方が悩みながらも産みたがっているように見えたのです。
1年後、その方から「あのときはありがとうございました。産んでよかったです」と赤ちゃんの写真を添えたDMがきました。
あのときの言葉が彼女の背中を押してあげられていたのなら、僕も勇気を出して返信してよかったと思うのです。

人を思いやった言葉は、ちゃんと相手に残って生き続けます。そしてその後の人生に影響し続けるのです。僕も言葉をたくさんもらってきたし、きっとあげてきたと思います。

言葉は人をたすける。

僕は今までもらってきた言葉を、少しでも次の人に渡しながら生きていきたい。

(イラスト:シムシム 編集:はつこ)