街を歩いていて「もしかしてあの人、困っているかな?」「声を掛けた方がいいかな?」と迷うときって誰しもありますよね?僕はそんな場面に出くわしたら勇気を出してなるべく声を掛けるようにしています。その人は実際に困っていることが多いからです。

昨夜もこんなことがありました。
駅の近くの銀行前で、急ぎ仕事のメールの返信をしていた。寒く北風が吹いていて、人通りもまばらな寒空の下、僕は震える手でスマホを操作しながらメールを打ち込んでいた。

そうしていると白杖を持ったおじさんが「カチャカチャ」と杖で前方を確認しながら歩いてきた。僕はスマホに集中していたのでおじさんが振っている白杖に最初は気がつかなかった。おじさんの白杖が僕の足にあと50㎝くらいで触れるところで白杖だと気付きサッと足を引いて避けた。

おじさんは銀行の前の駐輪スペースから少しはみ出た自転車を白杖で確認しながら避けて歩いていた。不規則に歩道にはみ出ている自転車をおじさんが避け終わるのを見届けると、僕は再び急ぎの案件を済ませる為にスマホに目を落とした。

しばらくするとまた「カチャカチャ」と音が聞こえてきた。視線を上げるとまたさっきのおじさんがいた。向こうに行ったはずなのにまたこっちに戻ってきた。「あれ?」と思いながらおじさんの足取りをよく見ているとその足取りは明らかに頼りない様子なのが見てとれた。

絶対に正規の道ではないビルの裏路地に入ろうとしていた。僕から少し離れた所にサラリーマンがいたのだが、僕と同じようにスマホを触る手を止めて、同じように銀行の前を往復するおじさんを注視していた。

どのタイミングで声を掛けたらいいのだろうか。僕らはおじさんの様子を伺っていた。
こんな時に白杖を上にあげるSOSの仕草をしてくれれば、すぐにたすけられるのだが、おじさんは一人で何かを杖で探していた。

たすけを呼ばないのにも理由があるかもしれない。ここは人通りがあまり多いわけではないのでおじさんが周りに人がいるとは気付いていない可能性だってある。SOSは人のいるところでこそ効果を発揮するが、人通りもまばらなこんな道では通り過ぎる人を当てにはできない。

僕はおじさんを驚かせないように少しだけ離れた所から「すみません、何かお困りですか?」と声を掛けた。おじさんは「はい、困っています」と小さな声で答えてくれた。それからゆっくりと近付いて「どこに行きたいのですか?」と聞くと「ここらへんに駅に繋がる道の曲がり角があると思うのですが、見失ってしまって」と言う。曲がり角は10m先にある。

「良かったら腕につかまってください」と腕を出す、視覚障がい者の方をエスコートするときは、腕や肩を触ってもらった方が安心して歩けると聞いたことがある。おじさんが僕と腕を組んだのを確認してから、ゆっくりと歩き出した。駅に向かって曲がる角にすぐに着く。おじさんに「ここですよ」と教えてあげる。

駅まではまだもう少し距離があるので、「よかったら駅までエスコートしましょうか?」とお伺いすると「この角さえ分かればあとは大丈夫です」と小さな声で言って、僕たちはそこで別れた。おじさんの後ろ姿を見届けながら、色々な事を考えた。

視覚障がい者の方は普段どんな感覚で外出をしているのだろうか。よく「歩数で覚えている」と聞く。357歩進んだ所を右に曲がり、そこから468歩進む。そんなふうに目的地までの進行経路を頭の中にインプットしているらしい。

でも道が通行止めになっていることもあるし、歩数を忘れちゃうこと、今回みたいに曲がる角を見失ってしまうことだってある。その場合はどうするのだろうか、めちゃくちゃ不安にならないのだろうか。というか、絶対に不安になると思う。

僕は銀行の前を行ったり来たりするおじさんの白杖の先に、不安というSOSを感じ取ったし、「お困りですか?」と声を掛けたとき、おじさんの表情は困りきっていた。

「たすけて」という言葉は誰だって言いづらいし、「お困りですか?」と声を掛けるのもなかなか勇気がいる。でもなかなか言い出せない2つの言葉がもっと気軽に出てくればいいと思う。

「たすけて」が先でもいいし「お困りですか?」が先でもいい。
もちろん僕も積極的に使っていきたい。