「優しい友達、できそうだし」とボランティアサークルに入った女子大生の話
4月。教室までの道は、新入生をサークルや部活に勧誘する賑やかな先輩と雑多に貼られたチラシで埋め尽くされている。
大学に入学したばかりの私は、サークルに入るならその時間でバイトしたり遊んだりしたいと、声かけをすり抜けて足早に教室へと向かっていた。
でも、その思いは大学生活が始まって数日で覆った。履修登録は誰かの助言がないと不安だし、高校時代のように毎日顔を合わせる人はいない。遊ぶにも友達ができない。サークルに入るのは、履修を相談したり友達をつくったりするのに手っ取り早い解決策だった。
なんのサークルに入ろうか。目的は友達づくりだし、行きたいときに行けばいい、そんなゆるいサークルを探した。
結局、差し出されるチラシはほとんど受け取り、いくつかのサークルの説明会や新歓という名のついた食事会、花見に行った。広告研究やイベント企画のサークルは面白そうだったけど、集まりが多いしきらびやかな新歓の空気が落ち着かなかった。
家に帰って、山積みになったサークル紹介のチラシを整理していると、ボランティアサークルのチラシが出てきた。ボランティアか、いいな。ボランティアをやっている人って優しい人が多そうだし、優しい友達ができそう……。そんなちょっと不純な動機で新歓に行くことを決めた。
ボランティアサークルの新歓当日。思った通り、先輩も集まった新入生も優しく穏やかな人が多かった。真面目な人が多いのかなと思っていたけど、ユーモアがあり明るい人がたくさんいて、たくさん笑った。
活動内容の説明を聞くとボランティアの種類は多岐にわたり、災害救援や環境保護もあれば、地域のお祭りの手伝いもある。遠くの大学の人たちと泊りがけで行くものもあれば、近所の大学だけでこじんまりと行うボランティアもある。その中から、自分が参加したいときに参加したい活動にだけ行けばいい。
行きたいときに行けばよくて、優しい友達ができる。求めていた条件にぴったりだ。それになんか「ボランティア」ってかっこいいし。そんな思いでボランティアサークルに入ると決めた。ボランティアって楽しそうだなとは思ったものの、活動への熱量はそれほどなかった。
そんなゆるい気持ちでサークルに入ったものだから、最初は月1の定例会に顔を出し、飲み会に行ってはストローでウーロン茶を吸いながら、先輩の話を聞いたり友達をつくったりするだけだった。
もちろん、心配していた履修も先輩の方から声をかけてくれて相談し、すんなり組めた。遠くの誰かをたすけた経験のある先輩たちは、側にいるわたしを当たり前のように気にかけ、いつだってたすけてくれた。そんな先輩たちに憧れを抱きつつも、ボランティア参加には踏み出せずにいた。
8月。気づけばボランティアに参加しないまま夏になっていた。でも、キャンプやバーベキューなどのイベントにはしっかり参加していたから、充分“大学生”を満喫できていて、満足していた。
夏休みは、泊りがけのボランティアのプロジェクトがいくつも開催される。東北へ復興支援に行ったり、九十九里浜をゴミ拾いしながらひたすら歩いたり。わたしの周りにも参加する先輩や仲間がもちろんいた。
わたしはというと、ボランティアへの興味は増していたものの踏み出す勇気はまだなかった。ボランティアは憧れの対象である先輩や友達が行く場所であり、いつもたすけてもらってばかりのわたしが誰かをたすけに行くなんて想像できなかった。
9月。大学生の長い夏休みが終盤に差し掛かる頃、サークルの仲間はわたしを町の小さなお祭りの手伝いに誘ってくれた。
大学の近くだし、ボランティアの内容も簡単。友達も行く。それならわたしにもできるかもと、やっと重い腰を上げることができた。
遠くの誰かをたすけてきたサークルの仲間は、帰ってくるとすぐに、側でグズグズしているわたしをたすけてくれた。
お祭り当日。わたしは小さな赤い金魚が入ったビニールの袋を子どもたちに渡す役目だった。子どもたち一人一人に金魚を渡していく。
嬉しそうに駆け寄ってくる子、恥ずかしそうに去っていく子、大事に大事に金魚の入った袋を持つ子、元気に話しかけてくれる子。
ポツリポツリと雨が降る中、普段関わることのない子どもたちの笑顔は、わたしを晴れやかな気持ちにさせてくれた。
金魚を渡して子どもたちから笑顔をもらう。その中で、「ボランティアってたすけてあげるものだと思っていたけれど、もらうものの方が大きいな」と思い、じんわりと心があたたまっていった。お祭りはもう6年以上も前のことになるけれど、あのささやかな半日のぬくもりをいまも覚えている。
それからわたしは、少しずつボランティアに参加するようになった。次に参加したのは同じ公園で行われた大きな秋祭り。春休みには新潟県のお祭りの手伝いに泊りがけで行った。
3年生になる頃には豪雨で浸水した地域の救援に行き、卒業旅行ではサークルの仲間の力なしでひとりツアーに申し込み、カンボジアの孤児院や現地のNPO法人に行った。
“優しい友達が欲しい” という思いから踏み出したボランティアの道は、たすけ上手な仲間が導いてくれたおかげで、自らの足で進んでいけるまでなった。
ボランティアに参加するというと、大きなことを成し遂げなければならないと思うかもしれない。
でも、“優しい友達が欲しい”という理由でボランティアに近づき、周りにたすけられているうちに、自分も少しずつ誰かをたすけられるようになった女子大生がいた。
この物語をここまで読み進めてくれたあなたはきっと、サークルに入った頃のわたしよりもボランティアやたすけあいに近いところにいる。
もし、ボランティアを始めてみたいという気持ちが少しでもあったら、身近で楽しく行えそうなお手伝いを探してみてほしい。最初は仲間の力を借りてみるのもおすすめ。
たすけ上手な人たちからたすけられているうちに、自分も少しずつ誰かをたすけられるようになる。そうやってたすけあいの輪に入る方法もある。
わたしは仲間の力を借りて踏み入れたボランティアの世界で、その後忘れられない出会いを経験することになった。そのお話はまた今度、きっとここで。