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作文の部 課題 新しく見つけたこと・気づいたこと
最優秀賞
優秀賞
総評

ことば と こころ。光を当てる

作家・子どもの本の専門店クレヨンハウス主宰

落合 恵子

 毎年、小学校1年生から6年生までがひとつのテーマのもとに作文を書く。そして、最優秀賞や優秀賞を受賞する。告白してしまおう。わたしは、みなさんの作品を読むことがとにかくうれしくて、審査という、ある意味やっかいなことをしているのです。「やっかいなこと」とは、作品に順番をつけることです。それぞれが一生懸命書いた作文に「ほんとは、点数なんかつけられないよ」と思いながらです。
 なぜならあらゆる表現物で、図工、音楽、詩、短歌や俳句等の中で、作文ほど他の作品との論理的な比較が難しいものはないからです。読めば読むほど、どの作品も説得力があるように思えるのです。ちょっとひとりよがりに見えるものは、むしろそれゆえの魅力があるのです。だから優劣をつけるのがきわめて難しいと、言い訳めいたことを書いているのですが、とにかく面白かった、です。
 作品の対象はさまざまでも、テーマは「新しく見つけたこと・気づいたこと」。米国の哲学者(女性)、スザンヌ・ランガ―は記しています。……新しい発見とは往々にして(だいたい、という意味だが)、そこにありながら、光が当たらなかったものに光を当てることです……。確か、そんなことばだった。
 新しい発見というと、今まで誰も見つけられなかったものを見つけることのように考えがちだが、彼女はそうではなく、いままで「ここに(そこに)ありながら」、ほかのひとが見つけなかったもの、気づかなかったモノやコトに気づくこと」だと言っているのです。
 皆さんの優れた作品も、「そこ」を描いたものが多いような気がします。植物学者牧野富太郎が「発見」したものも、米国のシンガーソングライター、ボブ・ディランが自分で作り、歌った『風に吹かれて』という平和へのメッセージソングも、たぶんみな、「そこにありながら、いままでは誰も光を当てなかったモノやコト」に、「光を当てる」ことであるのです。
 その発見と気づきの時に向けて、あなたやわたしがすべきことは、耳や目や感触などを大事にすることであり、同時に集中することではないでしょうか。
 米国の海洋学者であり作家でもあったレイチェル・カーソンは、自分にはもうたくさんの明日が残されていないのだと知った時、子どもと保護者向けに書いたのが『センス・オブ・ワンダー』というタイトルの、一冊の本だった。実際は彼女自身で完成することができず、亡くなったあとに友人たちの手も加わったエッセイ集ですが。
 そこで彼女も、「新しく見つけたこと・気づいたこと」について記しています。わたしの言葉に変えてしまっていますが、次のような内容です。……「(それが何であれ)もし、それを生まれてはじめて見たとしたら。もしそれとこの先2度と出会えないとしたら……」。そこにこそ、新しい発見と気づきの時があるのです。あなたの「その時」を大事に大事にしてください。

追伸・学年によってわかりにくい表現などがあるかもしれません。
そんなときは、先生や保護者のかたに質問をしてください。

落合恵子さんのプロフィール写真
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