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総評

作品を巡って

特定非営利活動法人 市民の芸術活動推進委員会 理事長

鈴石 弘之

 関東の各地で既に優秀だと認められ、金賞などの賞をいただいた作品が、代々木の地に集まりました。平生ですと、私が出向いて、直接作品と出会い、しげしげと愛でながら最優秀と優秀を選定していくのですが、またまた襲ってきたコロナのオミクロン株のせいで、異常なことになり、とうとう直接作品を手にとって見ることが叶わなくなりました。次善の策として、担当の方に作品を撮影していただき、それをJPEG画像としてPCに送付してもらいました。それから、画像をA4サイズの用紙に印刷して、机上に並べて拝見しました。つまり、縮小サイズの作品と出会うことになりました。
 そのために、残念ながら、絵の具や版画インキの色合いや肌合いがつかめないという事態でしたが、懸命に凝視して、表したい主題に思いをよせながら、見比べていきました。
 さて、今回の作品を概観した印象を述べれば、一版多色や彫り進み、転写、平版などの色彩豊かな作品に優れたものが多く見られたのに比して、従来型の木版画や紙凹版に、目を瞠(みは)る作品が少ないということでした。その原因と思われるのは、コロナ禍にあって、学校登校ができない異常事態の中で、図工の時間をたっぷりゆっくりと確保することが叶わず、自習のようにして自宅で版画制作をするなどのために、きめ細かな指導ができなかったのではと推測するのです。その当否は不明ですが……。
 次に今回の作品群をつまみ出してみましょう。人物を主題とした作品が半数を占めていました。その内訳は、楽器を演奏する友だち、運動をする友だち、自画像のような人物像でした。その次に多かったのは、生き物が主題の作品です。その中でも多数を占めたのが、カジキマグロやウミガメなどの海の生き物。そして三番目に多かったのは、ふくろうや猛禽類などの鳥たち。四番目の主題はチョウチョやカブトムシなどの昆虫たちでした。
 このようにして並列してみると、およそ全ての作品が観察をもとにしていることがわかります。高学年では、版を作るための下絵の制作も当然必要になってきます。ですから、リアリティーのある下絵によって、版の出来栄えが決まってしまうのだと言えます。
 ところで、リアリティーですが、いわゆるそっくりというリアリズムの他にもう一つ大切な要素があります。それは感情移入です。対象へ心が動く、あるいは、対象に心が動かされるといったことでしょうか。6年生の最優秀賞作品の矢野あすかさんの「目線の先には…」が、まさにこのことを証明しているように思います。

鈴石弘之さんのプロフィール写真