#今できるたすけあい
コラム
夫婦ですれ違いそうになったときには
※この記事は2020年6月11日に執筆したものです。
「コロナ離婚」という悲しい言葉がトレンドになっていた。
「パートナーとの喧嘩が増えた」「コロナでも遊びに行こうとする夫にうんざり」といった呟きがSNSで流れてくる。
「夫が大好き」とTwitterで毎日のように公言し、「夫とふたりで家にいる時間が増えて幸せ!」と思っていた自分にとって、それはどこか知らない世界の出来事のようで、「なんでそんなことが起こるんだろう……?」と初めは胸を痛めていた。
ところがある日「事件」が起きた。
コロナに対する危機感の違いが、私たち夫婦の間でも発覚したのだった。
それはまだ緊急事態宣言が出る前で、外出する人も多かった時期のこと。
私たちには夫婦で定期的に通っている整体院があるのだが、
自粛ムードが強まっていたので「キャンセルするよね?」と私が聞いたところ、
夫は普通に行く気満々だったのだ。
私はとっさに違和感を覚えた。
もしウイルスに感染してしまったらどうするの。
感染を他の人に広げてしまったらどうするの。
そんな不安が、頭をかけめぐる。
SNSで「夫婦の間でコロナに対する危機感の違いが発覚してつらい」という書き込みを目にしていたが、まさか自分たちにも認識の違いがあるとは。
でも同時に「認識の違いがあるのは当たり前なのでは」という思いも頭をよぎった。
ふだん触れている情報が全く同じ夫婦はいない。
夫にも夫なりの事情があるのかもしれないと思い、一呼吸置いて
「どうして整体に行きたいと思うの?」と聞いてみる。
すると夫は、静かに話し始めた。
仕事で責任のあるポジションになってストレスが溜まっていること、
自粛の中、そのストレスを発散できずにつらい思いをしていること、
夫婦で整体に行くことが夫にとって数少ないメンタル回復の時間になっていたこと。
なんだ、そうだったのか。
夫に対して抱きかけた、ネガティブな感情がすーっと消えていく。
夫は優しくて、責任感が強くて、ストレスを溜め込みやすい性格だ。
コロナ禍で、いつも以上に追い詰められていたのだろう。
夫の状態に気づけなかったことにごめんねと思いつつ、
今度は私が、夫になぜ整体に行ってほしくないかを話す。
夫が大好きだから感染してほしくないこと、
自分たちは発症するリスクが低いとしても、他の人に広げたくないこと、
夫のストレス解消を邪魔したいわけではないということ。
夫も「うん、うん」と真剣に聞いてくれた。
行動ベースで見ると「ありえない」と思うことでも、
行動の背景を聞いてみると、お互いの事情が見えてくる。
最終的には、「整体に行く以外で、夫のストレスを解消する方法は何か?」を話し合い、メンタルを回復する手段の一つとして『どうぶつの森』を購入することにした。
幼稚な解決策かもしれない。けれど、夫婦ではじめたゲームの時間は、整体に代わる癒しになり、家庭内で想像以上の威力を発揮した。
ふだん「好き」とあまり言わない夫ですが、
— あつたゆか | ふたり会議 (@yuka_atsuta) April 28, 2020
私がどうぶつの森にログインすると私の家の前に欲しかった家具やら魚やらが毎回大量に置いてあって、
夫がコツコツ集めてきてくれたんだなと思うと尊すぎて発狂しそうになります。
他にも、夫は在宅勤務で煮詰まったら散歩をしたり、朝と夜に家でストレッチの時間を設けたりと、身体的なリフレッシュ方法も模索するようになった。
こうして、整体事件は静かに幕を閉じたのだった。
コロナの影響で、パートナーに対する違和感や意識のズレを感じやすくなった人は多いだろう。
しかしそうなったときに、「なんでこんな行動をするの!ありえない!」と責め合って、
支え合うはずのパートナーと「敵」同士になってしまうのはあまりにも悲しい。
ビジネスの世界では「他責ではなく、自責で考えよ」とよく言われるが、
私は、誰のせいにもしない「無責」という考え方が好きだ。
問題が起きたときに「あなたが悪い」と責めるのではなく、
まずお互いの事情を理解し、問題をふたりの人格から切り離して考える。
問題をどうやって根本的に解決するか、「味方」として一緒に模索する。
相手を責めそうになったとき、立ち止まって「無責」の概念で物事を捉えることが、
私が今できるたすけあいの第一歩になりそうだ。
(写真:fizkes/iStock 編集:はつこ)
あつたゆか
X(旧Twitter):@yuka_atsuta
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