#今できるたすけあい
コラム

おすそわけに、たすけられる

※この記事は2020年4月30日に執筆したものです。

Wi-Fiが止まった。

あれっ、おかしいな。

すると、タイミングよく通信会社からメールが届いた。

「月の制限容量100GBに達したので、停止します」

嘘だろ。そんなバカな。

100GBだぞ。

100GBって言ったら、あれだ、とにかく結構あるぞ。

このところの外出自粛生活を思い返してみた。

ビデオ通話で、毎日のようにやっていた打ち合わせや取材。

終わったらそのままへべれけで喋り倒す、オンライン飲み会。

一人じゃ寂しいからと、垂れ流していた動画配信サービスのアニメやドラマ。

あっ、100GB普通に使ってるわ。

嘘じゃなかった。バカは私だ。

しかし、時すでに遅し。

スマホのテザリングもあっという間に、上限へ達した。

回線の増設工事は一ヶ月先までいっぱい。

やっと申し込めたと思ったら、

「手続きの方法はこの動画をご覧ください」というメールが届き、

その動画が重すぎて3時間経っても観られず、スマホを投げそうになった。

だめだ、これでは仕事にもならない。

せめて動画だけでもと思い、無料でWi-Fiを提供しているハンバーガー屋さんに行くという、苦渋の決断をした。

動画を観たら、すぐに帰ろう。

人と接触しないように、歩いて行こう。

調べたら、一番近くの店舗は、歩いて45分だった。

10秒迷ったが、背に腹は代えられなかったので、歩いた。

ハアハア言いながら店舗に着いたら、なんとテイクアウトのみの営業だった。

少し考えればわかることだったのに。私は呆然とした。

片道45分をかけてチーズバーガーを買いに来た、執念の女になってしまった。

トボトボと歩いていると、スマホにショートメッセージが届いた。

見れば、ずいぶん連絡をとっていなかった高校時代の友人だった。

「Twitter見たで。よかったら、これでしのいで」

スマホのテザリングで使える、データ容量だった。

びっくりした。

そんなものが送りあえることも知らなかったし、第一、なぜお金をかけてわざわざ私をたすけてくれたのか、わからなかった。

「なんでたすけてくれたん?」

「奈美ちゃんのエッセイでいつも笑って、元気もらってるねん。データをおすそわけしたら、またおもろいの書いてくれると思って」

泣きそうになった。

たすけるって、困ってる人を見つけて、手を差し伸べるだけじゃなくて。

楽しいとか、嬉しいとか、大好きって気持ちをおすそわけしてもいいんだ。

今日も私は、一人で家にいる。

寂しいのはたぶん、私だけじゃない。

だから私は、書くことにした。

お取り寄せできる、最高のポップコーン。

何度でも思い切り笑える、二人組のコント動画。

心がふうっと軽くなる、家族をテーマにした小説。

好きのおすそわけで、だれかをたすけたい。

作家でよかった。今日も私は、言葉でおすそわけしている。

Wi-Fiが止まったワンルームで。

(写真:藤里一郎 X(旧Twitter)→@shameraman 編集:はつこ)

岸田奈美

1991年神戸市生まれ。車いすユーザーの母、知的障がいのある弟、ベンチャー起業家だった父(故人)との家族の日々を書く作家。株式会社コルク所属クリエイター。X(旧Twitter)/note

そのほかのコラム

    TOPページに
    戻る
    新型コロナウイルス感染症に関する
    当会からのご案内はこちら