#今できるたすけあい
コラム
また旅ができる世界を取り戻したい。あるホテルマンの願い。
※この記事は2020年5月5日に執筆したものです。
4月7日、都市部を中心に緊急事態宣言が発令された。
その少し前の4月5日から、私が働いている旅館「The Ryokan Tokyo YUGAWARA」は一時休館となっている。
外出自粛要請などが出る中で、社長を含め経営陣が話し合いを重ねた。その結果、感染拡大防止や、このような状況下で安心安全に宿泊でき、楽しめる空間の提供が難しくなることを予想し、下した決断だ。
遡ること昨年12月8日。そのころ私は、北海道の富良野にある同グループの「petit-hotel
#MELON」で働いていた。富良野は例年、冬のシーズンは外国からのお客さまが多く、私が働いていたホテルでは約9割を占めている。
1月、2月と徐々に中国から日本に感染が拡大していき、感染防止のため飛行機の欠航が相次いだ。それに伴い宿泊予約サイトを通じて「飛行機が欠航のため宿泊をキャンセルしたい」というメールや電話をいただく機会が多くなった。
中国で感染が拡大し飛行機の欠航が出た時点で、インバウンドの観光客(特に中国の方)からの予約を多く取っているホテルは、大打撃を受けていたのではないかと推測する。
2月17日、私は異動で今働いている湯河原の温泉旅館にうつった。当時、富良野に比べると関東はそこまで影響が表面化しておらず、ありがたいことに例年と同じくらいお客さまが来ていた。
しかし、2月終盤、3月と日が進むにつれ、感染の影響が拡大。学校の休校がきまり、外出自粛要請が出された。それにつれて、徐々に予約キャンセルの連絡が来るようになった。また、先の予約が例年よりも少なくなる状況も生まれていた。
そして4月の休館に至る。休館してから約1ヵ月近く、宿泊客の姿はない。静まり返った館内。普段とは違った表情を見せている。いつまでこの状況が続くのだろうか。まだ先は見えない。
オフラインでのサービスが基本のホテル業。お客さまが来なければ仕事ができない。このような状況を受け、休業しているホテル、休業すると経営が難しくなるため営業を続けているホテルがある。そして休業どころか廃業に至ったホテルも出てきている。
休業中のホテルでは、まとまった時間が取れるのだからと、普段できないことをしているところが多い。施設の改修を行ったり、社員への教育を熱心におこなったりしているホテルもある。
営業を続けているホテルは、感染防止対策をしつつ、テレワークをしている会社員に向けたワーケーションプランを打ち出しているところも見受けられる。
休業しているホテルは、ただ休業しているだけではこの先の見通しがつかない。売り上げがない状態が続けば、いずれ廃業という道が見えてしまうだろう。そういった中で、少しでも事業が継続できるようにと出てきているサービスがある。
私が働いている会社からは、2つのサービスをリリースした。1つ目は、行きたいホテルの応援ができるサービス。2つ目は、医療従事者や出社を要請されている方など、感染のリスクにさらされている方に向けたサービス。どちらも自社の宿泊施設だけでなく、たくさんのホテル事業者さんと共にこの状況を乗り越えるプラットフォームになっている。
1つ目のサービスは「未来に泊まれる宿泊券」。これは、いつか未来の宿泊を今販売・購入することのできるプラットフォームだ。
従来、ホテルへの売上金が入ってくるタイミングは、お客さまのチェックイン以降である。このままでは休業中の売り上げは当然立たない。それを先払い制にすることで売り上げができ、事業継続に充てられる仕組みだ。事前に購入していただくという観点から、通常よりも安く宿泊券を販売しているホテルが多い。
お客さまは好きなホテルや、行ってみたいホテルの宿泊券を先に購入することで、そのホテルを応援できるような仕組みになっている。このサービスは、他のホテルにも多く開かれており随時加盟募集をおこなっている。
2つ目のサービスは「HOTEL
SHE/LTER」。医療従事者や出社を要請されている方など、感染のリスクにさらされている方に向けたサービスだ。
ホテル業界では「アパホテル」が政府から要請を受け、軽症者や症状のない方を対象にした受け入れを始めたのが全国的にニュースになった。「アパホテル」のような大手のホテルは、全国にグループのホテルがあり受け入れキャパも大きい。また、体制も整っているので対策も取りやすいし効率的だ。大手のホテルであれば、こういった軽症者や症状のない方の受け入れ態勢を整えられるが、中小規模のホテルには難しい面がある。
それでもできることはないかと、医療従事者や出社を要請されている方など感染リスクにさらされている方に向けたサービスである「HOTEL SHE/LTER」が立ち上がった。「HOTEL SHE/LTER」は、「家にいること、家に帰ることが、身体的なリスクになっていたり、あるいは心理的なストレスになっている方が、安心して過ごせるシェルターのような場所が必要だ」という思いから始まったのだ。
現在、私は「未来に泊まれる宿泊券」の営業戦略やカスタマーサクセスに関わっている。その中で、ホテル事業者からのメールを読むことが多々あるのだが、私たちの思想に共感してくださる方が多く、このサービスに関われていることにやりがいを感じている。私は、「未来に泊まれる宿泊券」を通して、1つでも多くのホテルがこの危機的な状況を乗り越えられればと思っている。
「お客さまが来なければ仕事はできない」。記事の途中でこう書いた。しかし、本当にそうなのだろうか。新型コロナウイルスを理由にできないことは多い。それでも、「今の状況でもお客さまに何かできないか」と考えたり、ニュースに目を向けて何が問題になっているのか見てみたりする。
すると、できることが見つかるかもしれない。
先に紹介した2つの事例(特に2つ目の事例)は、今の状況で問題になっていることに目を向け「問題の渦中にいる人たちをたすけられないだろうか」という思いで始まっている。
問題に目を向け、そこから今「自分の業界だったら何ができるのか」「自分だったら何ができるか」という思考につなげてみると、この状況を乗り越えるための何かを思いつくきっかけになるかもしれない。
「たすけたい」という思いが、自分たちを含めた大きなたすけあいに繋がる可能性があるのだ。
1つのホテルだけで頑張るのではなく、ホテル同士でたすけあい、ときにはお客さまのたすけをかり、この状況を乗り越え、安心して旅行ができる世界が戻ってきてほしい。ホテルがお客さまで賑わっている姿が、少しでも早く戻ってくることを願っている。
(写真提供:石田剛 編集:はつこ)
石田剛
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