#今できるたすけあい
コラム

自分の機嫌をとるルール

※この記事は2020年4月30日に執筆したものです。

お家にこもってから、はや3週間が経ちました。
非日常はだんだんと、日常へ変わりつつあります。

しかし、この変わるということが、どうにも難しい家族がいます。
私の息子・良太です。
良太は、ダウン症で重度の知的障がいがある24歳。
障がいのある人が集まる作業所で働き、7年目を迎えました。

働きはじめた頃は、環境が変わったことで、
土日が休みということがわからなかったり、
一人で作業所にたどり着けなかったりした、良太。
ゆっくり時間をかけて、何度も何度も繰り返して、
今は自分でカレンダーを見て、バスの時間も完璧に計算して、
作業所へ出かけられるようになりました。

でも、緊急事態宣言を受け、作業所はお休みに。

いつもどおり支度をする良太を止めると、キョトンとした顔で質問が始まります。

「しごと、ある?」

ないよ。

「あした、しごと、ある?」

ないよ。

「ぼく、しごと、いくよ?」

答えても答えても、同じ質問が止まりません。
カレンダーでは、土曜でも日曜でも祝日でもないのに、なぜ休みなのか。
いつまで休みなのか。それが良太には、わからないのです。

来る日も来る日も、良太の質問に答えて一日が始まります。
テレビをつければ、不安がぞわぞわと煽られるニュース。
人との接触を恐れながら、買い出しに行くスーパー。
いつ終わるかわからない、お家にこもりっぱなしの日々。

今日は仕事ないんだよ、と良太に言い聞かせるたびに、
じゃあいつからあるんだろう、と先が見えないことに、私が辛くなりました。
ああ、しんどいな。どうしよう。
どよーんと、自分の気持ちが落ち込んでいくのがわかります。

2週間が経った頃、気がつくと、良太の質問が終わっていました。
あれっと思って、良太を見ると。

塗り絵をする。
ダンスをしながら歌う。
疲れたら昼寝をする。
本棚の本を並べなおす。
お風呂の掃除をする。

わりと忙しそう、かつ、楽しそうにやっているのです。
次の日も、その次の日も、同じ内容を同じ順番で。

私は、気づきました。
良太は仕事に行けないことが不安なのではなく、
一日のルールが乱れてしまうことが不安だったのだと。

人は皆、自分のルールを乱されることを苦しく思います。
こだわりが強く、世の中のことがよくわからない良太にとって、その苦しみは、私が持つそれよりずっと大きいのです。

だから良太は、自分で自分のご機嫌を取れるルールを、いち早く自分で作っていたんです。
変化が苦手なはずなのに、変わろうとした良太に、ものすごく励まされました。

私も、私の母も、良太の変化にたすけられて。
今は自分たちの機嫌がよくなるルールを、作っています。

それぞれが機嫌がよくなるルールを作ることで、心に余裕ができ、たすけあいやゆずりあいが生まれていくと思うんです。

まずは自分の心を整えること。
そのために、変化した日常に合わせた新しいルールを作ることが、
今できるたすけあいの第一歩なのだと、良太に教えてもらいました。

(写真:藤里一郎 X(旧Twitter)→@shameraman 編集:はつこ)

岸田 ひろ実

株式会社ミライロ 講師、日本ユニバーサルマナー協会理事。大動脈解離の後遺症で、車いすに乗り生活している。高齢者や障がい者への向き合い方などを接客研修で教える。知的障がいのある長男と、作家として活動する長女を持つ。X(旧Twitter)→@HiromiKishida

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