#今できるたすけあい
コラム

食べることは守ること。

※この記事は2020年5月1日に執筆したものです。

コロナの危機をどう乗り越えるのか。
4月7日の緊急事態宣言発令からもう少しで1ヶ月が経とうとしている。

今までの“当たり前“は崩れ去り、人は家にこもる。
賑やかだった飲食店に人は来なくなり、リアルの場で活躍していた人たちはその存在さえも問われるような、つらい日々が続く。

誰が悪いわけでもない。

それがこの状況の一番つらいところでしょう。
何が正解かはなく、それぞれの境遇が変わっていく。先行きの見えない事業もあれば、変化が追い風となり成長する事業もある。

特に飲食事業はかなり厳しい状況にあります。
僕が働いていたような高級レストランは家賃が高く従業員も多い。簡単にはこの状況に対応できないし、保証がない中での自粛も難しい。

日本において食は文化であり宝です。日本料理が無形文化遺産に登録され、更にその重要度は上がりました。食材が感じさせてくれる四季の移ろいを海外の方も楽しみにしてくれています。

日本料理だけではなく、日本の料理は全てにおいてレベルが高い。多様性があり、これほど多くの美味しい料理を食べられる国は他にはないと思います。

そんな大切な食の世界が崩れ去ろうとしているのです。

料理人はもちろんですが、店に食材を提供してくれている生産者の方も含めて、本当にたくさんの人の人生が変わってしまいました。

もちろん、この変化に僕たち料理人は対応しないといけません。それは間違いない事実です。でもこの急激すぎる変化に全員が対応できるわけではありません。それでも必死に考え、対応するためにテイクアウトやデリバリーを始めている。慣れない中で必死に頑張っています。

料理人はおいしいものを作る以上に、知ってもらう努力が必要だと感じると思います。
今までもそうだったはずですが、この状況で更に考えなければならなくなりました。

SNSの運用も、自分たちのことを伝えるのも、苦手だと思います。
でも、生き残るためにはやるしかありません。今までよりも一歩半踏み込んで、自分の世界を広げましょう。

そしてお客さまには、飲食店の人たちがどれだけ大変かを知ってもらいたい。
慣れない環境の中でミスがあるかもしれない。今まで食べていた料理より少し味が落ちるかもしれない。それでもみんな必死に戦っているはずです。様々な負荷がかかっていることを少しだけ理解してもらいたい。

もちろん料理人は甘えずにおいしいものを作らなければいけませんが、他者への想像力が世の中を少しだけ温かくしてくれるはずです。 消費者の方たちが飲食店でテイクアウトをするだけで、日本の食文化を守ることへ繋がるかもしれないのです。その一食がきっかけでお店を守れるかもしれない。

そして生産者のことも応援してほしい。おうち時間を料理の時間に変えて、生産者から素晴らしい食材を購入して料理を作る。すると、家で過ごす時間も食事の時間も素敵なものになり、生産者も応援できる。どんな些細な行動でも私たちはたすけあうことができるんです。

料理を買うのも、食材を買って料理をするのも、日々の生活に元々あったことです。暮らしの中で、たすけあえる。こんなに素晴らしいことはありません。

おいしく楽しい時間を過ごす、それ自体がたすけあいになります。

こんなときだからこそ、ほんの少しだけ意識を外に向け、多くの人と手を取り合いながらたすけあえる素晴らしい世の中へと、みんなの力で変えていきたいですね。

(写真:藤里一郎 X(旧Twitter)→@shameraman 編集:はつこ)

田村浩二

神奈川県三浦市生まれ。国内外の一流店で勤務ののち渡仏。2017年にシェフに就任し翌年には「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。 現在は Mr. CHEESECAKE の他、複数の事業を手掛ける事業家としても活動。X(旧Twitter)→@Tam30929

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