#今できるたすけあい
コラム
「その店が好き」は、やがて、「その街が好き」になる。
※この記事は2020年5月4日に執筆したものです。
ただ今ゴールデンウィークの中日。バケーションの気分など微塵も感じないお昼時に、今日も近所の散歩ついでに近所のカレー屋でテイクアウトし、家でおいしくいただいた。
ずっと家にこもっていて、仕事と休みの境目がわからない日々が続いている。けれど、ゴールデンウィークの間はお店でテイクアウトして、少しだけ豪華な食事で気分を盛り上げることにしている。とりわけ、好きなお店になるべく顔を出すようして。
僕は広告会社にコピーライターとして勤めている。以前、とあるパン屋さんの広告づくりのお手伝いをしたとき、こんなコピーを書いた。
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「この店が好き」は、やがて、
「この街が好き」になる。
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これは自身の実体験から書いたものだ。
18年間暮らした静岡県を離れ、東京に来て小田急線沿いのとある駅へ降り立った日のことをよく覚えている。新しく借りた部屋に向かう途中の商店街ですれ違う人たちは、田舎の人とは違うどこか別の星の人のように見えた。
高校を卒業して縁もゆかりもないこの地にいそいそとやって来た僕は、初めての土地での浮わつかない気持ちを紛らわすように学業やバイトに勤しんでいて、それでもときおり深夜に寂しくなり、高校の同級生たちとスカイプで近況を報告しあったりした。
そんな、どこかよそ者感がぬぐえなかった僕を受け入れてくれたのが、駅前の飲食店だった。
熊本県出身、元テレビディレクターのおじちゃんが一念発起して開いた熊本ラーメンのお店。「お兄ちゃん大学生?」「勉強してんの?」なんてカウンター越しに聞いてくれるが、無愛想な僕は「ええ、まぁ」とぶっきらぼうに応えていた。それでも、知らない土地でよそ者同士の空気を感じたのもあり、そのおじちゃんのまとう空気が心地よかったのを覚えている。
もうその地からは離れてしまったが、10年ほど経った今でも時々近くを通りかかった際にはのぞいていくようにしている。そのおじちゃんがカウンターに入っている姿は見られなかったが、味はあの時と変わらず健在だった。先ほど調べたら、この状況下でも変わらず営業しているようだった。
駅前は開発が進み、当初の面影はあまり残っていない。自分はあれから成長できたのだろうかと思う反面、街は案外すぐに変わってしまうのだと思った。
今でもその街のことが忘れられないのは、行きつけのお店があったからだと気がついた。そんな自身の経験から、あのパン屋のコピーを書いた。その街らしさはその地に住む人々はもちろん、商店街のお店から漂う匂いがつくっているのではないか、そうだったら良いなと。
最近SNSで、大好きだったイタリアンレストランのチェーン店が「何店舗か閉店に追いやられている」という投稿を見た。とてもショックで急いでまだ閉店していない店舗に電話をかけたがつながらなかった。
休みの日に足を運んでみたら「臨時休業」と書かれていて、テイクアウトの営業もしていなかった。お手上げ状態で、どうすることもできずただただ呆然とした。今はどうにか支援できる手段がないか調べている。クラウドファンディングか、せめてテイクアウトで買いに行くことができたらと願うばかりだ。
好きだったお店がなくなってしまうと、好きだった街まで無くなってしまうように思う。だから外出自粛の最中でも、近所の好きなお店は頻繁にのぞくようにし、持ち帰りをしている。
前まで外食は贅沢なもの、なんて思っていたが今は少し違う。好きなお店を応援するために。好きな街を好きなままでいるために。外食をしようと思う。
もし政府からの給付金が貰えたら、もう使い道は決まっている。家で豪勢にテイクアウトパーティをするのだ。今からよだれが止まらない。楽しみである。
(写真:藤里一郎 X(旧Twitter)→@shameraman 編集:はつこ)
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