#今できるたすけあい
コラム
休校中のお昼ご飯を楽しみに。小さな島から広がった「こどもべんとう」
※この記事は2020年4月7日に執筆したものです。
「長島も休校になるみたいだよ。子どものお昼ごはんとかどうする? カップ麺とか用意する?」
2月の終わり、僕が営む食堂に来てくれたお客さんから聞こえてきた会話でした。
新型コロナウイルスによる、様々な生活の変化。その中でも早い段階で家庭に大きな影響を与えた一つが「全国の小中学校の一斉休校要請」だったのではないでしょうか。
もちろんその波は、僕が住む鹿児島県の端っこの長島町にもやってきて、首相が要請を出した3日後には休校になることが決まっていました。
「長島も休校になるみたいだよ。子どものお昼ごはんとかどうする?カップ麺とか用意する?」
「いや毎日カップ麺はかわいそうだよね……どうしようかなぁ」
そのやりとりを聞いたとき、僕はすぐに、
「え? 休校になるんですか? やっぱりその期間、子どもたちのお弁当つくるのって大変ですか?」
と尋ねました。
「当たり前だよ!平日もお弁当を作らないといけなくなるのは大変だよ……給食のありがたみがわかる……」
とすぐさま返ってきて、こんな質問してしまった自分を恥じました。
いつも食堂を利用してくれるお母さん、お父さんたちのために、何かしたいと考えたとき、僕ができるのは、子どもたちのお弁当をつくることでした。
長島町の食材を使って、おかずが被らないように配慮したり、楽しくご飯が食べられるように、イラストをつけたりして「こどもべんとう」なるものを作りました。
(地域の野菜や魚をぎゅっと詰め込んで、インスタントの味噌玉までついている)
すると、近所のお母さんからは、
「子どもがお弁当を楽しみにして、午前中に家の手伝いを率先してやってくれてた」
と言ってもらえたし、
食材を提供してくれて、かつ、こどもべんとうを取ってくれていた生産者の方からは、
「子どもに『お父さんが作ったデコポンもうまかったよ』とか言われて笑っちゃったよ」
という話を聞いて盛り上がりました。
こどもべんとうは、結果的に多くの人に利用していただき、たくさんの子どもたちに食べてもらえました。
でも、僕がお弁当をつくったのはそこまで大したことではなく、こどもべんとうができあがるまでに、多くの人の気持ちが詰まっていたからこそ、たくさんの人に届いたのだと感じています。
(長島で採れたタチウオのフライにあおさの磯辺揚げ。フライおいしかったーって言われて嬉しかったやつ)
(地元で採れた野菜とヒオウギ貝のグリル。これお弁当にいれるの…と心の中で100回は言った。とても食べたい)
(しそは嫌い!って言われて、そうかそういうこともあるのかと思ったお弁当。子どもたちから直接声を聞けるのは嬉しいし楽しい)
次々あつまる支援の声
僕がお弁当をつくろうと決めたとき、一人でやっても仕方ない、できれば多くの人に関わってほしいと思い、SNSに、
「こどもべんとう始めます。
お母さんやお父さんにはこういうとき少しでも楽をしてほしい。」
と投稿しました。
すると思ってもみないくらい拡散され、いろいろな人から応援のコメントをいただきました。
生産者の方々からは、
「SNSみたよ。自分のつくるもので良ければぜひ美味しく料理して使ってほしい」
と声をかけていただき、
近所の方々からも、
「これ家で採れた野菜だからぜひ使って。足りなくなったらまた言って。もってくるから」
とカゴいっぱいに入った野菜をいただきました。
お弁当をつくり始めてからも、朝起きたら玄関にお米が1俵ドーンとおいてあり、「使ってください」とだけ書き置きがあったこともありました。
日本昔ばなしの傘地蔵か!とツッコんでしまいたくなるほど、いろいろな食材を分けていただいて、お弁当をつくることができました。
(いただいた食材はこれ以外にもあと3倍くらいある)
そして、自分が住む地域の人たちが協力してくれただけでなく、他の地域でもこどもべんとうを始める動きが出てきたのです。僕が始めたときは2地域しかなかったのに、今では県内で40地域ほどまで広がっています。
多くの人と協力していく中で、みんな口を揃えて、
「何かしたいと思っていたけど、どうすればいいかわからなかった。けど、こうやって少しでも力になれることがあるのは嬉しい」
と言ってくれました。
みんなが便乗上手になると思ったより世界は平和になるかもしれない
自分なんかが何かしていいの?
それって正しく使われるの?
他の人から見たらどう思われるか……恥ずかしいし。
もしかしたら間違っているかもしれないし。
そもそも、何からすればいいのかわからない。
僕たちが、何かするのをやめてしまうのにはたくさんの理由があります。
けれど、少しでも、してあげたいな、力になりたいな。
という気持ちが芽生えたなら、それを大事にしてほしい。
何か大きな行動を起こさなければならないことはなく、
今回のこどもべんとうでみんながしてくれた、
物資の支援、SNSでの拡散、コメントやメッセージなどでの応援が、
たくさん力になってくれます。
「関心はあるけど、自分はちょっとな」でとどまらないで、
「お、いいね。それ気になってたんだよね。応援しよっと」
くらいの軽い気持ちで、いろんなことに便乗便乗便乗しましょう。
小さな「たすけあい」の心が集まることで、大きな「たすけあい」の渦になる。
そんな渦がたくさんできる世界は、今までよりもっと過ごしやすいのだろうなと思います。
(写真:カイユーヤ 編集:はつこ)
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